がららと扉を開けて、土方さんがお店にご来店した。
私が働くこの店は屯所の近くの団子屋である。見廻りの途中の真選組の方が休憩だったり見廻りの一環としてだったりでよく立ち寄られる。土方さんも時折ではあるが立ち寄り、変わりはないかと治安を確かめてくださる。だから普段ならば仕事の隊服で来るのに、今日は珍しく隊服ではなく着流しである。煙草もくわえずにどうしたのかと近寄る。


「いらっしゃいませ土方さん。着流しなんですね。今日はお仕事ないんですか?」


土方さんはふと笑って答えた。


「ああ、休みをもらった」

「それは良かったですね!毎日忙しそうでしたから」

「本当は今日も忙しいんだがな。毎年、今日だけは仕事が溜まっていても休みなんだよ」

「へえ、どうしてですか?」

「今日は俺の誕生日だからだ」

「へえ、たん……誕生日!?」


私は手に持っていたおぼんをうっかり落としそうになった。危ない。それくらい驚いたのだ。まさか今日だとは。


「そこまで驚く必要ねェだろ」

「いや、だって…!もっと早く教えて欲しかったです!そしたら、プレゼントを用意出来たのに!」

「いらねェよ、プレゼントなんて。そんなモンより、団子くれ。今日は客として来たんだからな」


土方さんはカウンターへ座ると、みたらし団子とよもぎ団子を注文した。土方さんはいつも仕事に熱心で忙しい方だから、こうして客として団子を食べていくのは初めてだ。少し緊張しながら、団子を準備する。


「でも、土方さん。せっかくのお誕生日、こんな団子屋で過ごしていいんですか?」

「どういう意味だそりゃ?俺はここに来たかったから来たんだが」

「いえ、嬉しいですけれど…」


その、と言葉を濁す。言わなければよかったかと思い直し、やっぱりいいですと言おうかと思ったが、土方さんはじっと私を見て続きを待っている。視線をそらしながら、曖昧に言った。


「その、彼女さんと一緒に過ごさないでよろしいのですかと」

「はァ!?馬鹿かいねェよ!」

「そ、そうなんですね、失礼しました…土方さん素敵な方なので、てっきりいらっしゃるのかと」


あははとごまかして笑いながらお茶を出すと、土方さんはそれに口をつけながら言った。


「…誕生日はお前と過ごしてェと思ったからここに来たんだ」


一瞬思考が止まった。だんだんと頬が熱くなる。待て待て私、勘違いは良くない。土方さんは優しい方だから、そう言ってくれているだけで、目的は団子である。団子を食べに来たのだ。


「……あ、ありがとうございます…」

「…おう」


なぜか沈黙が流れる。き、気まずい…。話題を探しながら団子を皿に乗せたところで、あることを思いついた。思いついた自分に拍手したい。


「お待たせいたしました、どうぞ」

「あァ…って、頼んでないモン乗ってんぞ」

「それは、私からの誕生日プレゼントです!そんなもので、申し訳ないんですが…」


みたらし団子とよもぎ団子の隣にあるのは、柏餅である。独特の香りがふわりと漂う。柏の葉に包まれたなめらかな白餅が顔を覗かせている。
こどもの日といえば柏餅だろう。こんな甘味が誕生日プレゼントだなんて失礼だったかもしれないが、今用意できる最適のものといえばそれくらいのものだ。ささやかすぎるプレゼントだが、美味しさは保証済みである。
土方さんはぱくりと一口食べ、みょんとよく伸びる餅を頬張る。咀嚼しながら、もごもごと言った。


「うめェ」

「それは良かったです!」


美味しそうに食べる様子を見ていると、こっちまで嬉しくなってしまうというもの。にこにこと眺める。


「…これ、もう一つ、頼んでいいか」

「あ、はい!わかりました!」


よほど気に入ったのだろうか。違う皿にもう一つ柏餅を用意すると、土方さんはにっと笑って指をさした。


「それはお前にやる。隣に来て食べろ」


皿を持ったままきょとんとしてから、首をぶんぶんと振った。


「え、私ですか…!?いや、そんな!仕事中ですし…!それに、お客様からおごっていただけません!」

「どうせ今は俺以外に客いねェだろ。それともなんだ、俺の買った餅は食えねェってのかァ?」

「そ、そういうわけでは…!」


おろおろしていると、いいから来いと隣の席をトントンと叩かれ、しぶしぶ隣に座った。逆にプレゼントをいただいてしまうなんて…よいのだろうか。そう思いながらもかじったお餅は本当に美味しくて、味を堪能する。


「うめェだろ」

「はい。美味しいです!」


肩を並べて餅を頬張りながら、他愛ない話をしてくすくすと笑う。それはとても楽しいひとときだった。
来年はちゃんとしたプレゼントを用意しておこう、何がいいだろうかなんて、早くも来年のことを考えた。






それは甘くささやかな

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