リヴァイ兵長という、人類最強、といわれるような人がいる。同時に、人類最凶、とも呼ばれている。あながち間違っちゃいない、というか的を射ている。
その怖さはあたしだって十二分に知っている。兵長は眼力だけでも人を殺せる。身長はあたしとそう変わらないくらいなのに、恐ろしく強い。そんなのなんて、誰でも知っていることだ。
そんなリヴァイ兵長の補佐にあたしが選ばれたなんて、そんなこと信じない。


「信じないって言われても、もう決まっちゃったんだよねえ」

「いやいやいや…冗談やめてくださいよ、ハンジさん。あたしが?あの兵長の?補佐?なにそれ笑えない」

「現実逃避は止めないけど。本当なんだ、これが」


いやいやいや…ないないない。あたしが兵長補佐なんてありえないでしょ。もっと適任がいるはずだって。ペトラとか。
あたしは手も首もぶんぶんと振り、思い切り否定した。そんなあたしにハンジさんは顎に手を当てて言う。


「いや、だって考えたら、おなまえ以外にいなくない?討伐数、討伐補佐数、一番多いのおなまえでしょ?」

「いやそんなの数字だけですよ!リヴァイ兵長の補佐とか無理!です!」

「私に言われてもねえ。エルヴィンに言いなよ」

「いやそっちのほうが無理!」


エルヴィン団長にそんなこと言っても、絶対スルーだよ。相手にされずにおしまいだよ。目に見えてるよそんなの。それ以前に言えないし。


「おなまえは、強いしいざとなれば頼りになるし、本当はしっかりしてて、サポート上手なんだよ。もっとおしとやかになれば完璧なんだから、もっと自信持っていいんだよ。補佐だって出来る!」

「ハンジさん…」


そこまで思ってもらって嬉しいですけど…あたしがおしとやかって、それ無理です。
ハンジさんがあたしの背中をぽんぽんと叩いた。
あたしは、討伐は少しなら自信あるけど、人類最強といわれる兵長の傍にいて良い自信がない。そこまで出来た人間じゃないんだ。兵長怖いし。無理だよ…!
しばらく視線を落として黙っていたけど、ばっと顔をあげる。


「やっぱり…!あたしリヴァイ兵長の補佐、嫌です!」

「ほぅ、いい度胸じゃねェか」


あ、あれ?何か聞こえたぞ?幻聴かな?だって、こ、この声は。
ぎぎぎ、と音がするほど恐怖でぎこちなくなりながら振り向くと、凶悪すぎる目つきで笑う兵長が立っていた。
それ笑ってないです兵長。嗤ってます兵長。そんなことをこの場で言えるほど勇気はない。
ハンジさんはじゃあそういうことで、とすたこらさっさと逃げて行った。裏切り者!


「い…いや違うんです兵長…」

「何が違うんだ?言ってみろ。冥土の土産に聞いてやる」

「えっ死ぬ前提!?」

「おなまえよ、今日から俺の補佐だったな。まず躾しねェとな」


躾!?あたし死亡フラグ立ってる!
兵長は、来い、と行って歩き出す。それでも突っ立っていると、兵長が振り向いた。


「何してる、早く来い」

「あっ…はい、あの、兵長…」


あたしに拒否権ないですよね、と言おうとして、言葉を飲み込む。言ったら削がれる。賢明な判断だ、あたし。
あたしの言葉を待っている兵長。もう覚悟するしかない。


「よろしくお願いします、兵長」


ぺこ、と頭を下げると、頭に何か乗った。顔を上げると、それはリヴァイ兵長の手だった。


「そんなに緊張するな、別に削いだりしねェ」


よろしく頼む。そう言って、何度かあたしの頭を撫でる。
削いだりしねェって、兵長が言ったら冗談に聞こえない。それよりも。


「…っ」


撫で方が兵長に似合わずとても優しい。柔らかく、あたしの頭を往復する。なんだかこそばゆくて、でも嬉しいというか…。なにこれ、虜になりそうだ。一気にぼっと顔が熱くなる。
離れて行く手が名残惜しいとまで感じた。


「どうした。行くぞ」

「あ…あの、兵長」

「なんだ、早くしろ」

「へ、兵長って顔に似合わず撫で方すごくお上手ですね…!!ゴッドハンドって感じです!リヴァイ兵長の撫で方ヤヴァイ!癖になりそう…!」


興奮を抑えきれず、そうまくし立てて、気がついた。
やっちまった。
あたしは何を言っているんだ。今頃口を抑えてももう遅すぎる。撫で方最高ということだけ言うならまだしも、顔に似合わずとか余計な事まで言ってしまった。


「おなまえ……」


ひいい!!削がれる!!
ガクブルなあたしだが、兵長は何もせずに先に行くぞと踵を返した。ほっとしてついて行く。
これから、どうなることやら。
とりあえずは、頑張ろう。そして、またいつか、いや近々、撫でてもらえるように。





撫でられたい系女子


title by魔法瓶

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