社畜根性
頑張るのはごめんです
地獄の仮入部期間を終え、宣言通りにどこの部活にも入部しなかった名前はHRが終わった直後、東堂に声をかけられた。

「名字!一緒に行こう!」
「どこに?」
「どこに…とは、変な事を聞くなぁ。部活に決まってるだろう」
「俺部活入ってないけど」
「…は?」

美形美形と自称するその顔が話しかけてきた笑顔そのままピシリと固まる。
美形は固まっても美形なんだな。なんて言葉が漏れたが東堂には聞こえなかったらしい。
時間に置き去りにされる東堂の頬をチョンチョンとつつく。
名前の指が4回ほど東堂の頬に埋まったあたりで意識が戻ってきた東堂は止まっていた時間分を取り返すかのように勢いよく名前の肩を掴みグワングワンと前後に揺らした。

「なぜだ名字!あんなに楽しそうにロードに乗っていただろう!」
「あの顔が楽しそうに見えたのか、すごいな。限りなく無表情だった気がするけど俺」
「部活に入らないとお前また授業中寝るし飯食わないし!何よりこの俺と過ごす時間が少なくなるではないか!」
「もしかして本題そこなの?」
「名字、俺は心配なのだ。仮入部が始まるまでの一週間、授業中は寝っぱなし飯はまともに食わない、毎日どこか上の空。それが仮入部が始まってからまともになったではないか。それなのにまたあのように戻ってしまうのではと、心配で心配で」
「東堂は俺の母さんなの?」
「俺が母だったのならもっとまともに育てる」
「ツッコむのそこなんだ」

「ってそうではなくてだな!」とまた部活だ生活習慣だ文句を垂れる東堂の頭をよしよしと撫でる。
自分より数センチ小さい東堂の頭は丸っこく、名前の手にフィットするのだ。なで心地は言わずもがな。
なんでこんな好かれてるんんだろうか。と息を漏らすと、それを諦めのため息ととったのか東堂はキラキラとした笑顔を向ける。

「なんだ!マネージャーになってくれるのか!」
「いや、全然話聞いてなかったからわかんないけどマネージャーにはならない。部活にも入らない」

「それじゃ、お前は部活頑張れよ」と言いながら頭に乗せていた手を方へと落とす。
キラキラ光を放っていた笑顔が一瞬でその光を失ったのが見えたが、一切気にせずそのまま扉の方へ足を向けた。
教室を出る直前、「なんでだぁぁあ」という声が聞こえたがここで振り返ってはまた絡まれるだろうし、なにより東堂が部活に遅れる。
すまん東堂。俺は夢の中まで頑張りたくはないんだ。
そう心で呟くと名前は自分の部屋へと足を進めた。