そろり、と陰から団長を見る。
団長は甲板でぼーっとしてる。団長なのに、暇そうだ。壁から見てるこっちのことなんて気づいてないようだった。
「団長よし、プレゼントよし、心の準備よし」
「よし、行って来い」
ぽん、と頭に手を置かれる。一歩足を踏み出す。
おなまえ!いきます!!
が、くるっと180度回転した。
「あー、でもやっぱり何にもないのにプレゼントなんてさあ…」
「大丈夫だって。日頃の感謝の気持ちですーとか言えば」
「感謝っていう感じじゃないんだけど」
「じゃあ日頃お世話になってるのでーとか」
「うーん…」
「もうなんでもいいだろめんどくせェェェ!」
「ひごろってなんだっけっ?」
「そこかよ!落ち着け!!」
うわああ、どうしよ、混乱してきた。そうだよ、何て言って渡せばいいんだろ!
あわあわしていると、阿伏兎があたしの肩を掴んだ。
「深呼吸だ。なるようになる。言いたいこと、素直に全部言って来い」
「…わかった。そだ、阿伏兎」
「あ?」
「これ、阿伏兎に」
危ない、忘れかけてたや。ポケットから小さめの箱を取り出し、ハイと渡す。
「いろいろありがと、阿伏兎。日頃の感謝の気持ちだよ」
にこっと笑う。あ、こんな感じでいいのかも。阿伏兎は目を丸くしたけど、受け取って箱を開ける。
「お。キレイじゃん」
中に入っていたのは小さめの石。いろんな色に光り輝いている。
「えっと、オパールってやつで、転職したい人におすすめらしい」
「なんで転職!?おかしくない!?」
「よくわかんなかったから、お店の人のおすすめで買ってみたの」
「店の人のチョイス悪すぎ!!」
「ま、キレイだからいいじゃない」
「…ま、そーだな。ありがとよ、嬢ちゃん」
にっと笑った阿伏兎に、微笑み返した。
「どういたしまして!」
「へえ、おもしろいことやってるね。おなまえ、阿伏兎」
冷たい声が聞こえてばっと後ろを振り向くと、団長がにこにこと笑って背後に立ってた。目が笑ってない。
「俺が気づかないとでも思ってたの?そんな大声で話してたら気づかないわけないじゃん」
「だ、団長っ!」
全然声の音量気にしてなかったもんなあ…。阿伏兎が冷や汗をたらしながら後ずさりした。
「じ、じゃあ、俺はこれで」
「逃げるの?阿伏兎。殺しちゃうぞ?」
殺気ハンパない!やばい!殺人が起きちゃう!フォローしなくちゃ、と一歩前に出る。
「ち、違うの団長!」
「何が違うの?」
「あたし、本当は団長に用があったの!阿伏兎はついでっ」
「ふうん、用って何?」
「あの…えっと、」
心臓がうるさい。落ち着いて、素直に言いたいこと全部言うんだ!
「あのね!」
勇気をふりしぼって、いざ。
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