「あのさー、マルコはなんで彼女作らないの?この前もナースから告白されたでしょう?可愛かったのにふっちゃって」


ゆらゆら揺れる船の上、マルコの隣で酒を飲みながら話し出す。マルコは少し面食らった後、はあとため息をついた。


「ったく…なんで知ってるんだよい。……俺は、もう女は作らねェって決めてんだよい」
「なんで?」


聞いてすぐにマルコの顔が陰ったのを見て、ハッとした。聞いてはいけないことだった。訂正する前にマルコが口を開いた。


「………俺より先に死ぬだろ。もう、一人取り残されるのは嫌なんだ、よい」


マルコは不死鳥だ。死なない鳥なんじゃない。死ねない鳥だ。親しかった奴とも、愛していた女とも、いずれ死が仲を別つ。どれだけ大切な人が出来ても、一生を共にすることはできない。そして一人残される。マルコの気持ちは本人にしか分からないが、それでも、その悲しみと絶望感は想像出来る。
今は白ひげ海賊団という、たくさんの家族がいる。楽しい家族たちに囲まれ、馬鹿騒ぎして、マルコも毎日楽しそうだ。しかし、その笑顔の裏には、不死の呪いが隠れているのだ。
数秒沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは私だった。


「……じゃあ、マルコ。私があなたと一緒に死んであげる」
「…は、」
「私が死ぬときは、マルコの死ぬとき。マルコが死ぬときは、私の死ぬとき。そうしたら、ずっと一緒。死ぬまで一緒」


マルコが私を呆然と見つめる。じっとマルコを見つめる。冗談ではない。真剣だ。


「だから、私と付き合って。好きだよマルコ」
「……んなこと、出来るわけねェだろい」
「やだなあ、私本気だよ?私は簡単には死なないからね!」


少しだけ冗談めかして怒ったように頬を膨らませると、頬を手で押しつぶされて空気が漏れて、それを見てマルコが小さく笑った。月が綺麗な夜だった。








ザンという鈍い音と共に、鮮やかな血が飛び散る。スローモーションのように、ゆっくりと崩れ落ちて行くのを他人事のように感じていた。


「xxxッ!!」


頂上戦争の最中、エースが赤犬にやられてしまった。愕然としているとその隙をつかれた。群がっていた海軍共を蹴散らして、青い炎の翼を生やしたマルコが私の元まで飛んでくる。血がどくどくと溢れ出ているようで、慣れっこのはずの鉄の臭いが鼻につき、吐き気を感じた。マルコがそうっと、しかし早急に抱き起こす。


「xxx、しっかりしろよい!xxx!」


返事をしようとして思ったように声が出ず、顔を歪める。ごぽりと口から血が出た。ゼエゼエと荒い息をつく。胸に深い太刀を受け、致命傷を負った。痛い、とても。


「少し我慢しろよい、すぐナースの所へ連れて行くからな!!」


マルコが私を抱きかかえようとする。ごめんマルコ。私もうだめみたいだ。約束したのに。


「……ご、めん……一緒に、」


一緒に、死ねなくて。
最後に見たのは見たことのない、今にも泣きそうに歪んだマルコの顔。サッチに次いでエースも死んで、私まで死んだら、マルコはまた一人だと泣くのだろうか。この上オヤジまで死んでしまったら、マルコはどうなってしまうのだろう。
ごめんねマルコ、それでも、好きだよ。だからどうか、世界を嫌いにならないで。そう言いたかったのに、もう体は動いてくれなかった。










「っていう、夢を見たの」
「まさかの夢オチ!?」


話を黙って聞いていた仕事仲間が体を仰け反らせた。リアクションが大きいのは通常運転である。
寝坊して電車を一本乗り遅れてしまい、会社に着いて仕事を慌てて始めた。やっと昼休みになり、仕事場の食堂でのランチタイムを楽しんでいるとき、今日見た不思議な夢を話したのだった。


「夢オチも何も、夢って最初から言ってるじゃん」
「いや、あまりにもリアリティあるからさ…なんか怖くない?死んで終わったんでしょ?」
「そうだけど、怖い夢でもなかったんだよね…」


怖いというよりは、悲しい夢だった。なぜか悲しかった。夢なのに。起きた時に、枕が濡れていた。


「で、誰その人?」
「知らない人」
「そうなの?ますます怖いよ」


彼女は眉間にしわを寄せてソーセージを口に入れた。私はうーんと唸ってコーヒーを飲む。何だったのだろうか、あの夢は。不思議なくらい鮮明に思い出せる。船で飲んだ酒の味も、あの時受けた太刀の痛みも。あの男の人の、笑った顔も泣きそうだった顔も。


「それより、そういえば!ねえ、聞いた!?xxx!」


彼女は急に目をきらりと輝かせて箸を私にびっと向けた。


「な、何を?」
「新しく、社員が転勤してきたらしい!遠くからしか見てないけどかっこよかったよー!」
「へえ、初めて聞いた」


髪型が印象的で、でも似合ってたし、なんかエリートっぽくて、と語り始めた。聞いていると年上のようだ。近いうち、挨拶しなければと思ったそのとき。


「そりゃ、俺のことかよい」


顔を上げると、一人の男性がニヤリと笑って立っていた。見覚えがある顔と声。一瞬で分かった。夢に出てきたその人だと。
そして、一瞬で全てを思い出した。


「……マルコ…」


隣からなになに知り合いだったのと肩を叩かれるが、耳に入ってこない。目を見開き、何度もまたたきする。


「どうして…ここに」
「不死鳥は不老不死だけじゃなくて生き返ることも出来るとは知らなかったよい」


まさかそんなことが。だってここはきっと違う世界だ。なのに、こうして再会することが出来るだなんて。
立ち上がると、引き寄せて抱きしめられた。


「xxx、これでやっと、本当に、死ぬまで一緒だよい」
「……うん」


懐かしいぬくもりは、紛れもなくあの頃と同じ。やっとマルコは呪いから解放されたのだ。この命が尽きるときは、今度こそ二人で。








君がここで泣かぬように、
あなたの終わりには優しい世界であれ





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