リヴァイ兵長の少し小さな背中は、私にはいつだって大きく見えて、本当に翼があるようだった。
立体起動を使いこなして鳥のように飛び、華麗に削ぎ落とすその姿は、鮮やかな赤が散ってすごく美しい。
でもその翼は、いつのまにか赤く紅く染まってぼろぼろになっていたんだ。誰も知らない、分からないところで、人知れず汚れていった。人類の希望や期待、仲間の死、全てを背負って、それでもなんでもないような涼しい顔でいた。本当は叫んでいたんだ、泣いていたんだ。
なんで分からなかったんだろう、分かってあげられなかったんだろう。私は兵長のそばにいながら気づきもせず、兵長は強いからと安心していた。
どこが強いんだ、こんなにも脆い。血みどろボロボロになった兵長を見つめて思う。兵長だって本当は、こんなにも弱いのに。


「……………へい…ちょう………」


未曾有の危機に瀕した兵団を守るため、巨人の群れの中一人突っ込んでいった兵長。どうしてこんなことに、どうして、どうして、兵長がこんな目に。美しく、大きく、何よりも自由だった翼はいつのまにか鎖で縛られ、重さに耐えかねて折れてしまった。悲しくて哀しくて、自分が情けなくて悔しくて、涙が止まらない。兵長の赤く染まったスカーフが濡れていく。
壁外でありながら、なぜか、私と兵長の周りには巨人は集って来なかった。哀れに思って、今だけはと見過ごしてくれているのかもしれない。


「…………おなまえ……、」


兵長の視点が私を捉える。ひゅーひゅーと息の漏れる音。掠れた声が私の名を紡いだ。


「兵、ちょ、しゃべらないで、今、団長を…医療班を呼んで来ますからっ」

「……いらねえ…………」

「そんな……っ」


でも、でも、それじゃあ兵長が…
兵長は辛そうにしながら、私を見つめる。


「………………ひでぇ面だな」


ぐすん、と鼻をすすり、ごしごしと目をこする。しかし、意味なんてない。またとめどなく流れていく。


「兵長、…ごめんなさい、ごめんなさい………」

「なんで……てめえが謝る……」


答えず、ごめんなさい、と繰り返す。一人でこんな場に残さなければ、団長を説得出来ていれば、兵長の重荷に気づけていれば、重荷を少しでも代わってあげられていれば。
こんな未来ではなかったかもしれない。


「……俺ももうお役御免だな。もうちっとも動きやしねえ」


そう言った兵長の腕を掴む。


「あ、諦めるんですか……!?弱気じゃだめです。いつもみたいに、こんなもんで死ぬかって、俺は死なねえって…!言ってくださいよ!」

「バカ言え………自分の体のことは…自分が一番分かってる」


いつになく弱気だ。いや、違う。弱気なんじゃない。分かっているだけだ。最期が近いということを。
わかりたくない、気づきたくない。兵長はまだ生きてる。こうして話をしている。


「い、医療班…を…!間に合います!」

「少し黙れ……話を聞け」


口を閉じる。おそるおそるこくりと頷くと、兵長は唇をゆっくりと動かした。


「俺はもうすぐ死ぬ。後は任せるとエルヴィンに伝えろ」

「………」

「本当はこんなところで死ねないが……こうなっちまったもんは仕方ねえ」

「…………はい」

「………まあ、」


私は目を見開く。兵長が、笑った気がしたからだ。


「壁のない場所で、お前に看取られながら死ぬのも、悪くない」

「………兵長………」




「好きだった」




ぎゅううと手を握る。まだぬくもりが残るその手を、強く強く。ぬくもりが消えていくその手を、ずっとずっと。


「…………私も」


ああ、この残酷な世界に神様がいるのなら、どうか、この願いを聞き届けてください。
兵長がいつか巨人も壁もない平和な来世で、





幸せに

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