二月十四日といえば、まあいわゆるバレンタインデーなわけで。内地では高級チョコレートの甘い香りが街中に漂っているだろう。調査兵団も例外ではなく、高級なんかではないが、チョコレートの匂いがそこかしこから漂うのがリヴァイにも分かった。

調査兵団は仕事柄、女は多くない。義理でも欲しいと手作りチョコを待つ男が女の人数に対して比べられないほど多いのが毎年のこと。そういうわけで女子は健気にせっせとチョコを作っていた。本命チョコを用意する人もいるが、班員や仲間や上司の分を作って配ろうと考えている女性が大半を占める。
実際、リヴァイももう既にペトラやそのほかの女性からいくつか義理チョコを受け取っている。本命チョコと思えるものがあったような気もするが、名も知らないような兵士からもらったようなチョコなど心底どうでも良かった。もともとチョコが好きなわけでもない。ペトラの分はとりあえず食べて、残りはペトラからの義理しかもらえなかったオルオやグンタにくれてやった。
そんなどうでもいいようなチョコよりも、一番欲しいただ一つのチョコがあった。


「リヴァイー!」


執務室に嬉しそうに飛び跳ねて入ってきたのはハンジだった。手には可愛らしく包装された小さな袋を持っている。待ちわびていた人物かと思い、いつもより早く振り向いたリヴァイはあからさまに嫌そうに眉間にしわを寄せた。


「なんだてめェかクソメガネ。うるせえ」

「あっれー誰だと思った!?おなまえ!?おなまえだと思った!?ざんねーんハズレ!ハンジさんだよ!!」

「黙れ蹴るぞ」

「あっはっは機嫌わりィ!」


いつもうざいがいつもよりうざさ三割増しのハンジに蹴りを繰り出すが、さっと避けられた。くそ避けるな。図星なので余計に腹が立つ。
待ちわびている人物____おなまえはまだ部屋を訪れていなかった。もう夕暮れになる。


「これなーんだリヴァイ!」


ハンジが袋を見せつける。中から一つのチョコを取り出し、目にずいっと近づけてきた。そのチョコはなんと巨人の形を模していて、なんともリアルだ。食いたくない。


「なんだそりゃ、悪趣味なチョコだな」

「おなまえからもらった!私限定、ソニーとビーンのチョコレート!」

「……………」


言われてみれば、いつかの二体の巨人の顔に似ている。いやそれやりも。おなまえからだと?全く、あいつもお人よしだ。こんな変態に特製チョコをあげるくらいだから相当暇なのだろう。


「あっれーもらってないのリヴァイ!?もう夜になっちゃうね!ドンマイドンマイ、また来年かなごふぁっ」


ニヤニヤしながらチョコを食べるハンジを蹴り飛ばした。すぐにへらへらしながらむくりと起き上がる。用がないなら出ていけと言うと、はいはい行きますよーと拗ねたように言って出て行った。
おなまえは一向にくる気配がない。リヴァイは書類を書きながら足音に敏感に反応していたが、執務室を通り過ぎたり入って来たのがエルドだったりしてはその度に舌打ちを打つのだった。


「兵長、夕食です」

「……ああ」


ついに夕食の時間か。結局おなまえは来なかった。
おなまえとは恋仲でもなければ両想いでさえない、リヴァイの完全なる片想いだ。だから、チョコをもらえる確信はなかった。しかし、一応いつも関わりのある上司なのだから、義理くらいはもらえると鷹をくくっていたらこのざまである。正直ハンジが羨ましい。趣味のクソ悪いチョコでも、おなまえからならば欲しかった。
くそ、と舌打ちをもう一度して執務室を出た。


「あっ、へ、兵長!」

「……………お前、」


扉を開けるとおなまえが目の前でうろうろしていた。おなまえはぱっと顔を赤くしてわたわたと何やら手を後ろに隠した。まさか、待ちわびていた茶色くてクソ甘いアレか。リヴァイのドス黒かった心の中は少しずつ晴れていく。


「あっ、ええと……あの、遅くなってすみません!本当は早く渡したかったんですけど、心の準備っていうか…」


とにかく、チョコです!と顔を真っ赤にしながら小さな箱を手渡された。ハンジのものとは明らかに違う。リヴァイは思わずにやけそうになったがそれを隠し、受け取って頭をぽかっと叩いた。


「遅え。待ちくたびれた」

「あう、えっと…すみません」

「ハンジが自慢してきやがったしな」

「あ、ハンジ分隊長!には、巨人の形のやつを作ったんですよ…!見ましたか、超力作!」

「ああ見た。悪趣味だったがな」


そんな話をしながら、箱を開ける。こ、こんなところで食べるんですか…!と焦った様子のおなまえは無視した。甘い香りがふんわりと香るトリュフだった。


「一つ聞くが、おなまえよ」

「は、はいっ」

「これは本命だろうな。義理なら受け取らねぇぞ」


受け取って開けてしまってから言うのもなんだがな。まあそれは気にしない。リヴァイがおなまえを睨むと、おなまえは視線を彷徨わせてから、耳まで赤くして頷いた。


「ホワイトデーは覚悟しておけよ」


今日はじめての笑みを見せたリヴァイは、おなまえの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。







甘くとかしてチョコレイト




title by魔法瓶

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