俺の同期に堕天使がいる。
いや、堕天使というのは少し語弊があるかもしれない。腹黒いわけでもないのだし。いややはり堕天使だ。
そいつの名前はおなまえという。


「あれ、エレン?ぶつぶつ呟いてどうしたの?」


こいつだ。おなまえ。訓練兵団トップ10には惜しくも入らなかったが、有力候補と言われていた奴で、数少ない調査兵団行きを希望している奴。身長はクリスタより少し高い程度、のんびりほわほわした性格。マイペースすぎるところがあるが、さながら天使のように優しく、信頼されていて友達も多い。いつもあまり人を寄せ付けないようなアニでさえおなまえとは仲が良いのだから相当だ。


「おなまえ、今エレンは瞑想中。話しかけないであげて」

「目を開けているのに瞑想?」

「そう」

「そっか。分かった、ごめんねエレン。ミカサもありがと」

「ううん。おなまえ、エレンに用があるなら、瞑想している間私と話せばいい」

「そだね!ありがとう、ミカサ!ミカサは優しいねっ」

「………天使」


ジャンやコニーたちが言うには顔もかなり整っていて、クリスタ廚のライナーでさえ認める、クリスタに次ぐ美少女らしいが俺はよく分からん。
だがしかし。みんな天使だなんだとちやほやしてるが、俺だけは違う。こいつはただの天使じゃないと確信している。それには理由があるのだが。


「エレン、瞑想終わった?次は立体起動の訓練だから、準備しよ」

「…そうだな」

「おなまえ、エレンは調子が悪いみたい。先に行ってて」

「そう?……じゃあいくけど………無理はしないでね?」


心配そうなおなまえが俺から離れる。
喜怒哀楽がころころ変わるこの顔にどいつもこいつも騙されている。ミカサも例外じゃない。おなまえが見えなくなってからミカサに文句の一つでも言おうと顔を向けると、ミカサは目を見開いた。


「…エレン、本当に調子が悪いの?顔が赤い。医務室に行くなら私もついて行く」

「ちげえ、そうじゃなくて!」

「ならいい、早く準備しないと訓練が始まる」


そう言ってミカサが俺の手を引く。
顔が赤い?心臓がどくどくとうるさいし心なしか体温が上がっているようにも感じる。理由を探ってみるまでもない。おなまえのせいだ。これが俺がおなまえを堕天使だと思う所以なのだ。






「おなまえが近づくと体に異常?」

「そうなんだよアルミン!」


訓練終わりにアルミンに打ち明けた。アルミンなら分かってくれるかもしれない。手遅れになる前に、アルミンだけでも救っておかねば。そう思って力説する。


「おなまえはなんかこう…力を持ってるんだよ!近づいたらダメだ。体がおかしくなる!」

「エレン……」

「なんで皆は平気なんだ?俺免疫力低下してんのかな?」

「いや待ってエレン」

「とにかく!おなまえはただの天使じゃねえ、体をおかしくする堕天使なんだよ!なんつーか……病原菌、は言い過ぎだけど…!ほら、キレイなバラにはなんたらって言うだろ!」

「エレン!」


アルミンは顔を真っ青にして俺の肩を掴んだ。もしかしてアルミンも俺と同じ?やっぱそうだよな、俺だけじゃなかったんだ。さすが俺の幼馴染、アルミンだぜ!


「それ以上は言わない方がいい、後ろに、いるから…」

「あ?」


振り向くと、おなまえが涙目で俺を見つめていた。その後ろにはアニが一人ふたり殺しそうな悪人ヅラをしているし、隣にいたはずのミカサも巨人に向けるような顔をしている。やっちまったと思う前におなまえが近づいた。


「わ、私、病原菌…?」

「ちがっ、あの、なんつーか、うわ泣くなって!」

「私のおなまえを病原菌呼ばわりするのはエレンでも許せない」

「エレン、アンタの勇気だけは認めておいてあげるよ……」

「落ち着けよミカサ、アニ!お前らはどうもねえのかよ!?」


ついに泣き出したおなまえを守るように立ちはだかるミカサや背中をさするアニ、その周りで白い目を向けるジャンやライナー達にも聞こえるように話す。だって俺だけじゃないはずだ。皆もきっと、何か症状が出ているはずなんだ!しかし皆は何も言わずに何言ってるんだこいつとでも言うような顔をしている。


「じゃあ、試せばいい!私、なんにもしてないよ…っ!エレンにそんなこと言われると、悲しい……!」


がしっと肩を掴まれて顔を見つめられる。近い。近い。近い。
俺の体はすぐに反応した。かっと顔に熱が集まり、心臓は破裂しそうだ。脳が正常に働かず、固まったように体が動かない。ただ突っ立っているだけだ。


「あ…あれ、エレン?」


おなまえが未だうるうるしている大きな目できょとんとしているのを近距離で見ていた。
やばい、俺死ぬかも。
そんな中、アルミンがつぶやいた。


「エレン、君は確かに病気だ。残念だけどもう手遅れだよ」







恋の病というやつです

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