ギルドのカウンターでのこと。いつものごとく家賃が足りず、かといって暑すぎて仕事をする気にもなれない。カウンターに突っ伏していると、隣でナツがファイアドリンクを飲んでいた。
「よくそんなの飲めるわね…見てるだけで暑い」
「飲むか?」
「飲めるわけないでしょ!」
「ルーシィなら飲めるよ、あい」
「あたしを何だと思ってるの!?」
つっこんでから、また突っ伏す。ああ、暑い。でも家賃。どうにかならないものか…。
すると、それを見ていたミラさんがくすくす笑って氷の入った冷たい水(プライスレス)をあたしの目の前に置いた。
「夏バテかしら、ルーシィ。ナツも暇そうね」
「ミラさん…ありがとうございますー」
「だってルーシィが仕事いかねーって言うんだもんよ」
「そんなルーシィに良い提案よ。ナツとじゃんけん真剣勝負して、勝ったら賞金1万ジュエルっていうのはどう?」
「え!?いっ、いいんですか!?」
「勝ったらね?」
やったあ、1万ジュエルあればぎりぎり足りる!負けたらもらえないけれど喜んでいると、ナツがわくわくしながら身を乗り出す。
「俺が勝ったら?」
「そうね、何かルーシィにおねだり出来る、とかは?」
「よっしゃー!!オレ勝つぞハッピー!」
「あい!がんばって!」
ナツも乗り気だ。よし、なんか元気出てきた!おねだりの内容が怖いから、絶対負けたくない。
グーとチョキとパー、何を出そうかしばらく悩んで、やっと決めた出す手に頷き、勝負を開始する。
「いくぜ!ルーシィ!」
「…うん、いいよ!」
「ナツがんばってー!」
ハッピーの応援にナツが笑顔で応える。そして真剣な表情になり、あたしと向き合った。
「さーいしょーはっ、」
その場に出たのは、あたしのグーと、ナツのパー。…ってちょっと待って、パー!?
「よっしゃあ!勝ちー!!」
「うぱー!!」
ハイタッチして喜ぶナツの腕を叩く。ナツがなんだよ、と振り向く。
「ちょっとナツっ!真剣勝負よ!ずるい!!」
「あら、私は別にダメとは言ってないわよ?」
「えええええ…!」
ミラさんに言われちゃ言い返せない。そんなぁ、とカウンターに突っ伏す。あーあ、せっかくの1万ジュエルが…あーだこーだ言わずに仕事へ行けというおぼしめしなのか。
「ナツ、何をおねだりするの?」
ミラさんがナツに聞く。あ、そっか。おねだり、聞かないといけないんだ。やだなと思いながら顔をあげる。
「ルーシィで!」
間髪いれずにそう答えた。
…………え?どういう意味なの?もしかして、もしかして、そういう意味なの?
あたしは期待に高鳴る胸を押さえつける。
いやいや、焦るな。いっつも、肩透かしを食らってきた。いつだってそうなんだから。こいつはバカで単純な、フラグクラッシャーなのを忘れるな、あたし!
そうは思いながらも、期待を捨てきれずに次の言葉を待つ。
「つーわけで、これ。行くぞルーシィ!」
見せつけられたのは、一枚の紙。…依頼用紙だ。討伐系の、報酬高いやつ。場所、…砂漠。
「砂漠ゥウウ!?やだやだやだ、ぜったいっ」
ぶんぶんと首振る。だって、この暑さでバテるてるのに、これ以上とかあり得ない!しかしナツは勝ち誇った笑みでミラさんに依頼書を渡す。
「残念だな、もう決めた!」
「ナツが勝ったんだしね、諦めなよ。ってことで、オイラるすばーん」
「ちょっとハッピー、ずるいわよ!あんたも来なさいいいいっ」
「ネコは暑さに弱いもので」
ふらふらとわざと不安定に飛びながら、シャルルの方へ飛んで行く。覚えてなさいよあのネコ!!
ナツはというと、行く気まんまんで腕を鳴らしている。
「さー、久しぶりに暴れるぞ!!」
「ミラさーん!!」
「いってらっしゃい!」
「行くぞルーシィ!」
「やだあああっ」
腕を掴まれて、引っ張られる。ああもう、駄目だ。逆らえない。諦めるしか道は残っていない。
結局、しかたないなあと一言漏らし、さらに暑いだろう砂漠に向かったのだった。
「ミラ、わざとでしょ?」
ハッピーがくふふと含み笑いする。ミラはなんのこと?ととぼけていたが、くすりと笑って頷いた。
「ナツならああすると思って」
「ルーシィが勝たないのを確信して、あんな大金賭けたんでしょ。策士だね」
「賢いでしょ?」
ぱちりとウインクする。ハッピーがあい、と返事をして、今度こそシャルルの方へ飛んで行った。
じゃんけん、ぽんっ
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