私おなまえ、フられました。人生9度目の失恋です。


「ということで、ジャン君慰めて」

「だが断る」


夕食を持ってジャンの相席に座る。ジャンは間髪入れずに返答したが、だいたい予想はしていたのでむうと唸る。隣で食べていたマルコがなんとも苦い微笑みをしていた。


「落ち込まないで。それ何度め?」

「9」

「えっと…うん、諦めない精神は良いことだよ」

「懲りねえな、何がしたいんだよてめえ」

「うるさいジャン、慰める気がないならどっか行って」

「いやお前が行けよ」


今日もジャンは辛辣である。呆れているだけなのだろうが。告白してフられて、毎回ジャンのところへこうして相談に来ている。なんだかんだ言って相談に乗ってくれるからジャンは優しい。
マルコがじゃあ僕はお先にとからになったお皿を持って席を立った。ジャンはしぶしぶ見送って、恨めしそうに私を見る。ジャンも食べ終わっていたから、マルコと一緒に行きたかったのだろう。すまないとは思うが反省はしない。

いただきますと言ってから、薄いカレーを口に運ぶ。美味しくない。いつものことだ。


「またエレンかよ」


ジャンが嫌そうに言う。私はこくりと頷いた。


「もちろん」

「ほんっと、わっかんねえな。あんな死に急ぎのどこがいいんだか」


そう言って大げさにため息をつく。ジャンはエレンと仲が悪いから、嫌なところが目に付くだけだ。良いところなんて、挙げきれないほどたくさんあるのに。でもこの前そのことについて語って怒られたから言わない。


「いいかげんあいつもウザがってるんじゃねえか?」


ぴたり、カレーをすくったスプーンを止める。


「うん、知ってる」

「自覚済みかよ」

「そりゃそうでしょ。9回も同じ相手に告られまくったら嫌になるよ、誰だって」

「じゃあやめろよ!」

「それでも好きなの」


好きなんだからしょうがないじゃん、諦められないんだからしょうがないじゃん。
でも、でもやっぱり、エレンに迷惑かけるのは駄目だと思うから。
私は決めた。


「次で最後にする」


ぐ、とスプーンを握りしめる。ジャンを見ると、目を見開いていた。


「次でダメなら、もう諦めようかなって、思って。ま、ダメだろうけど…けじめ、つけようと思って」


実はエレンは私の初恋だった。私もシガンシナ出身で、巨人の恐怖を味わったから、エレンの言葉や巨人に立ち向かおうとする姿勢に憧れて、憧れはいつしか恋に変わっていった。
ミカサからの目ヂカラ光線や、嫌悪感丸出しの言動にも耐えて、ここまで猛アタックして来た。裏でエレンをしのぐ本物の死に急ぎと言われているらしい。すごいなそれ誰だよ。私か。
それでも好きだった。


「だから、さ。ジャン、最後くらい、応援してよ。この私がエレンを諦めるって言ってるんだからさ」

「……そうだな」


ジャンは皿を持って立ち上がる。逃げる気か。ここまで私が真剣に相談したことなんてかつてないのに。少し残念に思いながら視線を落とす。すると、頭に手がおかれた。


「頑張れ。それでもダメだったら、俺にしとけ」


くしゃりと髪を撫でて、それだけ言い残して歩いて行った。
…何、どういうこと。
ぽかんと遠くなる背中を見つめていると、近くにいたアニに顔が赤いと指摘された。







うずまきラプソディ

ぐるぐる、初恋をめぐった先には

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