しんしんと降る雪を窓に手を当てて見つめる。
本日、世はメリークリスマス・イブだ。ジングルベルなのだ。それなのに私は何をしているというのか。ついさっき机に向かわせたはずの男が、いつのまにかアイマスクをして夢の世界に旅立ったのを見て、ため息を一つついて机を叩いた。


「何のんきにおねんねしてんですか大将っ!」

「…あらら…もう朝?」

「寝ぼけんなくそやろー!」


アイマスクをずらしてあくびをする我らが大将青キジことクザンである。
つい昨日までどこかに自転車で散歩と偽ってサボタージュしていた大将。その間ためにためた仕事を補佐である私が頑張って片付けていたのだが、一人で終わるはずもなく、さらに大将のサインが必要な書類が山積みになるばかり。それを見たセンゴクさんが今日中に仕上げろと無茶をおっしゃった、と、こういう次第である。


「ああ…街の人々はクリスマスイブにルンルンだというのに。ばか!大将のばか!」

「おなまえちゃん、そんなに怒るとシワ増えるぞ」

「誰のせいですか誰の!」

「誰?」

「自覚ナシ!?」

「仕方ねェな…やるか」


やっとペンを取った大将。書類にサラサラと書いて行くのを見て、ほっとした。
果たして今日中に終わるのか。いや無理だ。(反語)
しばらくして、書類の山がやっと半分ほど減った頃合いで大将がペンを置き、首をこきりと鳴らした。


「お疲れ様です。あと半分ありますけどね」

「疲れた。もういい?」

「よくないです!!」


コーヒーを置きながら怒ると、はいよと本当に分かっているのか心配になる返事をした。窓を覗き込むと、だいぶ日が落ちて暗くなりかけている。早い。


「あーあ、もう夜になっちゃいます」

「そうだな」

「せめてプレゼントくださいよ。ないんですか、私に」


まああるはずないですよね、と苦笑して振り向くと、ずいっと紙袋を目の前に出された。


「はいよ」

「…へ?」

「クリスマスプレゼント。」


口をぱくぱくしながら大将と紙袋を見比べる。大将は口角を上げて、まあ開けてみなさいよ、と促す。
紙袋を開けると、ふわふわと手触りの良い青いマフラーとセットのミトン手袋が入っていた。何も言わずに首に巻いて、手にはめてみる。似合っているだろうか。とても暖かい。
…すごく嬉しい。


「おなまえちゃん何が良いかわかんなかったんで、とりあえず青のやつで」

「…とりあえず青って、なんですかそれ」

「おなまえちゃんは青だろ?」

「なんで…」

「俺青キジだし」


大将は頭をボリボリとかいて言った。なにそれ。私は顔に力を込めながらマフラーに口元を埋める。


「ありがとう、ござい、ます。」

「なんでカタコト。そしてなんでそんな顔固いの」

「……嬉しくて、今顔から力抜いたら、絶対だらしない顔になるんで」


もごもごと言うと、大将がふはっと笑った。


「だーいじょうぶ、おなまえちゃんの顔は元からだらしねェよ」

「どういう意味ですかそれ!」

「そういう意味」


大将は満足そうに笑ってコーヒーを一気に飲んだ。まあいいか、と顔から力を抜く。えへへと抑えきれない笑顔で笑った。
そこに、ノックもなしに扉が開く。誰かと思えば黄猿大将だった。


「あれェ〜、まだ終わってなかったのかい」

「黄猿大将!お疲れ様ですっ」


びし、と敬礼すると、黄猿大将は私の室内でマフラーと手袋という姿を見て少し驚き、目を細める。


「おォー…おなまえ、暖かそうじゃないかい。上等のマフラーに手袋。良いねえ」

「大将に戴いたんです」

「ああ、そういや、海に出るとき…おなまえにあげるクリスマスプレゼントを買いに行くとか行ってたっけねェ〜」

「ちょいちょい、そこ。何バラしてくれちゃってんの」

「ありゃァ、いけなかったかい。こりゃ失礼」


黄猿さんがまったく詫びる気のない顔で言った。これを買いに行っていたというのか。私のために、わざわざ?だめだニヤける。


「大将」

「…なによ」

「ありがとうございます。大切にします」


すると大将は急に立ち上がり、私の手を引いて歩き出した。


「ボルサリーノ、センゴクさんに伝言頼む」

「言ってみなァ」

「センゴクさんからクリスマスプレゼントもらってなかったんで、今から休暇もらいますってよ。あー、おなまえも」

「え、ええ!?ちょ、大将!」


そのまま扉を出て、ずんずん進む。途中、通りすがる人々の視線が痛い。海軍本部の外に出ると、びゅうと冷たい風が頬に当たる。大将は自転車を引っ張り出して来て、乗った。


「ほら、おなまえちゃん。後ろ乗って」

「ダメですよ…!まだ半分あるし!センゴクさんが怒ります!」

「いいじゃねーの。なら、おなまえちゃんから俺にクリスマスプレゼントってことで」


ほら、と自転車の後ろをぽんぽんと叩く。まあ、いいか、今日くらい。クリスマスだし。仕方ないですね、と言いながらまたがって、大将の腹部に手を回す。ひやりと冷たい体温だ。


「大将冷たい」

「あらら、すまねェな」

「でも大丈夫です。マフラーも手袋もあるし、あったかいです」

「…そりゃ良かった」


パキパキ、と海を凍らせながら走り出した自転車の上で、大将に回した腕に少しだけ力をこめた。まだまだ聖なる夜はこれから。良いクリスマスイブになりそうだ。







聖夜の氷花

あなたと過ごす、クリスマスイブ

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