王下七武海とは、世界政府によって公認された7人の海賊たちだ。召集があっても全員が揃うことは滅多になく、たとえ揃った所で力を合わせることはまず考えられない。
それだというのに、これは一体どうしたことだと、俺は目を疑った。召集がかかって次の日には、もう7人が全て集結しているだなんて、これは夢か。俺が給湯係になってから初めての快挙だ。快挙なのだが、心底気味が悪い。いっそ怖い。


「来てやったっつーのになんでおなまえチャンはいねェんだよ、あァ?」
「おなまえを出せ、来たくもねェところにわざわざ来てやってんだぞ」
「的を射ている…」
「なんじゃ、おらんのか?」
「いないなら帰るが…いいか」
「わらわのっ、わらわのおなまえはどこじゃ!!」
「キシシ、給湯係は呼んでねェよ!!」


怖すぎるもう俺死ぬかも。何がここまで彼らを動かしているかと言えば、たった一人の女性なのだ。俺は一刻も早くこの場から逃げたい気持ちに駆られながらも、後ずさりしつつ何とか言った。


「で…ですから!おなまえさんは今、仕事で遠征に行っておられて、帰りが予定より遅くなるらしく…!!!予定では今日の召集に間に合うようにと、昨日の到着だったのですが…!」


そう言うと、七人の世界に名を轟かす海賊たちは一斉にため息やら舌打ちやらをかました。

おなまえさんは、しばらく前にセンゴクさんから直々に名指しで秘書役になられたお方で、それはもう美人だ。スタイルも抜群、さらには仕事もバリバリ出来る。なのにそれを鼻にかけた感じは一切なく、朗らかでフレンドリー、相手が大将だろうと七武海だろうと誰にでも気さくに接する。そこが気に入ったのか、いつの間にやらこんなに大人気だ。
これまでにも確か、”鷹の目”ミホークとスイーツを食べに行ったとか、女帝ハンコックとアマゾン・リリーに遊びに行ったとか、クロコダイルと食事に行ったと思えばモリアからツギハギのぬいぐるみをもらったり、そんな話が後を絶たない。ドフラミンゴに攫われかけた事件もあった。返り討ちにしていたが。何をどうすればこんなにも好かれるのか、それはおなまえさんの人柄なのだろうが、何か悪魔の実の能力があるのではないかとさえ思ってしまうことがあるほどだ。


「ったく、おなまえがいねェなら帰るぞ」
「お、お待ちを!センゴク元帥とおつる殿がそろそろいらっしゃるので…!!会議が!」
「早くしろよ。こっちは時間を割いて来てやってんだぞ」


おなまえさんがいないと知った途端にこの機嫌の悪さだ。何でおなまえさん来ないんだよ早く来てくれよ…!!いやそれより元帥たち早くゥゥ!!


「待たせたな、なにせお前たちがこんなに早く到着するとは思っていなくてな…!!」
「少し早いが…始めるとするかい。なんだい、せっかく珍しく皆集まったっていうのに機嫌が悪いようだねェ」


やっと入ってきた元帥とおつる殿が目を見張り、前に立つ。渋々と言った様子で用意された椅子に座る。その不服そうな顔と態度と言ったら。給湯係の役目を果たさねばとびくびくしながらお茶を差し出すと、ぎろりと睨まれた。こ、こわい。海賊コワイ。


「今回の議題は……」


元帥が書類を手に話し始めたちょうどそのとき、ドタドタという足音が聞こえてきた。扉が開け放たれ、待ちわびた姿が現れた。


「遅くっ、なりました!すみません!!まだ始まってないですよね!?えっえっ皆来てる!?何事!?」
「「おなまえ!!」」


見事に声が、そして席を立つ音がハモった。おなまえさんに群がるデカい人たち。うわあキモ…いや何にも言ってない。ハンコック殿だけは相変わらず美しい。


「遅いぜおなまえチャン、待ちくたびれたぜェ。フッフッフ!」
「わらわのおなまえに汚らわしい触れるでないドフラミンゴ!!これだから男は!!」
「おなまえ、土産を持ってきた」
「とりあえず落ち着け貴様ら!!」


叫んだ元帥の言葉なんて全く聞く耳を持たない。なんだこいつら自由人か。皆さっきまでの不機嫌はどこへ行ったのか、いきいきしている。おなまえさんパワーえげつねェ。当のおなまえさんは困惑した表情だが笑顔だ。扱いが慣れている。


「何なの皆して…こんな早く、それも全員来てるとか…気持ち悪いな!いや良いことなんだけどさ。私に会いに来たとか?いやー照れます」


えへへと笑うおなまえさんを見て癒されているのは俺だけじゃないはず。口々に肯定を述べると、目を丸くしてからさらに笑みを深くした。もう天使。


「いやそれより!会議だよ会議!話は後!やりましょうセンゴク元帥!皆座って!」
「おなまえが言うなら……」
「仕方ねェな」


そう言ってあっさりと座った。元帥はホッと息をついて、再び会議を始めた。何この安堵感。おなまえさん偉大。

しかし、会議の途中、質疑応答でドフラミンゴが手をあげた。


「何だドフラミンゴ」
「おなまえチャン、今度デートしようぜ」
「お断りしまーす」


会議に全く関係ないことだった。そしてそれを受け流すおなまえさんのスルースキル。さすがだ。
今度はスッとミホークが手を上げた。嫌な予感しかしない。


「おなまえ、土産は今回はフロランタンだ」
「おおっ!さすがミホーク、わかってるね!前回のエッグタルトも美味しかったなー」
「わらわも!わらわもおなまえに土産を持ってきたのだぞ!ほら!!」
「わあ、かわいいネックレス!ありがとうハンコック!」
「礼などいらぬ、かわいいおなまえのためだ…!今度また食事にでも行こうぞ!」
「残念だったなボア・ハンコック、今度の休日は俺と食事の予定が入ってるんでな。なァおなまえ」
「そうそう。ごめんねハンコック、また今度行こう」
「何をうクロコダイル…!調子に乗るでないぞ!!」
「待て待て食事ィ?抜け駆けしてんなよ鰐野郎。俺とも行く予定だ、なァおなまえチャン」
「いやドフラミンゴと食事の予定なんて全くないけど」
「つれねェなあ、フッフッフ!!…ん?なんだくま」
「おなまえ、これを…頼まれてたやつだ」
「あー!ありがとう、くま!”世界大百景”ほんとに持って来てくれたのね!」
「容易い願いだ」
「んだそりゃァ」
「写真集。これなら旅行する時間がなくても旅行した気分になるよね!」
「単純な奴だ。…まあそこが良いんだが」


いやあんたらの頭の中おなまえさんでいっぱいか!!いや聞くまでもなかった。それは知ってた。
元帥もおつる殿もため息をついて、もはや諦めている。まあ、大事なところは伝え終えたようだし、とりあえずはひと段落ついたところか。これ以上会議が進むことはなさそうだ。給湯係ももう用無しだろう。お暇しよう。
とりあえず今回一つわかったことは、おなまえさんで世界って平和になる気がするということだ。






僕達みんな、キミのトリコ!

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