この捜査本部には、とある大きな謎があった。


「こんにちは〜。Lいますか?」


おなまえと呼ばれている可愛らしい女性なのだが、誰も部外者は立ち入りできないこの部屋に彼女が出入りしていることだった。
俺は最初、彼女はLの助手なのか、とか、もしかしてFBIの一人なのだろうか、などと勘ぐっていたのだが、どうも違うらしい。ワタリさんに聞いたところによると、彼女は、ただの一般人。Lの唯一の、れっきとした友人なのだとか。どのような経緯で友人になったのか気になるところだが、その辺りはワタリさんは、笑って成り行きですと言った。気になる。
入るなり、俺たちにお疲れ様ですと笑顔で労いの言葉をかけてくれ、ぺこりと会釈をする。ああ癒しだ。オアシスだ。


「頼んでいたものは持って来てくれましたか?」


画面と向き合っていたLが、すばやく振り向きおなまえさんに言う。おなまえさんは紙袋をLに手渡す。


「これ。頼まれてたやつ、手に入れると大変だったんだからね!」
「ありがとうございます」


その様子を遠巻きに見ていた俺と相沢さんはこそこそと話し合う。


「もしかして、捜査に重要なアイテムじゃないすかね…!やっぱり、おなまえちゃんはLの協力者なんですよ!」
「ああ…じゃないと、一般人なんてここには入れないよな。どれだけ信用してても、用心深いLのことだからな…」
「ですよねえ」


Lが何を紙袋から取り出すのかと期待していると、可愛らしい小さな瓶だった。拍子抜けして凝視する。


「頼まれてたティラミス、例のお店の。長い行列にわざわざ並んで買ってきたんだからね、ちゃんと味わって食べてね」
「おいしそうですね」
「だよね!」


キラの件で張り詰めていた空間の中、そこだけがのほほんとした空気になる。す、スイーツかよ。と思ったのは俺だけではないはず。
おなまえさんはくるりとこちらを向くと、紙袋を胸の前に持ち上げにこりと笑った。


「あ、せっかくなので皆さんの分も買って来たんです!どうぞ!ティラミスです、甘いものお嫌いじゃないといいんですが……」
「もちろん食べますっ!」
「よかった。どうぞ、ご自由に」


俺が真っ先に手をあげ、椅子に座ってテーブルに並べられたティラミスを一つ取る。小さめのオシャレな瓶に詰まったティラミスは、外側からの見た目でも楽しめるようなつくりになっていた。可愛いでしょう、と言う貴方が可愛いですよおなまえさん。


「すごくおいしいです」


Lが独特のスプーンの持ち方でティラミスをすくい、頬張っている。おなまえさんはそれを聞いて嬉しそうにして、それからいそいそとLに近寄る。


「L、一口ちょうだい」
「何でですか、ダメです。これは私のです。そこにたくさんあるでしょう」
「あれは皆さんのだもん」
「じゃあ、ワタリからもらえばいいでしょう」
「ワタリさんのはワタリさんのだもん」
「……仕方ないですね」


諦めたようにため息を一つついて、スプーンに一口分すくっておなまえさんに差し出した。俺と相沢さんが顔を見合わせる。まさか、と思うと、おなまえさんが躊躇なくパクリと口に入れた。


「んん〜、おいしい!」
「はい、もう終わりです」
「ええ、あと一口!お願い!」
「ダメですってば」


スプーンの奪い合いが始まったのをぽかんとして見ていた。ぽつりと呟く。


「あの二人ってもしかして……」
「そのようだな……」
「ホホ。違いますよ」
「え!?」


声の方を振り向くと、ワタリさんがティラミスを食べていた。クスクスと笑いながら言う。


「お二人はただの友人ですよ」


どこからどう見たら、あれが”ただの友人”どまりなものか。どう見ても____恋人同士のそれにしか見えない。


「今度は、駅前通りのミルフィーユをお願いします」
「はいはい。どんだけ食べても太らないって本当に羨ましい!」
「おなまえさんも頭を使えば太りませんよ」
「そんなのLだけよ」


あっという間に食べ切ってしまったLは、丁寧にスプーンでかすを取り、名残惜しそうにしている。おなまえさんは呆れたようにそれを眺める。俺はおそるおそる、尋ねてみた。今世紀最大の謎を。


「あの、L、質問していいですか?」
「何ですか松田」
「おなまえさんは、どういうポジションなんですか?」
「ポジション?」


おなまえさんがぱちくりする。俺は頷く。それから、質問の意味を理解すると、あははと笑って手を否定するように振った。


「私は遊びに来てるだけです。ただの友達です、ね、L」
「…………」
「…何その不満そうな顔」


Lはじとりとおなまえさんを見て、ほんの少し拗ねたような表情を見せた。珍しい、こんな表情をするなんて。人間らしい所もあるじゃないか。


「…強いて言うなら、お菓子調達係ですかね」
「お菓子調達係?」
「すごく重要な係ですよ。ワタリの仕入れるお菓子より、珍しくておいしくてやる気が上がります。推理力も30%アップです。キラの特定が早く進んでいるのも彼女のおかげと言っても過言ではありません」
「…私ただパシられてると思ってたんだけど…そんな重要な役目だったなんて」
「ええ、ですから今後もお願いしますね、おなまえさん」
「パシリの理由をこじつけてない?パシリを正当化しようとしてるよね?」
「そんなことありませんよ。それに、来るなと言ってもどうせ来るんでしょう?」
「まあね。だってLとおしゃべりするの楽しいし!」
「……そうですか」


前言撤回だ、恋人同士なんかではない、Lの一方通行のようだ。おなまえさんは少々鈍感らしい、それから無邪気で純粋。
Lも普通の人間だったんだなあとすごく親近感が湧いて、ちらとこちらを見たLにファイトの意味を込めてグッと親指を突き出すと、角砂糖を剛速球で投げられた。






角砂糖が食べたい

title by魔女

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