海に行こう。
そう総悟を誘ったのに、私ってば雨女。とても海で泳げないくらいに大雨が降ってしまった。
しょぼんと落ち込んでいると、土方さんに今日じゃなくてもいいじゃねェか、また次の非番にでも行ってこいと横から言われたけど、それじゃだめなのだ。今日じゃないといけなかったのに。
だって今日は、総悟の誕生日。私達が付き合い出してはじめての総悟の誕生日だから、特別な日にしたかった。
梅雨を恨めしく思った。


「じゃあ、水族館に行こうぜ。海じゃねーといけねェ訳じゃねーんだろィ」


ぱっと顔をあげると、行かねェのか、と総悟が私を見下ろしていて。海じゃないといけない理由なんてない。すぐさま笑顔で頷いた。



すいすいと泳ぐ魚達。いい感じに光が当たって、きらきら輝いて綺麗だ。
ガラスに張り付いて凝視する。隣の総悟も意外と楽しんでいるようだった。


「わ、ねえこれ、総悟に似てるよ!」

「ひでェや、んじゃ、おなまえはこれでィ」

「えー、ひど!」


くすくす笑い合う。すると、すいっと二匹のクマノミが泳いで来たのが視界に入る。仲睦まじいその様子は、なんだかデートをしているようで。それを指差して、総悟を見た。


「ううん、やっぱりこれが私達だわ」


総悟はふっと笑って私の頭をがしがしと撫でた。

*


屯所のみんなにおみやげを買っておみやげ屋さんの前で総悟を待っていると、総悟が何も持たずに出て来た。


「あれ、何も買わなかったの?」

「まァな」

「ふうん…?あ、これ。はい!誕生日おめでとう、総悟」


あげたのは、クマノミのストラップ。今日の出来事があったので、迷わず買ったのだ。携帯にさっそくつけてくれた。


「さ、帰ろっか」


満足感に浸りながら歩き出すと、腕を掴まれ戻された。


「待ちやがれィ」

「わ、え…」


急に首を掴まれて、ぎゅっと目をつぶる。手が離れておそるおそる開けると、首にはイルカのネックレスがあった。シルバーのイルカが胸元できらりと輝く。


「これ…」

「今日の礼。黙って受け取っとけ」

「あ…ありがとう!」


総悟の誕生日なのに、私がもらっちゃった。はじめての総悟からのプレゼント。嬉しくて嬉しくて、イルカのモチーフをぎゅっと手で握りしめた。
にこにこ、というよりにまにましていると、デコピンをくらった。


「んなだらしない顔すんな」

「あだっ。ちょ、いったァ!総悟のデコピン痛い!」

「また来ような」


歩き出した総悟。いま、何て言った?きょとんとしていると、手を強引に繋がれた。


「また来ようなって言ってんでィ」

「…!うんっ!」


総悟と繋いだ手から感じるぬくもりが、愛しくて。
来年も、一緒にこの日を迎えられたらいい。そう思った。




特別な雨の日

屯所に着く頃にはすっかり雨も上がって、小さな虹がかかっていた。

目次へ戻る


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -