※IF設定なので注意。
長編サワードロップの夢主が土方さんと恋人設定の、「タバコは一箱に一、二本馬糞みたいな匂いのする奴が入っている」原作沿いです。





「真選組を禁煙にするべきだと思いやす」


総悟がきっぱりとそう言い切った。

隊長らで行われる真選組の会議に、あの総悟が珍しく真面目に資料まで用意して提案している。それはいいことなのだし、提案の内容もきちんとしていて、真面目なのだが。
…悪意を感じるのは気のせいだろうか。
あたしはふざけた様子のない総悟をじっと見つめ、それからちらりとトシを見た。


「…おいちょっと待て」


やはり、ここに異議を唱える男がいた。


「禁煙…ってのはやり過ぎじゃねーのか?せめて喫煙所を設けるとか」


トシが汗をたらしながら発言する。総悟は冷静に答えた。


「今や、真選組で喫煙者は土方さんだけでさァ。こちとら煙に迷惑してんでィ。さっきも説明したでしょ、受動喫煙は害があるって」


冷ややかな声で資料を掲げながら言うと、他の人達もざわざわと小さい声で賛成し始める。トシは苦い顔をして近藤さんを見る。近藤さんはぎこちなく視線を逸らした。
トシはかなりのニコチン依存、煙草がないとどうにかなってしまうかもしれない。
あたしは見ていられずに口を開いた。


「あの…総悟?あたしは別に気にしてないし、もう慣れたし。だから、せめて副長室では吸ってもいいと思うけど」

「おなまえ…」


トシの顔が希望を取り戻す。しかしばっさりと切り捨てられた。


「おなまえは土方さんに甘いんでィ。恋人だからってそんなかばう必要ありやせん。おなまえが一番迷惑してたはずだからな」


あたしはむうと唸って、黙り込んでしまった。すると近藤さんがいきなり立ち上がり、ものすごい形相でずざざっと近づいた。


「えっ、ええええ!?総悟っ、今何て言った!?こっ、こい、恋人って聞こえたような」

「そうですぜ。認めたくねェが、おなまえとニコチン野郎、恋人になったんだと」

「ええええええええ!?」

「近藤さん、気づいてなかったの…?」

「かなり今さらだな」

「そんなのお父さんは聞いてませんよォォォ!!」


近藤さんが雄叫びをあげるのを苦笑いで見ていた。

トシと恋人になって一ヶ月ほどが経った。恋人といっても、今までとそんなに変わってはいない。恋人らしいことといえば、たまに、一緒に見廻り行ったり二人きりの副長室でのんびりしたりしていることくらいか。

そんな近藤さんを無視して総悟が席を立ち、トシの前に屈んで、くわえていた煙草を取り上げた。


「まあ、そういうことなんで。これからは煙草は我慢してくだせェ、土方さん」


ニタアと黒い笑みを浮かべる。
…あ、これはいよいよ本格的にトシを殺しに出たな。





「どうすりゃいいんだ俺ァ…」

「えーっと、どうすりゃいいって言われても…」


その後、二人だけ残って作戦会議。かといって、もう対抗の余地はない。受け入れる他はないのだ。


「もう真選組の外で吸うしかないわよね」

「あァ…でも嫌な予感がする…もし外でも吸えなくなったら…」


トシが身震いする。嫌な予感とはなんだろうか、江戸全域で煙草禁止令が出るとか?そんなことがあるのだろうか。いくらなんでも。…否定はできないけれど。


「煙草やめるとか、そういう選択肢は…」

「ない」


きっぱりと断言される。すっかりニコチン野郎だなこいつ。少し呆れてしまう。
煙草って、何が美味しいのかわからない。でも、トシの匂いは好きだ。ほのかに煙草の煙の匂いがする、やさしい匂い。


「だけど…」

「あ?」


不機嫌そうなトシの目を見る。
なんだか、煙草に負けてる気がする。トシはあたしより煙草の方が大事なんじゃないだろうか。煙草に対抗意識が芽生えてしまう。


「…煙草とあたしとどっちが大事なの?」


意地悪な質問だ。そんなの、煙草って答えたくなるに違いない。煙草は今やトシの一部なんだし。煙草に対抗意識って、バカかあたしは。
でも撤回したくなくて、視線を逸らした。すると、一瞬のうちに唇が奪われる。


「んう…っ」


息が、吸われているみたいだ。呼吸が苦しくなると、ゆっくり離れていった。


「煙草がなくなりゃ、おなまえを吸えばいいだけの話だ。こっちの方がよっぽど依存性がある」


ぼっとたちまち顔が熱くなる。は、反則だ、こんなの…!
それでも煙草吸いてェというトシの声はあたしの耳に入らない。立ち上がるトシの耳が赤くなっているのが見えた。
少しだけ。禁煙になって良かったと思ったのだった。





きみに依存症

こっちが依存症になりそうだ。

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