お昼時、もうかなり時間も良い頃。
いつもの定食屋さんを訪れる。


「こんにちはー」

「いらっしゃい!お、おなまえちゃん。今日はどうするね?」

「んー、唐揚げ定食の気分」

「おうよ!」



ガタンとカウンターに座る。あー、疲れた…と思っていたら。ガララ、と扉が開いた。


「お、いらっしゃい!」

「おやっさん、トンカツ定食」

「はいよ!」


黒い着流しの二枚目おにーさんのご来店だ。視線があった。瞳孔ガン開きだった。怖ェよ。
おにーさんはひとつ席をあけてカウンターに座る。厨房から、親父さんが声をかけて来た。


「おなまえちゃんは今日はいつもより遅いんだねェ」

「今日はちょっと仕事が長引いちゃって」

「そうかそうか」


お冷をひとくち。


「土方さんよ、今日は着流しなんだねェ」

「あー…今日は非番だ」

「そうかそうか」


…なんか…会話が似てるな。とは思いつつ、またお冷をこくりと飲んだ。
しばらくすると、親父さんがにこにことお皿を二つ持って来た。


「はいよォ、お二人さんお待ちどう。これ、唐揚げ定食と、トンカツ定食ね」

「どーも」

「あァ」


受け取って、気がついた。いつものやつがない。視線をあげて、親父さんに言った。


「「マヨネーズください」」


一言一句間違えずにハモって、驚いて相手を見る。すると、その人も瞳孔をさらにガン開きでこっちを見ていた。


「あー忘れてた、すまんねェ。えーっと、二人とも一本ずつだろ?」

「「あ、はい」」


え。この人、一本もマヨネーズ使うの?って、私も同じか。ってことは、え?この人も?いやいや、まさかまさか。自分でもありえない、私以外にはいないだろうと自覚してるんだよ?
新品のマヨネーズを受け取り、フタを開ける。そして、

ぶちゅぶちゅぶちゅっ。

唐揚げに山のようにぶちまけた。その音も重なって聞こえておそるおそる振り向くと、横でもクリーム色のものがトンカツの上に渦巻いていて。


「あの…もしかして…」

「お前…もしかして…」

「「同志よ!!!」」


お互い、ガシィと手を握り合った。


「いっやーまさか私以外にもこんなマヨラーがいたなんてね!」

「同感だ、他人の土方スペシャルなんて初めて見たぜ」

「土方スペシャル?」

「俺土方だからよ。マヨをかけた料理を土方スペシャルと呼んでる」

「へー!じゃあ私はおなまえスペシャルと名付けようかな!?」


ブンブンと手を握り、振る。親父さんがうんうんと頷いている。


「美味しいよね!!マヨネーズ!!」

「もはやマヨネーズは俺の一部だ。全ての料理にあうマヨネーズこそ、食品の王だと考えてる」

「おおおお!良い事言う!」


本当に嬉しい!!この美味しさを共感出来る人がいるなんて!!土方さんっていうんだね。お前はおなまえっつーのか。なんて、互いの名前をインプット。記念すべき、マヨネーズ仲間だ。


「私、実は仕事でマヨネーズを作っているなの。工場じゃないんだけどね、マヨネーズが好きすぎて!」

「なんだと!?それはいいな。自家製マヨは特に美味しい!」

「でしょ。あ、今度ぜひウチのマヨ買いに来てよ!」

「そうする。どこだ?俺用にとりあえず50本作っとけ。取りにくるから」

「50ね、分かった。それ全部ひとり用?」

「もちろんだ」

「だよねだよね!」


意気投合して、それからも定食を食べながらマヨネーズについて語り合うこと数十分。
気づけば、私と土方さんの他にもたくさんいたはずのお客さんはひとりもいなくなっていた。






(あれ?他のお客さんは?)
(口元を抑えながらお帰りなさったよ)

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