面倒なことになった。私は差し出された一輪の薔薇を見てため息をつく。


「だから言ってるでしょう、私はあなたみたいなナルシスト、ましてや海賊になんか興味ないから」

「いいや。キミはとても美しい…美しいぼくにぴったりだと思わないか?思うだろう!」

「思わないわね。さようなら」

「ああ、待ってくれ!」


さっき、たまたま。偶然。少しだけ。目が合っただけなのに。ずっとキザすぎるセリフを吐きながらつきまとってくる。なんですか。新手の嫌がらせですか。
私は買い物がしたいのに、こいつが目立つし邪魔するしで買い物どころじゃない。とても迷惑だ。


「ほら、キミには薔薇がよく似合う。どうだい、ぼくと一緒にランデブーでも」

「ご遠慮するわ、ついて来ないで」

「ぼくの手配書という名のブロマイドをあげよう」

「耳聞こえてる?」


すたすたとかなり早歩きで歩いているのに、なんともないように歩いている。くそ、足長いな!
ちらりと顔を見る。ムダにキラキラした笑顔だ。ナルシスト感が溢れている。顔だけは格好良いのに、中身でぶち壊してるよな…。
見せつけられた手配書には、キャベンディッシュと書いてあった。


「ぼくは美しいものが大好きでね」


またしゃべり出した。ぴた、と立ち止まる。


「私、美しくないから」


うわべを綺麗に見せたって、中身はとても醜いの。
視線を落とすが、顎をくいっと持ち上げられた。


「何を言ってるんだ?美しいよ」


そう言って、この薔薇のようにね、と薔薇に唇で触れた。


「受け取ってくれないか?」


ふっと笑ってまた差し出された薔薇は、棘がたくさんあるけれど、確かに美しい。真っ赤な花びらが私を見ていた。


「………タラシ」


私は薔薇に負けないくらい真っ赤な顔で、薔薇を受け取った。





うつくしいひと

(ぼくの仲間になっ)
(ならない)
(即答!?)

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