これの続編




ゾロに”誘拐”された子供___おなまえは、成り行きで麦わらの船に乗船することになった。乗船して日はまだ数える程度しか経っていないが、船の環境には早くも順応してきたようだった。


ウロウロ、ウロウロ。トコトコとあっちに行ったりこっちに行ったりを繰り返すおなまえを見かけたロビンが声をかける。


「あら、どうしたのおなまえ。何か探し物かしら」


やっと足を止めて、大きな目をぱちくりさせて、ロビンを見つめる。ロビンは屈んで目を合わせ、微笑んでいる。おなまえは答えた。


「ゾロおにーちゃん、どこ?」


どうやらゾロを探して彷徨っていたようだった。


「ゾロなら、トレーニングルームにいると思うわ。連れて行ってあげましょうか?」


こくんと頷いたおなまえの頭を優しく撫でてから、その小さな手をとってゆっくりと歩き始めた。




「…で、連れてきたのか」
「ええ。お邪魔だったとは思うけど、かわいいおなまえのお願いだもの」


不満そうに眉根を寄せたゾロはダンベルをあげている最中だった。ダンベルの大きさにぽかんとしているおなまえの頭を撫でて、邪魔しちゃだめよ、と言い残してロビンは去っていった。


「ったく。何しにきたんだ」


どしん、とダンベルを下ろしてタオルで汗をふく。おなまえに配慮して少し加減して下ろしたつもりが、それでも大きな音がしたのでおなまえはびくりと肩を跳ねさせた。しかし怖がる様子はなく、けろりとした顔で寄ってきてダンベルを触った。


「ふわー。おおきい!」
「………」


いやだから、会話のキャッチボール。呆れたようにため息をつくと、突然おなまえが言った。


「わたしもする」
「はあ?無理だろ。潰れんぞ」
「…じゃあ、みてる」
「だから何しに来たんだよお前。俺は遊んでやんねェぞ。つまんねえだろ、ルフィと遊んでこいよ」
「つまんなくないもん。ここがいい」


おなまえはすとんと腰を下ろすと体育座りをした。ゾロは相変わらずおなまえの言動は理解できなかったが、なぜか異様に懐かれていることは理解した。どう接すればいいか少し迷ったが、面倒くさくなって構わずトレーニングを再開することにした。


「1、2、3…」


数えながらダンベルを上げ下げとしていると、最初だけふわあ!とよくわからない歓声を上げたが、おなまえはきちんと黙っていた。邪魔はしないようにとの言いつけを守っているのはいいが、正面から目を輝かせながらこうも見つめられていると、とにかくやりにくいことこの上なかった。たかがガキに動揺するなんて修行が足りねェな、と思ったゾロは集中するために出来るだけおなまえを見ないようにしていた。


「56、57、」


しかし、途中でちらりとおなまえを見たとき、ばっちり目があってしまい、その拍子に数えていたのを忘れてしまった。


「……55、56…」


また何事もなかったかのように数え始めたのだが、おなまえがすかさず言った。


「ちがうよ。57までかぞえた」
「……いいんだよなんでも。58、59、」
「またまちがったらいけないから、わたしがかぞえてあげる」
「余計なお世話だ!」
「つぎは60だよ」


ゾロははあとため息をつき、諦めて数を数えるのをやめて再開した。おなまえはきちんと間違えることなく数えていく。100までいってから、ダンベルをおろして座り込み、汗をふくためにタオルを探すと、おなまえが落ちていたタオルを拾って差し出した。


「はい」
「…おう」


受け取って汗を拭いていると、おなまえは目の前にしゃがんで不思議そうに首をことりと傾げた。


「なんでそんなにがんばるの?」
「強くなるためだ」
「つよく、って、なんで?」
「自分の野望を叶えるためだ」
「やぼう?」
「世界一の剣士になるんだ、俺は」


ゾロはニヤリと笑った。どうだすごいだろう、とでも言いたげに。おなまえはゾロの期待通り、せかいいち、と繰り返して目を輝かせた。しかし、次は予想だにしない言葉がその口から出てきた。


「わたしもなる!」


数秒沈黙して、心底呆れた表情で聞き返した。


「ハア?お前がか?」
「かっこいいもん。せかいいち、の、けんし」
「剣士、の意味、分かってねェだろ。剣で戦うんだぞ、痛ェし怖ェ」
「そんなのしってるよ、でも、ゾロおにーちゃんみたいになりたい」


無垢な子供からそう言われて、拒絶する奴などこの世にいるのだろうか。ゾロは少しだけ言葉に詰まって、言い返した。


「…そうかよ。でも残念だな、世界一の剣士には俺がなるからお前はなれねェ」
「じゃあ、おとこのせかいいちはゾロおにーちゃん。おんなのせかいいちはわたし。そしたらいいでしょ?」


ゾロは、子供の戯言だなと鼻で笑う。かっこいいというだけで目指すほど簡単な夢ではないのだ。第一、こいつはまだ幼い。ただ、思ったことを口に出してみただけだろう。
しかし、自分の夢をかっこいいと思われたこと、そして自分も目指したいと思われたことは悪くない。それに、とゾロはかつての幼馴染の姿を思い出した。くいなの夢を、こいつと俺が。ふっと口角を上げ、言った。


「そこまで言うなら、お前がもっとでかくなったら、剣の使い方を俺が教えてやってもいいぜ」
「ほんと?」
「あァ。お前が本気でやるならな。ただし、甘くはねェぞ。今のお前じゃぶっ倒れるかもな」


牽制したつもりが、逆にスイッチを入れてしまったらしく、おなまえはすっくと立ち上がりガッツポーズをした。


「よーし!わたしもくんれんする!つよくなる!」


爛々とした目でゾロを見る。ゾロはいらないことを言ったかと後悔しかけたが、まあこれも面白いかとタオルを放り投げ、水分補給のための水を入れていたペットボトルをおなまえに投げて渡した。


「お前はコレからだ」
「うん!ししょー!」
「もう弟子気取りかよ」


そう言いつつも、満更でもなさそうなゾロは立ち上がり、おなまえの隣でトレーニングを再開したのだった。







数年後、ある晴れた日の午後のこと。

「師匠〜〜!見てー!!」


おなまえは仕留めた海王類の上で船に向かって手に掴んだ愛刀をぶんぶんと振る。甲板でそれを見ていたゾロはニヤリと笑う。


「まだまだ弱っちいな。そんな雑魚に手間取ってちゃ、世界一は程遠いぜ」
「む!…つ、次は10秒でやってやるんだから」
「ほォ、言ったな?10秒だぞ。威勢だけは褒めてやるよ」
「わ、わかったよ。次もちゃんと見ておいてね、師匠!」


おなまえは無邪気に笑う、その笑みは幼い頃と何も変わらない。それを遠巻きに眺めていたナミ達は笑顔がひくりと引きつっている。


「ねえ、いつの間にこんなことになってるわけ?どこで道を間違ったの?あのかわいかったおなまえはどこに行ったのー!?」
「まさかこんなことになっちまうとはな…」
「諦めろ、ゾロが剣を教えるって言い出した時から薄々予想はしてた…」
「くす、頼もしいじゃない」
「末恐ろしいわよ、全く……!!」


麦わらの一味の幼かった少女が剣士として名を轟かせる日も、そう遠くはない。






マシュマロ行進曲

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