「あ。いらっしゃいませ、山崎さん!」

「こんにちは」


張り込みの時や時間がある時、行きつけのコンビニ。
いつのまにかバイトの女の子と仲良くなって、名前も知らないけど、その子の事がちょっと気になっている。
その女の子が今日も出迎えてくれた。営業スマイルとは思えない眩しい笑顔でいつも癒されている。ちょうど俺しか客がいない。バイトの子と二人きりじゃん、なんてひそかにドキドキしながらカゴを手に取り、いつもよりゆっくりと店内を歩き陳列棚を眺める。

今日はちょっと贅沢しちゃおう。いつもなら選ばないようなイチゴムースを手に取った。
普段ここで買うものといえば、あんぱんと牛乳が主で、時々副長の煙草やガムくらいしか買わないけれど、今日は違う。カゴの中には、甘いデザートやちょっと高級なサンドイッチ、駄菓子なんかがいくつも入っている。
なぜなら今日は、二月六日。自分の誕生日だから。自分への、いつものご褒美だ。
そしてこのコンビニに来た理由は、ご褒美を買うためだけじゃない。もう一つ、理由がある。
誕生日を祝ってもらえなくてもいい。この子の笑顔を見たかったんだ、どうしても。


「あら、今日は豪華なんですね。どうかなさったんですか?」


レジでバーコードを読み取りながら、楽しそうに聞いてくる。


「今日は誕生日なんで、ちょっとくらい贅沢をと思って」

「本当ですか!?それはおめでとうございます!何かお祝い…」

「いやいやっ、おかまいなく!」


そんなつもりで言ったんじゃない。慌てて首を振るけど、バイトの子は会計を済ませるとレジを出てパンコーナーに走った。


「お待たせしました。何にも用意していなかったのですけれど…これ、どうぞ」

「そんなっ。いいですよ、売り物でしょ?」

「いいんです、おごりです。私からの誕生日プレゼントです」


そう言って渡して来たのは。
あんぱんんんんんん!
見飽きたパッケージの、あんぱんだった。いや、実は昨日まで張り込みだったんだよね。まさかのォォォ!


「いつもあんぱんを買っているから。お好きなんでしょう?」


清々しいくらいににこにこ笑うその子。いやいや、退。贅沢を言うな。この子に祝ってもらえて、さらにプレゼントまでもらえたんだからこれ以上ない嬉しい事じゃないか。


「…ありがとうございます。嬉しいです」


はにかんで、あんぱんを手提げ袋へ入れた。


「ご来店ありがとうございました!また来てくださいね。待ってますから、私」


普通の客にはそんなこと言わないよね?期待してもいいのかな。
その日のあんぱんは、いつもよりずっと美味しく感じた。




こんびにろまんす

(山崎…誕生日にまであんぱんかよ)
(これは特別です!)

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