江戸の町にも、アタシみたいな、いわゆる極道はいるもので。
攘夷だ天人だなんて、アタシには関係ない。ただ、生きたいように生きてる。その結果がコレだ。
今日は珍しく一人だけど、路地裏にそこらへんにいたひょろっちい男を引き込み、お金をせびっていた。
「おい、テメエ。金、あんだろ?出せよ」
「ひっ…も、持ってないですぅ…っ」
「持ってんだろーが」
いつもなら、無理矢理出させてそのまま店にでも行くはずだった。
でもそのとき。
「はい、すとっぷすとっぷ。待ちやがれィ」
「んだテメ、ェ………」
真選組…の、奴だと思う。
黒い隊服に刀を引っさげて。茶髪の、どこか子供らしさを残したポーカーフェースの顔立ちに_____赤い目。視線だけで貫かれるような、赤い目。
警察か、厄介な奴に見つかったと思ったそのとき、視線が交わり、どきりとした。
「何やってやがんでィ」
「…何って、見りゃわかんだろ」
「まあそうだなァ」
その間に男はヒィヒィ言いながら逃げてしまった。あーあ、カモが。
「チッ…」
「補導とかしなきゃなんねーんかねェ。めんどくせーや、やっぱやーめた」
「はァ?」
覚悟してたアタシは拍子抜けして、間抜けな声を発した。こんな警察見たことない。
「アンタそれでも警察かよ?」
「まーねィ」
「ハッ、こんなサツ見たことねーよ」
呆れた。でも、面白い。思わず、くすりと笑ってしまった。
すると、そいつは少しだけ驚いたように目を見開いた。
「なんでィ、ちゃんと笑えるじゃねーか」
「…っ」
ハッとしてまた眉根を寄せる。また強気な顔に戻ったあたしを見てフンと鼻をならすと、そいつはコキ、と首を曲げながら路地裏を出て行った。
「こんなことするもんじゃありやせんぜ。てめー笑ったら年相応の普通の女なんだから、ちったァまともになりやがれメス豚」
去り際、そう言い残して。
…本当に、こんな警察、見たことねェよ。
アタシはどくりと大きく脈打った心臓を押さえつけながら、その後ろ姿をずっと見つめていた。
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