一目惚れだった。
あの、団子屋の女に。
柄にもなく、手に入れたいと。護りたいと、思った。一目で。
数秒、魂が抜けたようにぼうっと見惚れて、気がついた。見惚れるくらいの微笑を浮かべるその女の隣には、あいつがいた。
「お待ちどうさまです。よもぎ団子です」
「おう」
「マヨかけたらだめですよ」
「なん…だと」
「せっかく丹精込めて作ったお団子を粗末にしないでください、たとえ土方さんが美味しく食べたとしても、私が嫌です」
「お前、マヨの良さを分かってねェよ」
「分かりたくもありません」
土方さんだった。親しげに話すその顔は、いつもよりいくらかいきいきして見える。マヨネーズの話だからかもしれないけれど。話の内容はともかく、二人とも表情は楽しそうだ。舌打ちを一つし、近づいた。
「副長がサボりたァ、いただけねーや」
マヨをかけずによもぎ団子に噛み付いた土方さんの前に立つ。土方さんは、眉間にしわを寄せた。
「総悟、てめェまたどこでサボってやがった…俺ァ、休憩だ休憩」
「何のんきに団子食ってやがんでィ、仕事たまってんでしょ」
「少しくらい…」
「今頃、俺の始末書がまた土方さんのほうに行ってる筈でさァ。ほら、さっさと仕事して来てくだせェ」
「てめっ…またやらかしたのかよ!そしててめーにだけは言われたかねーよ!!…チッ…」
土方さんは団子を飲み込んでから、立ち上がる。うまかった、と言って代金を払い、帰って行くのを見ていた。
よし、うまくいった。女から離すことに成功し、内心ほくそ笑む。
「みたらし一つ下せェ」
「あ、はい」
持って来てもらったみたらしを口に入れる。女は、お盆を抱えながら俺に聞いた。
「あなたは行かなくていいんですか?お仕事」
「俺は今見廻りっていうちゃんとした仕事をやってっからいいんでィ」
「そうなんですか?」
あ、信じてねーな、こいつ。くすりと笑った女を見た。可愛い。
「土方さんって、」
女が言う。楽しそうに目を細めて。
「面白い方ですね。怖いかなって思ってたけど、そうじゃなくて。仕事熱心で、いい方です」
その声は、表情は、確かに好意を帯びていて。
ああ、またか、と思った。土方さんは、俺から何もかも奪って行く。
「…あんな奴、やめた方がいいですぜ」
「それはどうして?素敵な方だと思いますけどね」
「…そう思うのか?」
「ええ、そう思います」
にっこり笑う女が、憎らしい。いや、憎いのは土方さんだ。
俺が欲しいもの、ぜんぶ、奪って行く。掻っ攫って行く。姉上だって。今だって。
団子を噛みちぎった。
一目惚れの過失くそ、こんなのって。
企画
鷲掴様に提出。
ありがとうございました。