人殺し、なんて呼ばれて。
そのとおりだと思う。手元にあるのは刀だけ。それでも、光を失いたくなくて。光なんて私にはかすかなものしかなかったけれど、それでも。
「それでも俺は、お前に生きてて欲しいって思うよ」
そう言ってくれるなら。この世界を生きてみたいって思うんだ。
「おなまえ」
名前を呼ばれて振り返ると、よ、と片手をあげる銀時がいた。
「どうかしたか銀時」
「飯出来たってよ」
「分かった」
「…なにしてんだ?」
「いや、…考え事だ」
ふっと笑って、戻ろうかと言うと銀時はぁー、とかぅー、とか唸って銀色のふわふわ頭をわしわしとかいた。
もう一度空を仰ぎ見る。日が落ちた空は、星が見え隠れして綺麗だ。
「あのよ…おなまえ」
「ん?」
「俺、おなまえのこと…」
「おい、銀時、おなまえ!飯と言っているだろう!早く来ないと冷めてしまいますよ!」
「今行く。というか、どこのお袋さんだ、お前は」
「お袋さんじゃない、桂だ!」
小太郎が割烹着でおたまを持ってひょこっと顔を出した。立派なお袋さんだ。ああ、そういや銀時の言っている事が聞こえなかったな。
「銀時、なんだ?」
「…いい。行くぞ!」
「?」
ふてくされたような態度に首を捻った。
飯は粗末な物だが、あったかくて美味しく、お腹に嬉しい。密かな楽しみの時間だ。
「今日も美味しい」
味わいながら飲み込んだ。空腹は最大の調味料とは良く言ったもので、実にそのとおりだ。
「たまにはパーッと、焼肉でも食いたいモンだがな」
「無茶言うな晋助」
皮肉を言う晋助に唇を尖らせる。
「焼肉よりすき焼きだろう」
「そういう問題!?」
「すき焼きより蕎麦だろう」
「そういう話でもないんだけど」
蕎麦好きの小太郎に銀時が呆れた。いつもの会話に頬を緩ませる。大勢でわいわいと過ごす。戦争の最中でも、それが日常だった。
けれど、その次の日。
日常に別れを告げなければならないなんて、予想だにしていなかった。
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