銀時は、いつだって傷だらけになって帰って来る。

攘夷戦争のときだって、毎回毎回、切り傷擦り傷泥だらけでボロボロになって帰って来た。
その度に、手当てする私がどんな気持ちかなんて、本人は何も知らないのだろう。いつもいつも、銀時の傷を見ながら、じわりとにじむ涙を必死で流さないように引っ込めていたものだ。
晋助や、小太郎や、辰馬もたくさん傷を負った。でも、一番多かったのは多分銀時だ。手当てしていた私が言うのだから間違いない。きっと、自分の戦いで精一杯のはずなのに、仲間をかばうこともあったのだろう。
それなのに平然として、なんでもないことのように、鼻をほじりながら私の元へやって来て。手当てよろしく、とこれまたなんでもないことのように言うのだ。

そして、攘夷戦争なんてとっくに終わった今だって。
万事屋に来る依頼の中には、危ない依頼もあるわけで。何でも屋なのだからそれは仕方ないことだ。そうでなくても、銀時は自ら危険の中に飛び込んで行く。
仲間が事件に巻き込まれたり、仲間が危険に陥ったときは、絶対に助けようとする。自分の身を投げ打ってでも。なりふり構わず、仲間を救いに行く。

仲間想い。それが銀時の良いところだけど、私は銀時を送り出すたびに、傷つく姿を見るたびに、泣きたくなるのだ。



「わり。ちょっとしくじった」


銀時は、服を真っ赤に染めて、ひょこひょこと足を引きずって、神楽ちゃんと新八君に肩を借りながら万事屋に帰って来た。


「…ちょっとじゃ…ないじゃないバカ」


銀時に近づいて、その体を見る。痛々しかった。


「手こずっちまってよ」


苦笑いする銀時は、ボリボリと頭をかいた。
なんで銀時はこんなにも傷ついてしまうのだろう。私に戦う力があればいいのに。そしたら、銀時を私が助けにいけるのに。
私はいつだって、待つことしか出来なくて。


「オイオイ、なんでおなまえちゃんが泣いてんですか。お前に泣かれちゃ弱ェんだけどなァ」


言われてから、涙が頬を濡らしていることに気がついた。


「…バカ、銀時のかわりに私が泣いてるの。バカ」

「バカバカ言うなコノヤロー」

「バカよ銀時は」


一歩踏み出して、両手を広げた。


「無事で…よかった、銀時」


銀時の背中に腕を回して、傷だらけの体ごと抱きしめる。ぬくもりが、生きてるということを証明していた。
銀時はゆっくりと私を抱きしめ返し、ぽんぽんと背中を優しく叩く。


「ありがとな、おなまえ」

「…私…お礼言われるようなこと、何もしてない」


銀時は泣いて声が震える私に、言い聞かせるように話す。


「お前が待っててくれるから、俺はいつも死んじゃいけねェって思うんだよ。諦めそうになったときには、おなまえの顔が思い浮かんで…おなまえのとこに帰らねェと、手当てしてもらわねェとって思って、頑張れる」


だから、ありがとな。帰る場所になってくれて。
ぶわ、と涙がまた溢れて、声が出なくなって。こくりと頷いて、両腕に力を込めた。何度か深呼吸して、声を絞り出す。


「勝手に死んじゃだめだからね、銀時。私より先に死なないで」

「てめーも俺より先に死ぬなよ。死なせねェからな」

「じゃあ、ずっと一緒だね」


涙でぐしゃぐしゃな顔でにっこりと微笑んで、銀時を見上げる。銀時はふっと笑って額にキスを落とした。
そして私は、帰って来たら言おうと何度も頭の中で繰り返していた言葉を口にする。


「銀時」

「あ?」

「誕生日おめでとう。生まれて来てくれて、ありがとう」


私と出会ってくれて、ありがとう。
満面の笑みで、そう言って、少し背伸びして銀時の唇に私のそれを優しく押し当てた。





あなたが生まれたこの日に
最大級の感謝と愛を


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