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好きなら別にいいんじゃね?


「あっ、しっ、きっ、ばー!」
「うわぁ!」

バレないようにこっそり近づいて勢いよく背中へ飛び乗ると、葦木場から情けない声があがった。
葦木場からは背中に張り付いている俺は見えない。
キョロキョロと周囲を見回して、ようやく後ろを振り返った葦木場は俺と目が合うと嬉しそうにその目を輝かせた。
うん、可愛い。

「名前!びっくりしたぁ、探しちゃったよ」
「びっくりさせるためにやったからな!」
「全然気付かなかった、忍者みたいだね」
「俺が忍者だったら葦木場はもう殺されちゃってるなぁ。このまま喉をこう、グサッって」

葦木場の首に回っている手の片方をナイフを持つように握り、横へとスライドさせる。
不安定に揺れる体を支える為にブラブラと揺れていた足を葦木場の体へと巻きつけた。
何をしているのかと目を瞬かせていた葦木場はようやく意味を理解したようで、ニコニコと笑っていたその顔から血の気が引く。

「え、や、やだ、俺死んじゃうの……?やだよ、怖いよ」
「バーカ、俺が葦木場を殺すわけないだろー?でも怖かった?ごめんな」

足に力を込めてよじ登る。
セルフおんぶのようになり、葦木場の頭が見下ろせる位置まで登った俺はバランスを取りながらくしゃくしゃと葦木場の頭を撫で回す。
「やめてよー」と言いながらもその手は俺の手を掴んでくることはない。
口元が少しだけ緩んでいるから本気で嫌がっているわけではないのだろう。

「あーもーほんとに葦木場は可愛いなぁ」
「……もー」

葦木場は声のトーンを落として目線をそらす。
恥ずかしいのか、目線の方に顔を移動させてもまた逆にそらされてしまう。
いい加減ウザかったかな。と動きを止めて数秒。
こちらを伺うようにゆっくり視線を向けてきた葦木場に、思わず思い切り抱きついた。
だめだ、やっぱり可愛い!

「俺葦木場のことめっちゃ好きだぁあ!」

耳元で叫んでしまったせいか葦木場はビクリと肩を揺らした。
そのまま俺が顔をあげると葦木場の顔が至近距離にあってびっくりしたが、それでも動くことなく「な、葦木場!」と笑ってみた。
ポカンとしていた葦木場の顔が嬉しそうに輝くと葦木場の手が背中へと伸びていき、制服を思い切り掴まれて引っ張られる。
「え」と声をあげるまでもなく、グルンと半回転した俺の体は気が付けば葦木場の背中から腹の方へ移動していた。
あまりにスムーズすぎる移動に置いてきぼりの俺を無視したまま、葦木場が抱えるように俺に抱きつく。
全身に感じる葦木場の体温と、耳元で嬉しそうに笑う葦木場の声に俺もつられて笑う。

「俺も!名前のことすっごい好き!」
「やったな!両思いじゃん!」
「両思いだね!やった!」

「初デートはどうしよっか!」と喜びを声に乗せて放つ葦木場に「コイツ結構ノリいいんだな」と感心する。
天然な葦木場はボケをボケと捉えないことが多々あるが、今回のは理解できたようだ。
「そうだなぁ、どこ行こうか」と葦木場とアホみたいな会話を繰り広げていると背中に衝撃が走って、勢いよく舌を噛んだ。

「廊下でなにしてんだよ。あれか、バカップルか。付き合って間もないバカップルか」
「クロ!今な、葦木場と初デートはどうするか話してたんだよ」
「ユキちゃんはどこがいいと思う?」
「マジだった!マジで付き合って間もないバカップルだった!」

「どこでもいいよ、勝手に行ってろ」と軽くあしらったクロは葦木場へと視線を向けた。

「先生がさっき呼んでたぞ。職員室にいるだろうから行ってこいよ」
「えぇ、俺何かしたっけ…」
「知らね。とにかく急いでたっぽいぞ」
「そっかぁ、じゃあ行かなきゃ」

「ごめんね名前」と俺を下ろした葦木場は小走りで廊下の角へと消えていく。
葦木場の消えた角を用もなく見ていたのだが、クロの視線を感じて横を向く。
すると予想通り呆れたようにため息を吐いたクロがこちらを見つめていた。

「お前、あれ勘違いされてるぞ」
「勘違いって、なにが?」
「付き合ってる、って。本気で思ってるぞ」
「あー、いいんじゃね?」
「はぁ!?」

俺の返答にめちゃめちゃ驚いたのか、クロの声は廊下全体に響いたらしく、数人の生徒が何事かとこっちを見てきた。
それに「なんでもない」と手を振って散らす。クロの「マジかよ」という呟きが耳に届いた。

「え、は?確信犯?」
「まっさか!でも俺葦木場のこと好きだし、いいんじゃね?」
「お前の好きって、そういうあれなの……?」
「あー……わっかんねぇなぁ。でも俺葦木場のことすっげぇ好きだし、可愛いって思ってるし、あれ、これってそういうあれなのかな?どう思うクロ」
「いや、知らねぇよ!わかるわけねぇだろ!」
「うーん、でもクロと付き合えって言われたらちょっとご勘弁ってなるから、そういう好きなのかもなぁ」
「こっちだってご勘弁だよ……」

疲れきったように俯くクロの背中を、さっきのやり返しと言わんばかりに叩く。
うめき声をあげたクロに「飯食うぞー!」と笑えば渋々と言った感じで付いてきた。
食堂で出てきた海鮮丼を見て「俺北海道がいいな」と葦木場にメールを送る。
直後に足音が響いて、海鮮丼を頬張りながら音の方に顔を向けると人ごみを割って駆け寄ってくる葦木場が見えて大きく手を振る。
席につかぬまま「いいね!北海道!」と笑う葦木場に「だろ?」と返すと前の席からクロの大きなため息が聞こえた。
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