「大谷様、葵です」
夜、薬を届けに大谷様のお部屋を訪ねると「入れ」とお声を頂いた。部屋の中に入れば微かに煙管の匂いがした。
「(また煙管を吸っていましたね)」
いくら言っても全く聞き入れてくれない主には困り果てていた。せめてちゃんと休んでくれているのならそれでいいのだけれど。
「……薬か」
「はい、軍医様から預かっております」
大谷様の側に寄って、紙に包まれた薬と水を机の上に置いた。薬を飲むかどうか悩んでいるようだったので「お飲み下さい」と言えば大谷様は渋々、薬を飲んで下さった。
「効いているかどうかも」
「ですが飲まないよりは」
「……気のせいか以前よりぬしは過保護ではないか」
「大谷様はご自分のお身体を大事にしてくれませんからね、これからは私がお側におりますからご安心下さい」
「ヒヒッ、ぬしのような小娘に言い包められるとは」
「小娘ではありません、もうすぐ十八です」
「その割には貧相な体よのう」
「貧……」
大谷様に言われ、ぺたぺたと自分の胸を触ってみた。確かに私の胸は貧相かもしれない……いや、確実に貧相です。大谷様が仰られるんですもの間違いはありません。
「む、胸など、あった所で仕事の邪魔になるだけにございます。身は軽い方が何かと」
「女でありながら、それを望まぬと、いや……発育の乏しい体を危惧しておるのか」
「あの、大谷様」
太ももの上にあった拳にギュッと力を入れて、大谷様に問いかけた。けど、大谷様の顔を見る事は出来ず、下を俯いたままだった。
「大谷様は、その、ふくよかな女性が、お好きなのですか……?」
「……。」
「と、殿方は、やはり女性らしい体付きの方が好まれますよね、お声がかかる姉様達も豊満な体でしたし」
私の体は大谷様が言うようにとても貧相で、成長を疑う程残念な体です。胸の膨らみも私の手で収まってしまいますし、お尻の丸みも小さく、はて女性らしい部位というのは私のどこにあるんでしょうか?
「私もいつかはお市様や、姉様のように女の色香が出て来ると良いのですが」
「……女の色、と?」
「大谷様?」
大谷様が突然にグッと私の腰に手を回して来た。トンッと目の前には大谷様の首元があった。
「ぬしのような体では、われを楽しませる事が出来ぬと申すかのか?」
「え?」
呆けていると、大谷様が私の首筋をペロリと舐めた。ビクッと体が震えたが大谷様は御構い無しに首元から耳まで唇を這わせてきた。くすぐったいような、おかしな快感にぞくぞくした。
「おお、谷様?」
「逃げるな」
「ですが」
しゅるりと、背中で帯が解ける音が微かに聞こえた。帯が緩み、きっちり着ていた着物はあっという間に肌蹴ていった。
「んっ、あ、あの……」
腰と背中に手を回され、私は後ろに引く事が出来なかった。そして胸の飾りを舌で遊ばれ体を震わした、大谷様に肌を晒すなどこれまでにいくらかあったが、やはり恥じらいというものはなかなか消えてはくれない。
「っ、はっ……」
小さな胸を遊ばれ、脱げた着物で露わになった両足の間に大谷様の指がぐちゅりと音を立てて侵入してきた。
「……ッ」
「ぬしは」
「い、言わないで下さい」
触れていなかったそこからは既に女の蜜が溢れ出し、大谷様の指を濡らした。じゅるりと濡れた指を引き抜き、大谷様はその指を舐めていた。
その様子がとても色っぽく、押し倒された私は唾をゴクリ飲んで大谷様を見つめていた。
「そんなにも待ち焦がれていたのか」
「そういうわけでは……んッ!」
腰を押さえられたかと思えば十分に濡れていた私の中に、勢い良く固い大谷様のモノが押し込まれた。
慣らしていないそこに、ねじり込まれるように、中を探るように奥まで入ってきた。
「え、嫌……抜いて下さいっ……」
まさかいきなりナカに挿れられると思っていなかった私は、中に入ってきた固いソレを引き抜こうと大谷様の体を必死に押したがビクともせず、グッとさらに奥に押し込まれ、抵抗していた私の両手は大谷様に畳に押さえ付けられてしまった。
「大谷様ッ、あの、やめて、下さ」
「ぬしはわれのモノよ、違ごうたか?」
「ですがッ、やっ、あっ」
私を見下ろす大谷様は、奥に押し込んだソレをゆっくり引き抜き、また奥へと挿れた。そしてぐちゅぐちゅと水音を立てながら動かし始めた。
「ひっ、い……」
「ヒッ、随分とわれ好みの女に育ったものよなァ」
「ッ、あっ、やめっ……」
「ほう、さらに激しくしろと? 欲するか娘よ、われにこうしろとああしろと言うとはなァ」
「ちがッ……ああっ!」
激しく奥を突かれ、抵抗するチカラもなく、解かれた両手はいつしか大谷様を求めるように抱きついていた。
「娘よ、これまで何人の男と寝たのか、何人の男にこうして喜ばされたのか」
「な、にを……」
「芸妓として男に気に入られ、幾たびその白い肌を晒したのか」
「私は、、男と、寝てなど……っ」
「ぬしはわれの物よ、道具よ」
「や、あっ、んっ」
私の中はぐちゅぐちゅりと音を立て、大谷様のモノを咥えこんでいた。とろけそうな快感に息が上がり、嫌がり抵抗した最初とはうらはらに私はひたすら大谷様を求めていた。
「おお、谷様、私は、大谷様しか、知りません……」
「ほう、われしか抱かれておらぬと?」
「そう、です……!」
「さようか、さようか、ならばこれからもぬしはわれの道具よ」
「!?」
さらに激しく奥を突かれ果てそうになるのを耐えようとしたが、私の中は大谷様をきゅうきゅうと締め付けた。
「くッ、やめ」
「やぁッ、はっ……ん」
「……ッ」
「!」
中に温かいものが吐き出され、大谷様が自身を引き抜くとどろりと白濁液が股に伝った。
「(まさか大谷様、中に)」
息が上がっている大谷様の方を見ると、ふいっと目を逸らされてしまった。あれほど中はやめて下さいと言ったのに。
大谷様は何か言うわけでもなく、乱れた着物を直していた。私もいつまでもこんなはしたない格好ではと思い、脱げてしまった着物を直した。
「あの、大谷様」
「なんぞ」
ふう……っといつの間にか煙管を吸う大谷様に思わずため息が出そうになったが、そこはグッと抑えた。
「私は、大谷様へ対するお気持ちを言葉にしないようにとずっと思っていました」
「……。」
「……私は、こうして大谷様に仕えて、お世話をさせて頂ける事がとても嬉しく思っています」
「……。」
「私のこの貧相な体を喰らうのも、大谷様の欲を満たす為ならばと覚悟もあります」
「……。」
「しかし、私はきっと……いえ、私はずっと前から大谷様の事をお慕いしているのです」
「……。」
「私は一人の女として、大谷様に恋慕を抱いて……」
「葵」
「は、はい」
ばっと、大谷様のお顔へと向けると
大谷様は表情ひとつ変えず、煙管を吸いながら私を見ていた。
「……大谷様?」
「それ以上言うでない」
「ですが私は、大谷様の事を」
「聞こえぬか?」
「!」
「われはぬしに特別な感情はない、ぬしが言うような恋慕というのもわれにはさっぱり分からぬ」
「……。」
「しかし、ぬしはわれのモノよ、逃げようとは思うな? しかしそうよなァ、嫁に行きたい申すのならば考えてやらぬ事もない」
「私は、貴方様が」
「われを一人の男と見るでない、男が欲しいのならば嫁にでも行け。そうよなァ、竜の右目がぬしを大層気に入っておった。話をつけてやろうか?」
「嫁になぞ行きません、私は、大谷様のお側に居たいのです」
「……。」
「私が邪魔だと申すならそう申して下さい、私は頭が悪いので気の利いた事が出来ません、大谷様をきっと困らせてしまいます。けど……私は大谷様のおそばを離れたくはありません」
「矛盾しておるな」
「……。」
「娘よ、われはぬしを嫌ってはおらぬ。だがわれに恋慕は抱くな、その感情はひと時のまやかしよ」
「……まやかし」
「今日はもう下がれ」
「はい……」
おずおずと、大谷様の部屋を出た。
本当はそばを離れたくはなかった。自分の気持ちに気付いてしまった以上、恋い焦がれる方と一緒に居たいと思ってしまう。
左近さん、私
分かってしまいました。
私、大谷様を愛してしまいました。
きっと、私はずっと前から。
大谷様の事を。
「……。」
ふう、と吐いた煙は上に上がり、すっと消えて言った。われに恋慕を抱いてしまった葵の悲しそうな顔が焼き付いて離れない。しかし、その葵の体を引き寄せて抱き締めてやる事も出来ない。
分かっていた。
われには到底、無理な事よ。
われはこれまで
幾多の不幸に見舞われてきた。
(われはぬしを、幸せにする事は出来ぬ)