ピザはいかが
「あの」
いつのまにかそこにいたお客様。目が見えないほど髪を伸ばしたお客様は、何か箱を持って立っていた。
いつ入店していたのだろう。慌てていらっしゃいませ、と言って用件を聞く。
「どうなさいました?」
「ピザの宅配に来たんだが」
「はい?」
「いや、だからピザ。ここが頼んだんだろ?」
その箱はピザだったのか。というか、うちの店がピザの宅配を頼んだなんて多分間違いだ。だって、ピザなら売ってるもの。宅配頼むなんてことするより、作ったほうがいい。
「失礼ですが間違えでは?ピザはウチは頼んでおりません」
「いや、間違いなくここのはず」
譲らない宅配の人。多少イラついて言い返した。
「ウチはファミレスですよ?ピザなら頼まなくても」
「あ、来た来たピザ!待ってたよ!」
ぱたぱたと嬉しそうに近寄って来たのは店長だった。店長かいィィィ!!
「店長が頼んだんですか!?」
「ん?あ、うん。一緒に食べるか?」
「あ、はい!食べたいです…じゃなくてっ!」
きょとんとして私を見ると、すぐにピザに視線を戻し、受け取った。空いている席に座って箱を開けると、美味しそうな匂いが漂う。
「あの、店長…なんでわざわざ頼んだんですか」
「いや、まあ、ほら、あれだ。他の店のピザも食べて、ウチのピザに改良を加えねばならんからな!」
要するに食べたいだけだと。自由人か。
「…私も食べます」
諦め半分で席につく。いいもん。もうこうなったら私も自由にやるもんね!すると、配達の人も席に座った。
「よし、じゃあ熱いうちに食おう」
「さらっと入って来た!あなたも食べるんですね!」
「まあな。うちのピザはうまいぞ」
「もういいです…」
確かに、ピザはとっても美味しかった。ウチのよりも美味しいかも。店長は頷きながら頬張っていて、参考にしているのか、あんまり考えていないのか。何にも考えてないと思うけど。
結局三人で食べ切って、配達の人は満足そうにして席を立った。
「ご馳走になったな。うまかっただろ?」
「美味しかったですけど…」
それでいいのか、配達員さんよ。帰り際、その人は私を見て言った。
「俺の名前、服部全蔵だから。じゃあな」
…なんでわざわざ名乗る。不思議なピザ屋の配達員さんでした。
ピザはいかが
(自分で配達したピザ自分で食べて帰ったよあの人…)
(でも確かにうまかったな)
(まあ、確かに)
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