ドSカイザーご来店
ドアが開いて入って来たのは、なんだか諦めたような泣き笑いのような表情をした、この前割引券を渡したあんぱんと牛乳の人だった。
「あ、いらっしゃいませ!お待ちしてました」
「あ…こんにちは。やっと仕事が片付いたので、来ました。この前はどうも」
「いえ!お疲れ様です。さ、どうぞ」
席へ案内すると、気まずそうにして後ろを振り向いた。もう一人いたようだ。気づかなかった。
「沖田隊長…あの、ここです」
「ふーん。ふつーのファミレスじゃねェか」
「何を予想してたんですか!」
「山崎なんかに割引券くれるようなところだから、もっとさびれたところかと」
「失礼!俺とこの店に失礼!」
ポケットに手を突っ込んだ栗色の髪をした男の人が席に座った。上司…のようだけど。というか、服が一緒だ。作業着みたいな感じなのかな。どっかで見たことあるような作業着だよなあ…
「すいません、俺の上司です」
「こいつが世話になりやした。一応、礼をと思って」
「いえ、わざわざそんな!」
なんだ、しっかりした上司さんじゃないか。さっきの暴言は聞き違いだったのかも。お冷やを出すと、メニューを指差した。
「からあげ定食くだせェ」
「俺もそれをお願いします」
「あ、ここの代金全部お前持ちな」
「は!?ちょ、ちょっと隊長!」
「割引券あんだろィ」
「あれは俺のです!」
「だからお前が使えって」
「二人分払うなら結局安くなってないじゃないですか!」
…聞き違いじゃなかった。なんだか、うん、部下に厳しいのね。そう思いながら、厨房へ伝えに言った。
出来たてのからあげ定食を二人分お出しすると、上司さんが箸でからあげを移し始めた。
「なにしてんすか」
「お前、からあげ嫌いだったろ。優しい俺様が少なくしてやってんでィ」
「むしろ大好きですけど!?何その良い笑顔!いいかげんに…ああっいやすいません!」
見ていられなくて、減らされた方にこそっとからあげを追加してあげる。
「…!ありが」
「何やってんでィ雌豚」
「めっ?」
「余計なことすんな、奴隷になりてェのか」
「どれっ?」
あ、あれ、おかしいな、耳がなんかおかしいなあ。隣の人はツッコミも諦めて抜け殻状態だ。
「ご、ごゆっくりどうぞ…」
「あ、水おかわりー」
「おいしい…!」
水のおかわりを持って行きながら、こういう人達もいるものだ、と無理矢理納得したのだった。
ドSカイザーご来店
(お水、どうぞ…)
(ども。あ、俺沖田で、こっちはジミーでさァ)
(山崎です!!)
(…はあ)
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