ああ、ついにこの日が来てしまった。私は頭を抱えた。


「どうするの、おなまえ」
「ど…どうしよ、クリスタ」


めんどくせェな、とユミルが頭をかく。そしてさもめんどくさそうに私に言った。


「ジャンに一言言うだけだろうがよ。誕生日おめでとう、好きですってよ」
「うわああああうるさいってばユミル!!」
「お前の方がうるせェよ!!」


ユミルはいとも簡単に言うけれど、私にそんなことが果たして出来るのだろうか。いや出来ない。いつも犬猿の仲の私とジャン。顔を合わせれば言い合いしか始まらない。本当は仲良くなりたいのだが、素直になれず全くうまくいかない。
事の始まりは訓練兵になってから程ない頃、ジャンの馬が私に噛み付いてきたことで喧嘩が起き、それ以来ずっとこんな感じなのだった。
ジャンの誕生日である今日くらいは、せめて一言、お祝いと気持ちだけでも。そう思っているのだが、なかなか行動に移せず。相談相手のクリスタにこうして泣きついているところなのだった。


「ううううどうしよう言えない」
「分かった、良い案があるよ!おなまえ!」
「クリスタ、こんな奴ほっとけばいいんだよ」
「ユミルも協力して!アレ持って来て」
「アレ……アレか」


ユミルはニヤリと笑って楽しそうに部屋へ行った。めんどくさそうにしていたユミルがああも楽しそうになったなんて、何かとんでもないことを企んでいるのではないか?しかしクリスタは安心してと笑顔で私の肩を叩いた。ああ女神。
そして持って来たのは、お面だった。馬の。


「ほらよ」


いや、ほらよと渡されたって。どうしろと?これを着けろと?まさかこれを着けて言えとでも言うのではあるまいな。これ着けて告白なんて恥さらしでしかないんだけど!


「これを着けて言えば、きっとおなまえだと気づかれないでしょう。そしたら恥ずかしがらずに言えるはずだよ!」
「顔を見られなければ恥ずかしがることもねェしな」


きらきらとした女神の微笑みと面白がっているようにしか見えない悪魔の微笑みが私を挟む。だらだらと汗を流しながらごくりとつばをのんだ。


「え、えーと…これは…」
「あ、ジャン!」
「よし言って来い!」


通りがかったジャンをクリスタが引き止め、ユミルが私の背中を押した。思わずお面をかぽっとはめてジャンの前に出た私。なんて滑稽だろうか、ジャンはお腹を抱えて笑うだろう。涙目である。


「…はあ?なにしてんだお前?馬の面なんかしやがって…喧嘩売ってんのか?」


えーいままよ、どうにでもなれ!
目をぎゅっとつぶって、真っ赤になっているであろう顔を見られないことをせめてもの救いということにして口を開いた。


「た!誕生日おめでとうっ」
「お、おう」
「それと!それと…っ、」
「………」
「ずっと前から、」
「待った」
「…は?」


ストップがかかるとは思っておらず、お面の下できょとんとジャンを見上げる。ジャンは私のお面をゆっくりと外した。


「続きは、これ無しで、お前のありのままで聞きてェ」


にっと笑うジャンをお面ナシの視界で見る。誰ですかあなた。私の知ってるいつも喧嘩ばかりしているジャンとはかけ離れていて固まってしまう。続きは、と催促されて、小さな声で呟いた。


「す、き、です……」


言い終えるなりジャンは満足そうにニヤリと笑って、私の頭をぽんぽんと叩いた。


「ったくお前、やっと言いやがった!めんどくせェヤツだよ、本当に」
「…!!へ、返事は!!」
「俺もだよバーカ」


口をぱくぱくさせながらジャンのしたり顔を見つめる。もう、本当に、こいつは。


「ジャンのバカ!!馬面ーっ!」
「本当の馬面はお前だろうがバカおなまえ!」


いつもと同じ言い合いも、今日はいつもと全く違う。ジャンのお腹にパンチをすると、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。いちいち顔が熱くなってしょうがない。素直になるのはもう当分遠慮したい。






天邪鬼ラブソング



title by魔法瓶

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