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驚きと幸福で死ぬのでは?


※あんスタコラボに触発されたアイドルパロ(コラボの四人がアイドルです)

サラサラの髪にツリ目がちな大きくて鋭い瞳。細いけどきちんと付いた筋肉。ちょっと高い声が紡ぐ自信に溢れる言葉。

「どれを取っても最高のアイドルだよ東堂様〜!」
「また始まったな」
「ほっとけほっとけ。発作だヨ」

ライブ映像が流れるスマホを握り締めたまま机に突っ伏す俺に、新開と荒北は慣れっこだと言わんばかりに雑誌を見たりゲームをしたり忙しい。
授業も終わり、大半の生徒が帰宅する教室の中で端に陣取る俺たちの事は誰も気にしない。
女子達は新開をちょいちょい見ていくが、別にそれだっていつもと変わらないし。夕日に照らされた新開の髪がいつもよりオレンジになってるな。くらいだ。
綺麗だとは思うけど。

「お前ら俺の扱い雑だよな」
「何回同じやり取りしてっと思ってンの?」

確かに「また」だし、発作みたいなものかもしれないが、そんな冷たくすることないと思う。
むしろ東堂様を思っての発作なら処方箋はいらない。この辛さと共に生きていく。
そんな事を言うとキモイと言わんばかりに荒北が顔を怖くするから口に出さずに飲み込むけれど。

「だってさぁ〜、なぁんで東堂様の良さがわっかんないかなぁお前らは」

机に頬をべったりつけながら横の席に座る新開達を見る。
スマホを弄る新開は一応こっちを向いているけど、荒北は顔も体も雑誌に向いていてまるで俺に興味がない。
俺に?東堂様に?東堂様に興味ないとか言われたら寂しくなるから俺に興味がないってことにしておこう。
俺の中で優先順位は既に俺<東堂様なのだ。
ハハハ。と新開の乾いた笑い声が鼓膜に届く。

「女の子ならまだしも、男だしなぁ。歌もダンスも上手いとは思うけど、ファンにはならないよ」
「そうそう。男に興味ねぇヨ。お前なんなの?ホモなの?」
「ホモじゃねぇし!東堂様にそんな気持ち抱くわけないだろ!?」

疑いを含む目線に、思わず立ち上がる。
東堂様は気高くありながら俺たち庶民にも優しく、ファンサービスも多い。グルメ番組のコメントで料理の味をくまなくわかりやすく伝えることが出来るのは、実家が由緒正しい旅館だからだろう。だから当然育ちもいい。マナーがなってる。
なのにバラエティに出ればきちんとその場を盛り上げる発言が出来るし、なんならちょっとした天然で笑いもかっさらう。そこらへんの芸人さんより笑いを取る。
運動神経が良いからスポーツだって出来るし、頭も良いからクイズ番組だって出ちゃう。
ライブなんかもっとすごい。大きく通る声はステージ内に響き渡るし生歌でも全然CDに引けを取らない。めちゃめちゃにかっこいい。でもたまに外すという可愛さも兼ね備えてる。
ダンスはアイドルらしく、魅せるのが上手い。実際上手さだけで言ったらよく東堂様の横に居る青髪の…えっと…なんだっけ…あ、そう、なまみくん。なまみくんのが上手いのだろうけど、魅せるのが上手いからつい目線が東堂様に行ってしまう。
細くしなやかな体から繰り出されるダンスは美しく繊細だ。歌はロック調の方が合っているが、ダンスは反対にバラードのゆったりしたダンスがベストマッチ。
儚く消えてしまいそうに踊る姿は俺たちを不安にさせてますます東堂様から目が離せなくなる。
かと思えば一転。MCになれば今までのかっこよく可憐な東堂様は鳴りを潜め、年相応の男子高校生が顔を出す。
テレビの時よりリラックスしているのか、喜怒哀楽の激しい表情はくるくる変わって可愛いし、無茶ぶりされてもちょっとおだてれば調子に乗ってやってくれるところも可愛い。普段の東堂様が垣間見えるのが最高だ。
なぜ普段の東堂様を知ってるかって、メイキングで見てるからだ。メイキングはほぼ素と言ってもいいだろう。あんなもの隠し撮りみたいなものだ。一気に背徳感が増した。後で見よう。
そんな完璧な東堂様なんだから、努力だってしているだろうにそれを微塵を見せないところがまだかっこいい。
東堂様は「山神だからな!」と言っているが、メイキングでばっちり一人残って練習している姿が映されてた。努力してんじゃん好き。ちなみになんで山神名乗ってるかはわからない。俺がわからないということは東堂様以外誰もわからないと言うことだ。おそらく今は知るときではない。
とにかく、ルックスも性格も最高に最高な東堂様だが、一切邪な気持ちでなんか見ていない。
もちろん俺は女の子が好きだし。東堂様は、そう、推しなのだ。
ただ存在しているだけで幸せで、東堂様が幸せなら俺はもうなんだっていいのだ。
っていうか東堂様って今高校生なんだよな?え?つまりそれは午後10時以降はテレビに出られないってことだよな?何それ辛い。もっと東堂様を見たい。
でも午後10時には家に帰ってあったかいお風呂に入ってフカフカのベッドで寝る東堂様ってめちゃめちゃ尊くない?やっぱ神じゃない?

「……」
「……キッモ」
「ちっちゃい声で言うのやめてくれる!?俺もちょっとやべぇなって思ったけど!」

勢いよく立ち上がり一息で言い切った俺に、ギリギリ苦笑いの新開と明らかに引いてます。と言う顔の荒北。
本人に伝える気のない悪口は陰口で、陰口は悪口よりも傷つく。本人を目の前にして陰口を叩ける荒北はすごいのかなんなのかわからないが、とりあえずちょっと傷ついた。
でもあれもこれも東堂様が素晴らしいからなので俺は強く生きていく。東堂様のファンとして恥じないように生きていく。

「ってかなまみじゃなくて真波だろ?」
「あ、そうだっけ?」

カロリーの棒みたいな奴を食べながら指摘された言葉に、記憶を掘り返してみるもいまいち正解が出てこない。
でも確かになまみなんてちょっと血が滴ってそうな名前はしてなかった気がする。仮にもアイドルな訳だし。

「お前ほんとトードーサマしか興味ネェのな」
「俺は東堂様のファンだから別にグループに興味はないな。ぶちゃけ名前も覚えてない」

呆れ顔の荒北の指摘はごもっともだ。これをグループのファンの子に聞かれていたら間違いなく殺されるだろうが、事実なので仕方ない。
さらりと真波の名前を答えた新開の方が、俺よりグループメンバーの事は知っていると思う。
俺の視界には東堂様しか映ってないから。

「というか荒北だって俺のこと言えないだろ。福富さんの事アホみたいに好きなくせに」
「ハァ!?一緒にしないでくんナァイ!?フクチャンはそういうアレじゃねぇから!」

食ってかかってくる荒北に、好きって否定しないじゃん。なんて言おうものなら天邪鬼でツンデレな荒北は速攻で否定してくるだろうから言うのは辞めた。
本当は好きなのに否定しなきゃならない辛さはよく知っているのだ。俺も初めはそうして傷ついた。荒北にそんな辛い思いはさせたくない。
ちなみに俺はもう冷たい目線も何もかも吹っ切れたのでどれだけウザがられても東堂様を好きだと言いまくるけど。
だけど荒北のソレは周囲の目とかそんなんじゃなく性格からくるものだから吹っ切れようがない。天邪鬼とは大変である。

「お前変な事考えてナァイ?」
「荒北は生きていくのが大変そうだと考えてた」
「人の人生勝手に悲観してんじゃネェヨ」

真顔で放たれたデコピンは思った以上の殺傷力で思わず額を抑えて蹲る。
穏便で被害者な俺と暴力的で加害者な荒北と仲裁に入るまとめ役新開で成り立つ三角関係。ではなく、新開は悲しいかな。圧倒的傍観者だ。
しかもどっちかというと加害者側の。
物理攻撃はしてないが、たまにくる精神攻撃が痛い。今も痛みに蹲る俺をニコニコ楽しそうに笑ってみている。
優しい顔してサドと、いかにもサドと、ただのオタクの三角関係だ。

「っと、もう下校時間だな」
「アー、ほんとだ。名前帰り寄るとことあるとか言ってなかったァ?」

寄るところ?あったっけ?
雑誌を乱暴にカバンに仕舞いながら放たれた言葉に今日の予定を振り返るも特に思い当たる節はない。
CDの発売は来月だし、雑誌は明日。DVDはもう発売されてて、出演予定の番組は録画済。あとは…

「あぁああああ!!忘れてたぁあ!!!」
「うおっ」
「っ!?」

大声で立ち上がった俺に驚いたのか、タレた目を見開いて俺を見つめる新開と、思いっきり肩を揺らした荒北。
うっせーヨ!とさっきの俺に勝るとも劣らない大声をあげる荒北の声をバックに急いで荷物をかき集める。
カロリーの棒の袋を丸め、綺麗な弧を描いてゴミ箱に投げ入れた新開はもう何本目になるかわからないその棒の袋を開けた。

「思い出したのか?」
「思い出したよありがとうじゃあ俺帰るからまた明日!」

息継ぎ無しのノンストップで返事をしながら鞄を持って駆け出す。
教室から出る直前に確認した時刻は16時7分。電車の発車時刻まで後7分。
途中で上履きを脱ぎながら滑る靴下で廊下を走り、下駄箱に着いて靴を取った瞬間上履きをぶち込む。
門を抜けて見知らぬ人の敷地におじゃましますおじゃしましたを繰り返した近道を通り、過去最高速度をたたき出しながら飛び乗った電車はいつもよりちょっと空いていた。







「はぁ〜、良かった!残ってた!買えた!ありがとう店員さん!」

両手で袋を握りしめて歩く駅までの道のり。
切れすぎて死にそうになっていた呼吸は落ち着きを取り戻して今や違う意味で息が切れそうだ。
握った袋の中には今日発売された東堂様の写真が数十枚。
俺としたことがすっかり忘れてしまっていたが、今日は東堂様の新写真が入荷する日だった。
東堂様は人気がヤバイのですぐなくなってしまうのだが、俺が新しい写真が出る度に、毎回大量に買っていくので優しい店員さんが俺の分を残しておいてくれたらしい。
ほんとうにありがとう店員さん。これからもここにお金落とすのでよろしく頼みます。
ちなみに写真だが、今回は先月にライブDVDが発売したのもあって主にライブ関連の写真が多かった。
動いて喋る東堂様も素敵だが、静止画で圧倒的な美しさを魅せる東堂様も素敵だ。
動きや喋りに意識が行かない分、造形の美しさに心がやられる。
ちなみに東堂様だけだったら12枚程で済むのだが、グループで写ってるものやコンビ、トリオで写ってるものも買うため枚数が増える。それを緊急時の為に二つずつ買っているので倍。もういくら使ってるとか見たくない。
だけどこのお金が東堂様のお財布に入ると思うと全然惜しくないし、何より心の栄養補給なので必要出費だ。
心が死んだら体も死ぬ。どっかの偉い人が言っていた気がする。
穏やかな風に目を閉じる。人通りもないこの道は、あまり知られていない駅への近道だ。裏路地と言っていい。
まぁ、人いないし。と両手に握りしめていた袋から数枚写真を取り出して歩きながら眺める。
白と青を基調とした衣装はクールでかっこいい東堂様にピッタリだ。DVDで見た東堂様は最高だった。一公演も当たらなかったのが残念でならない。
ベストアルバムを引っさげてのライブだったこともあって倍率がえぐかったらしいし、仕方ないと言ったら仕方ないんだけど。
いや、でもかっこいいわ。

「うわっ」
「おっと」

何かにぶつかって、思わず尻もちをつく。
思考と視界を東堂様で埋め尽くされていたせいか、前が見えなくなっていたらしい。
バランスを崩したせいで手元から離れた写真達がパラパラとアスファルトの上にばらまかれて、「すみません」と謝りながら拾い集めようと立ち上がる。
相手からの返答はない。結構な枚数があったせいで、何枚かはぶつかってしまった相手の足元に落ちていた。
靴の大きさからして男性だろう。返答がないところを見ると怒っているのかもしれない。
踏まれたらどうしよう。と考えて近場の写真を放置して相手の足元の写真に手を伸ばす。しかし、俺の手が触れるより先に、上から伸びてきた手がその写真を掬い上げた。

「あ、すみません、ありがとうございま…」

お礼を言うためにあげた顔は、目的を成し遂げる前に硬直して動かない。
拾い上げた写真を見つめるその人は、数秒写真を見つめると視線を俺に落とす。

「きみ、俺のファンかね?」
「……」

は?え?見たことある。っていうかよく見てる。めちゃめちゃ見てる。毎日見てる。
フリーズを起こした俺の脳が有り得ない現実を夢か何かじゃないかと仮説を立てて、証明。
証明出来ず。結論。これは現実である。

「xrrcwjn☆tegj!?!?!」
「ちょ、落ち着いてくれ!声がデカイぞ!バレたら困る!」

全然理解出来ない結論に何語かわからない声をあげた俺の口が、焦った顔のその人の手に塞がれる。
高めの体温がジワジワと顔を侵食して、鼻腔を柔らかい石鹸の香りが満たしていく。
いろいろとキャパオーバー過ぎて熱暴走を起こしてしまいそうな脳を助けるために、脊髄が勝手に反応して、気が付けば言葉を理解する前にブンブンと首を縦に振っていた。
「本当に大丈夫か?」をその顔全面に出したその人は、恐る恐る。と言った感じで手を離して、その手をそっと地面に付ける。

「大丈夫か?さすがの俺もびっくりしたぞ?」

跪くように座るその人は俺の様子を伺うようにこちらを覗き込んで、あぁ、かっこいい、無理。と反応出来ない俺を心配そうに見ながら写真を拾い集める。
いや、何させてるんだ俺は。自分で拾えよ。とは思うものの、処理が追いつかなすぎて体も思考も動かない。
ようやく現状を理解出来た頃にはばらまかれた写真は目の前の人の手に収まっていて、しかもしっかり袋に入れてくれていた。

「あ…ありがとう、ござい、ま、す」
「うむ。それにしても多いなぁ。同じ写真が二枚あったが、友達から頼まれたのか?」

袋を手渡してくるその人は、さも不思議そうに瞳を丸くしながらちゃっかり上目遣いで首をかしげる。
あー!可愛い!無理!無理です!やめてください死にます!
なんて口に出てしまいそうなのを押さえ込んで、袋を受け取りながら首を振った。

「いえ…全部…俺の、です」
「全部!?すごいな…めちゃめちゃ俺のこと好きじゃないか」

驚きに見開かれた目と、滲み出る嬉しそうな声。
一切疑うことなく受け入れられる好意のなんと心地いいことか。人から愛されて生きてきたからこそ素直に好意を受け入れられる。
そうなんです。俺、貴方のことが好きなんです。
というかやっぱり

「…東堂様、です…よね?」

最後の事実確認に、消え入りそうなほど小さい声は届いたらしく、いつも画面越しで見る不敵な笑みが作られる。

「大人気アイドルグループに所属している山神、東堂尽八を指しているなら正解だな」

ハッキリ言い切られた言葉に、ようやくこれが現実なんだと実感が湧いてきて意味もなく目元が熱くなった。
込み上げるなんとも言えない感情は言葉にならない代わりと言わんばかりに瞳から溢れ出て止まらない。
こんな反応には慣れているんだろうか。慌てることもなくポケットからハンカチを取り出して俺の頬を拭う東堂様はテレビ越しで見るのと何も変わらない。
東堂様はこれまで、俺と同じ感情と状況に至った数々のファン達の涙をこうして拭ってきたのだろうか。なにそれズルイ。というかだから、なんで俺は何もせずにされるがままなんだ。
「すみません」と一言言うと、顔から遠のいたハンカチを確認して代わりに袖でゴシゴシと拭う。
そんなに擦ったら赤くなるぞ。と声が聞こえたけど、東堂様のハンカチを濡らすより全然マシだ。でもこれはこれで東堂様の好意を無下にしてるみたいで心苦しい。
まだ溢れそうになる涙を押さえ込んで、顔をあげる。滲む視界の中で、それでも東堂様は綺麗な顔で微笑んでいた。

「泣く程好いて貰えてるとは、嬉しいものだな」
「う゛う゛ぅ…そうですぅ、すきなんです゛ぅ〜」
「あぁ、また涙が出ているぞ。泣き止んでくれ」

あぁ、困らせてしまってる。
ハンカチを出そうとする東堂様を静止して、びちょびちょになった袖でもう一度涙を拭う。
いかんせん袖がびちゃびちゃなせいで目の辺りが余計に濡れてる気がするけど、そんなもの気にしてられない。
人通りがなくて良かった。人が多かったら今頃大騒ぎだ。比喩とかじゃなくマジで。

「それにしても、俺にも男のファンというものが存在するのだなぁ」

片手を頬に当ててしみじみと独り言のように言葉を紡ぐ東堂様に、間抜けな声があがる。
男のファン。確かに見たことがないかもしれない。俺はほんとに東堂様だけが好きで、ぶっちゃけ同志にあたるファンには興味がないので知らないが。グループファンでの男女比は7:3くらいだろうが、少なくとも俺は男で「きゃー!東堂様〜!」と叫ぶ声を聞いたことがない。思い返せばSNSでも東堂様のファンを名乗るアカウントは女の子ばかりだし。
当事者の東堂様が知らないならほんとにいないのかも。

「巻ちゃんは男のファンが多いんだよなぁ。わからなくもないが。俺はトークも切れるし歌も上手いしダンスも踊れるし何より美形で女子にモテるのは納得なのだが、男のファンは見たことなかったから。なぁ、きみはなんで俺のファンになったんだ?」

興味津々、と言わんばかりにかけられた問いに思考を巡らせる。なんで。なんでって。
顔がかっこいいとか、ダンスが上手いとか、歌が上手いとか、喋りが面白いとか、行儀が良いだとか、ファンサービスが良いだとか、天才なのに努力家だとか、理由はいくつも出てくるけれどどれも好きになった後に増えたものだ。きっかけじゃない。
好きな理由は出てくるのに、好きになった理由は全然出てこない。
きっかけなんて覚えてない。きっとなかった。

「気がついたら、好きになってました…」

口から漏れた言葉にキョトンとまん丸く目を見開く東堂様は、数回パチパチと瞬きをすると「ふはっ」と楽しそうに笑う。
笑う顔は整っていて綺麗なのにどこか幼くて可愛らしいが、なぜ笑っているのかがわからない。
何か変なことを言っただろうかと自分が発した言葉を脳内で繰り返している慌てる俺とは反対に、落ち着いたのか、どこか満足気に微笑んでいる東堂様の手が伸びてきて俺の頬を撫でる。
高いと思っていた体温が、今は同じくらいに感じる。それが俺の勘違いなのか、俺の顔が熱いせいなのかは確認出来なかった。
キメの細かい肌がするすると動く。

「ふふ、告白みたいだな」

え?
俺が言葉を理解するより先に携帯の着信音が割り込んで、頬から温度が離れていく。
青いケースを付けたスマホを耳に当てながら立ち上がった東堂様は、時折頷いたりジェスチャーをしていて、俺は「もしかしてゲームとかで体が動いちゃうタイプなのかな」とかめちゃめちゃどうでもいい考察を巡らせた。
いや、そんなことはどうでもよくて、告白?誰が?俺が?東堂様に?
さっきからキャパオーバーを繰り返している脳は正常に働かない。
ポカンと口を開けたまま座り込んで東堂様を見上げていると、電話が終わったらしくスマホをポケットに仕舞いこんだ東堂様が俺に視線を落とした。

「すまんな少年。俺はもう行かなくては。これからも今まで以上に楽しませてやるから、引き続き応援頼むぞ!」

そう言ってみんがせがむ指差すやつをした東堂様は、地面に置かれていたバッグを手に持っていまだ座り込んだままの俺の横を駆けていく。
あ、と後ろから声があがって振り返れば、同じく振り返っている東堂様が片手をあげて手を振っていた。

「まだ早いが、正月にはカウントダウンライブもしたいと思ってるから、良かったら来てくれ!」

人通りが少ないとは言え、大声で放たれた言葉にまた脊髄反射で頷くと、東堂様は今度こそ背を向けて走り去っていった。
一人取り残された路地裏で惚けていると、聴き慣れた着信音が響いて画面に目をやる。
着信は新開からのもので、回らない頭で、それでも応答ボタンへと指をスライドさせた。

「あ、名前?今どこにいるんだ?実は友達が名前が乗り継ぐ駅の近くで東堂を見たって言っててさ。もしかしたら行けばあえるかも…名前?聞こえてる?」
「しんかい…俺、東堂様に告白しちゃった…」
「え?どういうこと?」
「俺にもよくわかんない…東堂様体温高かった…」
「名前大丈夫か?ついに幻覚まで見るようになっちまった?」
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