郵便が届いた。受け取った私は目をぱちくりさせる。今日だけで十数個目だ。


「あの、サー。何かお荷物がたくさん届いています…」


私が秘書を務める社長サー・クロコダイルへ報告をすると、煙草を咥え、ソファに腰掛けるサーはめんどくさそうに言い放った。


「ああ…適当に置いておけ」
「何かあったんですか?どれもすごく豪華な包みですけれど…」
「今日は誕生日だからな」
「どなたのですか?」
「俺のだ」
「…………え」


ポカンと、口を開ける。今日がサーの誕生日だなんて、全く知らなかった。ということは、これはサーを英雄と讃える国民からの贈り物だろう。


「何マヌケ面してやがる」
「ぞ、存じておりませんでした」
「だろうなァ」


贈り物の中には花束も混じっている。サーに花を贈るだなんて、分かっていない。サーが万物を枯らす能力を持っていることをちゃんと知っていれば、花を贈り物に選ぶことはまずないだろう。
私も、秘書として何かサーにプレゼントをすべきだろうか。今から何か買いに行くか…、いや、買いに行くヒマはない。でも、どうにかしてお祝いをしたい。他の誰でもない、サーの特別な日なのだから。私はサーを、ひっそり、こっそりと、敬愛しているのだ。
ならば何か手持ちの物でプレゼント出来そうなものは、と考えたとき、ふとテーブルに投げ出された本が見えた。私の読みかけの本に挟まれたそれをさっと抜き取る。これなら。いや、でもこんなもの。心の中で数秒葛藤したが、ええいままよとばかりにサーを振り返り、勇気を振り絞って声をかけた。


「…さ、サー!」
「何だ、うるせェな」
「……、これを…!」
「あ?…何だこりゃあ……押し花?」


手渡すそれを受け取り、目の前に提げてじっと見る。お怒りに触れないだろうかとドキドキしながら頷いた。


「つい最近私が手作りした押し花の栞です、私からのお誕生日プレゼントと言いますか…、使っていた物を贈るなんて失礼なのは承知ですがあのっ、何しろ用意していなかったのでこんなもので…!!でも、これなら、サーが触った時に誤って枯らすことも無いかと……」


早口で喋った後、いかがでしょうか、とびくびくしながら聞く。ああ、やはりまずかっただろうか。もしお怒りに触れたら、私は今日にでもクビだろう。殺しまではしないだろうが、枯らすと脅されることなんてしょっちゅうなので、いよいよ枯らされるかもしれない。


「…クハハ。枯れない花か」


しかし。想像とは裏腹に、サーは笑った。それも、いつものような嘲笑ではなく、普通に。あたかも、プッと小さく吹き出したときのそれに似ていた。私は目を見開き、サーを見つめる。


「フン、受け取ってやる」
「……あ、ありがとうございます、サー」
「何でお前が礼を言う?」
「受け取ってもらえるとは、正直思っていなかったので…!」
「お前の思いつきを気に入った」
「…気に入ってもらえて嬉しいです」


怒るどころか、気に入っただなんて。あのサーが。嬉しくて心があたたかくなるのを感じながら、それから、と言い足した。


「お誕生日おめでとうございます、サー」
「…あァ」


今日のサーはよく笑う。ほんの少し、僅かにだが、浮かべた確かな笑みを見て、私も自然と笑顔になった。
サーは栞を気に入ったようで、しばらくぷらぷらと目の前にぶら下げて見つめていた。


「それにしても、地味な押し花なこった」


サーがそう言ったのを聞いて、むっとして言い返す。その栞の押し花は確かに、花開くような華やかさには欠けるが、色は鮮やかで可愛らしく、気に入っているのだ。


「地味なんかじゃないですよ!立派に色づいて、可愛いでしょう?ケイトウって言うんです、花言葉は、」


そこまで言ってから、ふと気がついた。このケイトウの花言葉。それはまさしくサーに____私に似合いの言葉で。


「花言葉は?何でそこで止める。言え」
「わ、忘れました…!」


慌てて隠そうとするが、サーに嘘は通じない。元から嘘をつくのは下手くそな私。その上、赤くなった顔を隠すことはできなかった。


「嘘は良くねェな。隠すことでもねェだろう、言え」
「……、うう。花言葉は___」






色褪せぬ恋


クハハ、とおかしそうにサーが笑った。

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