「寒いなあ」


ぽつりと一言、呟く。冬のぱきりとした冷え切った空気に、独り言は白い吐息となって消えていった。
涼しく過ごしやすかった秋はあっという間に過ぎて行き、ついに本格的な冬になった。体に当たる風は冷たく、自然と体が縮こまる。木は葉をそこらじゅうに落として枝だけとなり、寒そうにしている。動物はきっと、春を待って眠りについていることだろう。

休日くらいは出来るだけ外に出ないように、とは言え、人と会う約束をすれば必然的に外に出ることとなる。こればかりは仕方が無い。会いに来てなんて都合のいいことは言えない。厚めの衣を着物に羽織り、マフラーをぐるぐると巻いて、あたたかいふわふわの手袋もして、いざゆかんと外に出たのだった。
待ち合わせ場所で凍てつくような寒さにぶるりと震える。この完全防備でもやはり寒いものだ。


「よお、待ったか?」


何週間ぶりかに聞く声にふと顔をあげると、愛しい彼がそこにいた。


「銀さん!」
「おーおーあったかそーなこって。銀さんなんて上着にマフラーだけだぞ?見習えコノヤロー」
「手袋しか違わないじゃない」


銀さんはいつもの着流しに上着とマフラーといういつも通りの格好だ。久しぶりに見る銀さんは私の中の冷えた心を簡単に溶かす。耐えきれなくて着流しに抱きついた。


「久しぶり」
「…おー。久しぶり」


すぐに抱きしめ返してくれた。久しぶりの銀さんの匂いとたくましい体をじっくり堪能してから、並んで歩き出した。

私の仕事が出張が重なったりだとか、珍しく(ひどい)銀さんも仕事があったりだとかで伸び伸びになっていたデート。神楽ちゃんや新八くんにも会いたいから万事屋にも行きたいけれど、それはまた今度お土産でも持って行くことにして、今日は二人で過ごそうと決めていた。こうして歩いているものの、まだ行くところも何も決めていないのだけれど。


「銀さん、どこ行く?」
「あー、決めてねェ。行きてェとこある?」
「銀さんとならどこでもいいよ」
「………さらっと恥ずかしいこと言わないでくれますー」


照れ臭そうな銀さんを見て気づかれないようにくすりと笑った。銀さんと話していると、なんだか少しだけ寒さが和らいだ気がしたのは気のせいじゃないはすだ。いつのまにか、辺りにはふわりふわりと雪が降ってきていた。淡い光をまとっているようにも見えて、とてもきれいだ。
公園を通りかかると、見覚えがあるチャイナ服の姿があった。


「神楽ちゃん!」


声に反応して冬用のチャイナ服に身を包んだ神楽ちゃんが突進してくる。抱きついてくる力が尋常じゃないので少し痛いけれど、久しぶりに会って可愛さが増した気がする。


「久しぶりネ!今日は銀ちゃんとデートアルか?」
「うん、そうだよ!…というか…神楽ちゃん、寒くないの?」


マフラーも手袋もしていない神楽ちゃんは見ただけで寒い。そう聞いてみると、神楽ちゃんはほんのり赤い鼻でにっと笑って私を見上げた。


「大丈夫アル!走り回ってたら熱くなるヨ!」


と言ったそばからくしゃみをするので、くすりと笑う。


「ほら、風邪ひいちゃうよ?」


寒そうだと思って自分の両手から手袋を外して差し出す。神楽ちゃんはぶんぶんと首を横に振っていたけれど、体は正直なもので、くしゃみを抑えきれない。苦笑して両手につけてあげれば、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


「ありがとうネ!あったかいアル!銀ちゃん、ちゃんとエスコートしろヨ!」
「わかってるっつの。さっさと遊んで来い!」
「うん!またネ!」


神楽ちゃんは手を大きく振りながら走って行った。手袋がなくなった私の手はむき出しになってとても寒いが、神楽ちゃんが喜んでくれたからいい。


「良かったのかよ、返さねーぞあいつ」
「いいの、あげるつもりで渡したんだし。あ、そういえば、これで銀さんとおそろいだね」


上着とマフラーだけ、と言うと、頭をぐりぐりと撫でられた。せっかく整えて来たのにぐしゃぐしゃだ。
そのまままた歩き出したのだが、確かに、手袋があるのとないのとでは大違いで、とても寒い。手がかじかみそうで、両手にほうと息をはく。一瞬だけほんのりと暖かみが宿り、すぐに消えた。


「…そんなにさみィなら神楽にやんなきゃ良かったのによ」
「いいのっ」


早足で歩き出すと、銀さんがすぐに追いつき、下ろした私の右手をするりと取って握った。銀さんの手も冷たかったけれど、二人の熱でじわりじわりと暖かくなっていく。


「こーすりゃあったけーな」
「…………、うん」


手袋よりもずっと、ずっと、手も心もあったかい。繋いだ手のひらから感じるぬくもりがこれ以上ないくらい幸せで、冬も悪くないな、なんて考えた。





春待ち人の恋唄






企画君への唄様に提出。
ありがとうございました。

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