社畜根性 ルームメイト |
自室に着くとバッグやら制服やらを脱ぎ捨ててベッドへ飛び込む。 入学初日、夢の世界で1日目だが、入学式が終わって皆が寮やら自宅へ帰るなか、何もわからないままボーと立っていた名前が寮長に案内され、この部屋に通された。 まだ一ヶ月も経っていないというのに懐かしい。 寮かよ。とも思ったが高校時代「通学めんどくせぇ」と思っていたのでそれが反映されたのだろうと納得した。 部屋の片方に寄せられて積まれたダンボールに入っていたものは綺麗に収納して、慣れなかったスプリングのないベッドも今や安眠できる。 元の高校時代の自室のようだ。 唯一の難点と言えば部屋が共同というとこだが、この部屋のもう一人の主、THE ヤンキーなリーゼントの男は毎日どこかへ出かけているのか、消灯寸前になるまで帰ってこない。 人見知りである名前はそのヤンキーと話したことはなかったし、ここ二週間は東堂に連れられペダル回しに疲れきっており、消灯時間には既に寝入っていたので顔すら見ていない。 朝はいるのかもしれないが、ベッドにはなけなしのプライバシーのためか、カーテンのようなものがついていてその存在は確認できない。 そのためもう顔すらあやふやで、いないも同然の存在に成り果てていた。 仮入部という東堂から解き放たれた名前はベッドに寝転がりいそいそと携帯を取り出すとイヤホンをつけて動画サイトを開く。 テレビが談話室にしかないこの寮で、そのテレビを占領してアニメを見るなんてことはできない。だがアニメは見たい。 そんな葛藤の末、違法だとわかっていながら動画サイトにアップされているアニメを見ることにしたのだ。 自分が高校生だからか、結末まで知っているアニメしかなかったが見るにつれ、忘れていた設定やシーンが出てきて案外面白い。 仮入部のせいで溜まりに溜まっているアニメを消化している夜7時過ぎ、扉が開く音に思わずイヤホンを抜いて顔を向ける。 機嫌が悪そうにガシガシと頭をかきながら入ってきた男を見ていると、パチリと目が合った。 「アァ?んだヨ」 「あ、いや…」 短い黒髪に細いつり目。 自分になにか用なのかとも思ったが思い浮かぶ限り、見覚えのない顔だ。 部屋を間違えたのかと言おうとしたが、一つの可能性が浮かんで取りやめる。 そうだ、この部屋は俺だけの部屋じゃなかった。 「えっと…なんだっけ…えっと…あら…あら…き?」 「ハァ?」 必死に顔さえわからない同居人の名前を思い出す。 居そうで居ない名字をしていた。あだ名はやっくんなのかな、とも思った。 彼の名は…。 「あぁ、荒北靖友…さん?のお知り合いですか?彼ならまだ戻ってませんけど」 「ハ?」 「え?えっと…もしかして俺に御用ですか?」 「何言ってんだテメェ」 「えぇ…何って…あれ、俺が部屋間違えてますか?」 キョロキョロと周りを見渡すも、自室で間違いないようだ。綺麗に部屋の半分だけ散らかっているのを見て確信する。散らかっているのは同居人のスペースの方だが。 もう一度入ってきた男を見るとこちらを睨みつけるように見つめる小さな瞳と目が合う。 やばい、すごく怒ってる。 「えっとぉ…え、なんですか?」 「なんですかじゃねぇヨ!俺は自分の部屋に戻ってきちゃいけないワケェ!?」 「は?自分の部屋?」 「そうだっつってんだろ!バァカ!」 ここは自室で、彼もここが自室。 だが名前の記憶では同居人はあからさまなヤンキーで、リーゼントだった気がする。 だが彼はここが自室だと言い張っている。 名前は思考の邪魔をするイヤホンを抜き取って、寝転んでいた体制を正すと扉の前の男に向き合った。 「あー…その、あれ?もしかして荒北靖友さん?イメチェンしました?」 「イメチェンじゃねぇヨ!あーもーウッゼ!どーでもいいだろーが!とにかくここ俺の部屋だからァ!」 ドスドスと明らかに「不機嫌です」と体現しながらベッドへ歩いた荒北はそのままベッドへ入り込むと千切れんばかりの勢いでカーテンを閉めた。 突如訪れた静寂にポカンとしていた名前だったがイヤホンから小さく漏れるアニメのエンディングを聞いて携帯に目をやると、そっとサイトを閉じて音を立てずに部屋を出る。 食堂へ行く途中に出会った東堂と共に夕飯を取った際に部屋であった話をすると「それはお前が悪いな」と一刀両断されて終わった。 |