55、戦略・宿敵・反乱










西軍、本拠地






「おのれ家康、私は貴様を許さないッ!」

「三成」

「刑部ッ、戻ったのか!遅いぞ!」



三成は本拠地に輿に乗って戻ってきた大谷に駆け寄った。




「三成よ、ぬしは今も尚……徳川を憎んでおるのか」

「私はアイツが嫌いだ!友だと思っていたが家康は私や秀吉様を裏切った!!絆などで天下を取れるものか、アイツは一体何を考えているッ!!」

「そうよなァ、徳川は相も変わらず絆を掲げるが、絆など一つの不幸でたやすく崩れるものよ、ぬしが太閤を失ったように」

「秀吉様……、おのれ家康ッ、秀吉様を失った私の悲しみを、私と同じ気持ちを味わせてから醜く斬り刻んでやるぞ!」

「うむ、ならばあやつがぬしにしてのけた様に徳川の絆をとことん奪うのだ。奪った数だけ、空より不幸が降り注ごう……これも義のため、ぬしのため」


大谷は空を見上げ、
輝く星を蔑みながら三成に言った。









「三成よ、ぬしはわれを信ずるか」

「急に何だ。戦はもう始まっているのだぞ刑部。何度も言わせるな、疑う余地などない」

「左様か」

「少なくともお前を信じる者達は確かにいる、私や左近、それにあの小娘もな」

「娘?そうか、あの娘もわれを、か」

「あの小娘は絶対にお前を裏切らないだろう、たとえ血を流しても、闇に飲まれようともな、あの女は決して刑部から離れようとはしない」

「……。」

「刑部、貴様の言う不幸とやらを家康に与えに行くんだろう」

「あァ、われは数多の不幸をあやつに呼ぼう」



しかし、

不幸を呼ぶのはわれではないだろう、
三成…ぬしが不幸を呼ぶのであろう。



われは三成を不幸にしたくはない
等しき不幸は、来てはならぬのか。









「して三成、兵糧が届いた、ひとまずは飯を食え」

「いらん、私はここで家康を待つ!」

「しかしぬしは昨日から何も食しておらんだろう、少しは飯を腹に入れろ」

「腹が空かん」

「……頑固して食わぬと申すのか?」

「家康を待つ、飯など食っている暇はない」

「左様か、ならばわれも飯を食さずにぬしと共に家康をここで待つとするか」

「何?それは駄目だ刑部、貴様は飯を食え、貴様こそさっさと食ってこい、ただでさえ貴様は体が弱く体調を崩しやすい」

「しかしなァ、われも腹が空かぬのよ」

「ならばあの小娘はどこだ、刑部になんとしてでも飯を食わせる、ええい!どこに行ったッ!刑部に飯の用意を!」

「娘ならば、じきに此処に戻ってこよう」

「必要な時におらぬのかあの小娘めッ」

「……して三成よ、われはぬしが食せば、われも共に飯を食おうかと思うておるが」

「なにッ!?……ならば飯を食おう、貴様が食わないのは困る、私は少しだけ飯を食う、だから貴様も飯を食え。」

「あいわかった、われは布陣を指揮してから参る故」



三成にそう言うと、わかった、と
三成は空かぬ腹を満たす為に自軍の方へ足を進めて行った。











「(さて、布陣を見やるとするか)」


暗躍させた部隊が思いの外、精巧に任務を遂行させた為、徳川軍の多くが壊滅し東軍の布陣はぐらりと崩れた。



今頃は徳川も裏で何者かが動いていると察した頃であろう。しかし気付くのが遅かったな徳川よ、こちらの手の方が幾分か先。


背には毛利が居て、独眼竜は武田の若虎が相手をして食い止めておる。下には左近隊が攻めてくる東軍の兵を相手にするだろう。



徳川よ、ぬしはどうする?
真っ直ぐここにやってくるか、






われには分かる、


自軍の「絆」を信じ


ぬしはここに来ると












「……久しぶりだな、刑部」

「ヒヒッ、やはり大将自ら来やったか徳川家康よ」


西軍の本拠地に単独で足を踏み入れてきたのは、東軍大将の徳川家康だった。








「三成は貴様をずっと待っていたぞ、しかし随分とのろまに来たものよなァ」

「そうか、やはりワシは三成と決着をつけないといけないのか、それしか方法は無いのか?ワシと三成の間にあった「絆」というのはもう消えてしまったのだろうか……」

「……くだらぬ、ぬしはまだ己の信ずる絆とやらを掲げるのか、われの中の揺らぎの正体をぬしなら分かるのか、いやはや」

「刑部?」

「……われは」

「刑部、お前……昔に比べてなんだか随分と変わったな、何がお前をそうさせた?ずっとお前が求めていたこの世の先を、今はどう思っている?心変わりでもしたのか?」

「われは何も変わらぬ」

「ならばワシが言ってやろう!いいか刑部。お前は今「絆」というものに揺らいでいる!」

「……ッ」

「なぁ刑部、お前はひょっとして良き人にでも出会ったか?信じる者に出会ったか?お前と「絆」を結ぶ者に!」

「ぬかせッ!」

「誰だ?どんな奴だ?もしや三成か、それとも別の誰かか、そいつがお前を変えさせた…いや、今のお前が本当の姿という事か」

「われは……何も変わらぬ。貴様の言うくだらぬ「絆」などわれには必要ない」

「いや、お前は揺らいだ!それが本当のお前だ!ならば今はどうだ?揺らいでいるんだろう?」

「黙れ、徳川ッ!」


徳川に向かって、数珠をいくつか勢いよく投げるが、突如上から現れた本多忠勝によって、それは全て阻止された。






「くッ、本多ッ……!」

「どうした刑部!何事だッ!なッ、貴様は家康ッ!?」


騒ぎに気付き、急いで本拠地に戻ってきた三成と家康がついに対面し、三成は刀を抜きすぐさま家康へと攻撃を開始した。





「三成ッ!待て……ワシは!」

「家康ッ!私は貴様を許さない!!どんな強固な軍を築いても、どんな綺麗事を嘯(うそぶ)いても、私はこの目で見ている!貴様の犯した罪をなッ!」

「三成!」

「さぁ秀吉様にその頭を垂れろ、許しを願い、そして私に首をはねられろ!死ね!家康ッ!!」

「ワシに、そのつもりはない!死ぬつもりもない!」

「貴様は昔からそういう奴だったッ!、己の野望を、夢という言葉で飾りたて、そして秀吉様の天下を汚したのだ!」

「それがワシの決意じゃ!三成、お前にも秀吉にも天下は譲らない!!」

「貴様はそれ満足だろうな、だが私は貴様に全ての絆を奪われた!…私はこれからどうやって生きたらいいッ!どうしたら良かったんだ!」

「ならば三成、力の限りワシに立ち向かえ!負けるものか、ワシは何があっても譲らない、平和な世はこのワシが創る、その力の源こそが揺るぎなき「絆」だ!」

「家康ゥウ!!やはり私は貴様を許さない!その絆という言葉を私は腹ただしく思う!!」


睨み合っていた東軍の大将と西軍の大将がぶつかり合った。そしてその上では本多忠勝と大谷吉継が対峙していた。








「ぐッ、ぬしはわれが止めて見せよう!戦国最強など所詮は噂に過ぎぬ!」

「……キュイーン」


空中戦は激しくなり、槍と数珠が激しくぶつかり合っていた。双方どちらも譲る事なく、お互いの大将を守る為に力を存分に奮い立たせた。




その様子は、本拠地より下、左近隊からもはっきりと確認する事が出来た。






「大谷様!」

「あれは戦国最強・本多忠勝!ちょっと本多忠勝はさっきまで島津のじいちゃんが戦ってたんじゃなかったんスか!何で本拠地攻め込まれてんの!?」

「まさか、徳川が西軍の本拠地に!?」

「マジで!?じゃあ俺も急いで向かわないと!三成様に加勢するッス!」


二人はお互いの顔を見合わせて、そしてすぐに西軍本拠地に向かおうと上を目指そうとしたが……








「僕だってやる時はやるんだあああー!!!!」

「「!?」」


どこに隠れていたのか、突如現れた大勢の兵がこちらに向かって来た。







「ちょ、え、あれって西軍のッ」

「あれは、まさか……小早川軍?」

「はァ!?嘘だろッ、まさかアイツ、東軍に、徳川家康の方に寝返ったっていうのかッ!?いやいや!なんでこっちに向かって来てんだよ!?」

「彼は西軍を、裏切ったようですね」

「裏切り!?ふっざけんなッ三成様を裏切るっていうのかよっ!!」


「ふふ、大谷様を裏切るなんてあの方は余程、死に急いでいるようですね」






一人は三成を裏切った事による怒り

一人は大谷を裏切った事による怒り




二人は怒り、自身の刀を抜いた。






「ここは左近隊が全力で小早川軍を止める!三成様を裏切った行為、絶対に許さねぇッ!!」

「大谷様を裏切るとは、なんて愚かな人、死で償って貰いましょう」

「ひィ!?やっぱり怖いよぉおおお!あの二人すっごい怖いよぉおお!」


小早川軍大将・小早川秀秋は泣きながら突進していた。しかし走り出した足はもはや止まらなかったようだ。






「どうしよう、どうしよう、どうしようどうしよう、どうしよう、どうしよう……天海様ぁあ!どこに行っちゃったのおお!」

「うるせぇッ!三成様への裏切りはこの左近隊の左近が許さねぇッス!」

「ひィ!」

「小早川様、すぐ死ぬのと、じわじわ痛みながら死ぬのとどっちがよろしいでしょう?」



拷問全集の書物を大谷様から頂いてある程度は習っていましたので今ではもうお手の物ですよ、大谷様の……あの方の知識量はとても広く、とても聡明な方。



そんな私の主様を裏切るなんて






「なんて愚かな、貴方には死に方を選ばさせてあげます、さぁどちらが良いですか?」

「ひいいい!どっちも嫌だあああ!!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!!」

「いいえ、許しません」

「葵、ここにいたのか。私達も一緒に戦おう」

「隊長!」


隣には我ら暗躍の部隊も勢ぞろいしていた。膝をついた手負いの者もいるが、真っ直ぐとこちらと対峙している小早川軍を見つめていた。一緒に戦ってくれるというならとても心強いです。







「刑部殿の策略では、 小早川秀秋が西軍を裏切ると睨んでいたようでね、密かに小早川軍を見張っていたんだ。裏切った時はすぐに粛清しろとの命令だよ」

「通りですぐに来てくれたんですね」

「ここは我ら部隊で食い止める、葵はすぐに刑部殿の元へ行きなさい」

「よろしいのですか?」

「案ずるな。我ら部隊はとても強い、負けはしない。葵は刑部殿をお守りしなさい」

「分かりました、ありがとうございますッ!」



隊長にお礼を言って、すぐに大谷様がいるであろう西軍の本拠地へと向かった。我ら暗躍の部隊は強い、そう簡単には崩れない。





「葵!また後で!」

「はい!」



私に声をかけてくれた左近さんに返事をして、私は大谷様の元へ急いだ。






今、行きます!



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