53、DARK PHANTOM HE MET










「このまま一気に西軍本拠地、石田三成の所まで行くぞ小十郎!」

「はい!政宗様ッ!」



軍馬に乗った武将が二人、
西軍の本拠地へと向かっていた。







「!」

独眼竜・伊達政宗は
突如、自分達に飛んできた数珠をギリギリで避け、暴れる馬を制止させた。





「チッ!何者だ!」

「ヒヒッ、避けよったか」

「テメェは確か、石田んとこの!」

「貴様、大谷刑部か!」

「独眼竜よ、これより先を通すわけにはいかぬ、三成の元には誰も行かせん、これ以上三成を傷付ける事はわれが許さぬ」

「けっ、美しき友情ってわけか」

「うぬらには分からぬ事よ」


大谷は、西軍本拠地へ向かう伊達政宗と片倉小十郎の前に馳せ参じた。





「Hmm?アンタはもう少しばかり素直になるだけでいいんじゃねえか、おい大谷、腹ん中にある言いたい事をはっきりと言っちまえ、なんなら聞いてやるぜ?」

「やれ、これは困った……竜の言葉が更に難じたわ、われにはとんと解し得ぬ」

「政宗様、西軍大将・石田の元にお急ぎ下さい。この男の相手は伊達軍副将たるこの小十郎にお任せをッ!」

「ok!小十郎、任せたぜ!」


伊達政宗は小十郎にそう言い、軍馬で大谷の横を通り過ぎようとした。





「待てッ、独眼竜!」


大谷は去りゆく伊達政宗に
数珠を投げつけようするが






「お前の相手は俺だ!」

「ぐッ!」


小十郎は刀を抜き、大谷に向かって刀を振り下ろしたが、数珠で防がれてしまった。しかし、その隙に伊達政宗は軍馬で西軍の本拠地へと走り去ってしまった。






「独眼竜め姑息な真似を……ぬしはここに居て良いのか、竜の右目、片倉よ」

「フン、石田が心配か大谷。俺の役目は政宗様から任された仕事をするだけだ、それに今の政宗様は強い、心配は無用!」

「大した自信よ、しかしぬしの主は誠に厄介よ……三成に絡み、引き摺らんとする。ぬしが綱ってくれるならば胸を撫で下ろしもしようが」

「惹き合う縁がある以上、どうとも出来ねえさ……テメェが石田三成を御しきれねえようにな」

「悲しき事よ、われ一人を物見の台に取り残さんとするか」

「ならばテメェも政宗様の所に来ればいい、智将としての才を持つテメェならきっと政宗様は歓迎するぜ。」

「ほう?離反せよと、われを竜の住処へ誘い込むか、腹の探り合いは好かぬ」

「しかしこの一戦は政宗様が前へ進む為の大事なケジメ、竜は再び天を駆ける。その邪魔は誰にもさせねぇ!もはや話をするまでもねぇ、互いの刃で語りゃあいい!」



小十郎は刀を構え、大谷に言った。







「ヒヒッ、天を駆ける竜とな、実に面白き事を言う、天を駆ける前にその右目を、ここで潰すとするかッ!」


大谷は数珠を片倉小十郎に向かって幾つかの投げ放った。その数珠達は小十郎に勢い良く飛んで行ったが、小十郎はその数珠を防ごうと刀を振った。




「ぐッ!」

「われはこの世が憎い!人は嘘を吐き、騙し、嘲笑う!われは幾多のそれをこの目で良く見てきた!あの星模様を見よ、眩ささえも不公平ではないか、ならば人も、そこに煌めく星々も、全て地に落ち、等しき不幸を持てばよいッ!!」

「……大谷ッ……まさか、テメェが戦を起こした理由ってのはッ」

「その平等なる世を与えるのがわれと三成よ、さぁ屑星共め降り注げ!」

「大谷!貴様、最初からそのつもりだったのか!この合戦には目も暮れねぇでテメェが見ているのは復讐や勝利でも無かったのか!」

「もうすぐだ、モウスグダ」

「……ッ」

「もうすぐ等しき不幸がやってくる!空の彼方から列を成し、ぞろりぞろりとやってくる!ヒヒッ、ヒヒッ!」

「等しき、不幸だと!」

「ああッ!この世全てに等しき不幸よ!」

「テメェには一体何が見えて……!?」

「死が見えるぞ!飢餓が見えるぞ!無性が見えるぞ!液浸が見えるぞ!」

「!」

「貴様には見えぬのか!」

「見えねぇなッ!俺が見る先は政宗様の勝利のみッ!」

「やはり幾多の不幸を降り注がねばならぬ!」

「その不幸ってのは、俺にもかッ!」


片倉小十郎は刀を振りかざし、
大谷に向かって走り出した。






「ぬしもだッ!」


その小十郎に向かって、大谷は応戦すべく数珠を勢い良く投げ始めた。






「テメェもかッ!!」


「われもだッ!」


「政宗様にもか!」


「独眼竜にもよッ!」


「石田にもか!!?」


「三成ッ……!」





三成には、

三成にはッ……!





「三成には、これ以上の不幸を与えさせはせぬッ!」




大谷はそう叫んだが、

目の前には既に、




小十郎の刀があった。







「やっぱりテメェは甘いな大谷ッ!」

「ッ!!」









ー われは、



ー ここまで、 か
























「大谷様ッ!」



ガキィィン……と音がし、

刃同士がぶつかり合う音に何事かとハッとすると、目の前には黒装束の者が小太刀で片倉小十郎の重い太刀筋をギリギリと震わせながら受け止めていた。







「テメェ、何者だッ!俺の剣を受け止めるとはやるじゃねぇか!!」

「私は大谷様の部下、そして大谷様を守る者、このお方に手出しはさせません!」

「ぬし、何故ここに……」

「ご無事ですかッ、大谷様!」

「大谷の部下だと!ならテメェも西軍か!!邪魔をするなッ!これは俺と大谷の戦いだ!そこをどけッ!」

「……ぐッ!」


葵は、片倉小十郎の重たい剣撃を小太刀一本で受け止めていた。しかしそれではすぐに力負けしてしまう為、自身の影より、闇の黒い手が力を貸そうと現れ、小十郎に向かって行った。






「!!なんだこの黒い手はッ、テメェまさか婆娑羅者か!」

「大谷様に刀を向けるならば、貴方は敵ッ!お覚悟なさいませ竜の右目!」

「……娘、」

「おい大谷ッ!コイツにもか!お前を守ろうとするコイツにもテメェの言う等しき不幸を与えると言うのかッ!」

「!」




娘……?




娘にも、


この娘にも不幸を?




それはならん、
娘を不幸になぞさせん。




この娘はわれと出会ってから
既に幾多の不幸に見舞われておる。



これ以上の不幸を

与えるわけにはいかぬ




この娘は
いかなる時もわれの側にいた。




誠に馬鹿で命知らずな娘。


必要とあらばと常にわれの近くに身を置き、いつも背は真っ直ぐにわれの名を呼んでいた。





われの肌を厭う事なく触れた娘



業病のわれを忌み嫌わなかった娘



とても強い心を持った娘



ずっとわれを慕うと言った娘



われを守る為、戦うと決めた娘



娘の目は、いつも真っ直ぐよ





娘には、


葵に、不幸を与えはせぬ!







「この者に、不幸など与えぬ!」

「はッ!他人を騙す事は出来ても、己の心を騙す事が出来ねぇようだな大谷!」

「……ッ!」

「大谷、今のテメェは誰よりも優しい男だ!いい加減に素直とやらになったらどうだ!!」

「大谷様、情けを持ってはいけませぬ!無用にございます!ここは私がッ!どうか三成様の元へお急ぎ下さい!」


葵は、小十郎の剣撃を避けながら後ろいる大谷にそう言った。







「させるかッ!」

「大谷様!お急ぎ下さい!」

「……ぬしは」

「ご安心を、私はこんな所で死にませんッ、この戦が始まる前に大谷様とそうお約束したではありませんか」

「!」

「さぁ、大谷様!ここは私めにお任せ下さい!」

「死ぬでないぞ」

「はい、大谷様」


大谷は、葵の黒装束の背中に声をかけ、西軍の本拠地へと輿を進めた。











「テメェ、よくも大谷を逃しやがったな、許さねぇぞ!」

「竜の右目殿、ここを通りたくば私を倒してからお行き下さいませ」

「はッ、また面倒な奴と当たっちまったようだな、婆娑羅者が相手とはなぁ!」

「此処は戦場ですから、どこで誰が敵になるか分かりませんよ、貴方にもそのお覚悟はありましょう?」



葵はそう言って、

小太刀を構えた。







「そんな細ぇ体で俺に勝とうってのか?」

「見た目で力量を測るとは、竜の右目は聡明な軍師様と聞いていましたが、どうやらただの噂だったようですね」

「……テメェ」

「お力は戦ってこそ分かるものに御座います、さぁご確認下さいませ」

「いい度胸だ!気に入ったぜ!」



突進してくる小十郎に、葵は構え、影から湧き出るいくつも黒い手が小十郎を襲った。





「……ッ」

葵は剣撃を小太刀と黒い手で応戦したが、面に小十郎の電撃が走り、ピシッと白い面にヒビが入った。







「さーて、大谷を逃した野郎のツラでも見せて貰おうか!」

「……そんなにお顔が気になりますか?」


葵は後ろに下がって、小十郎と距離をとった。その間にも黒い手は禍々しく伸び、小十郎に標準を合わせいつでも狙えるようにしていた。







「チッ、時間をかけすぎた……そろそろテメェを倒さねぇといけねぇ。悪いがここを通して貰うぜ」

「強気な方は嫌いではありませんが、私にも務めというものが御座いますので、通すわけにはいきません」

「テメェさっきから俺を殺す気満々じゃねぇ、嫌いじゃねぇぜその殺気」

「殺す気で戦えといつも主さまに言われております、是非貴方を血みどろにして差し上げましょう」

「大層な心構えだな」

「お覚悟なさいませ」



葵は、影を使い小十郎に向かって黒い手で掴みかかろうとし、それに対し小十郎も刀に電撃を走らせ、重たい一撃を振りかざした。







闇と雷が、ぶつかり合った。







「……ッ」


葵の白い面に小十郎の雷撃が触れ、ピシッとヒビが広がり面は無残にも割れて地面に転がり落ちてしまった。







そして、葵は見下ろした。





「……。」

「……テメェ、ぐはッ」


葵の一撃を喰らい、腹から血を流し、地面に横たわっている小十郎を、葵は無表情で見下ろしていた。





この勝負、


葵の勝ちだった。








「私の勝ちに御座いますね、竜の右目」

「!……お前」

「これからは見た目で力量を判断しない事ですよ」

「……。」

「何ですか、人の顔をジロジロと」

「お前……女、だったのか」

「あら、私は自分を男だと言った覚えはありません。全く、思い込みはいつか身を滅ぼしますよ?」

「違いねぇ、まさかこんな別嬪だったとはなァ」

「……頭を強く打ちましたか?」

「ったく、女だったら素直に喜べ」

「そうですねぇ……ですが生憎、普段からなかなか女扱いされないもので」

「ふっ、そうだろうな。冗談でも大谷は女を誑かすような事を言いそうにねぇ」

「いえいえ、意外と大谷様はお口がお上手で人を誑かすのは得意なのですよ」

「は?……想像がつかねぇ。で、俺の首はいつ取るんだ?そろそろ楽にしてくれ」

「……。」



葵は、小十郎を見下ろしたまま、考え込んでいるようだった。


そして、手に持っていた小太刀をゆっくりと腰元の鞘に戻した。







「……おい、何のつもりだ」


その場を立ち去ろうとする葵を、小十郎は呼び止めた。






「これから私は主様の所に向かいます、貴方はそこで寝ていて下さい」

「テメェ、俺に情けをかけるっていうのかッ」

「竜の右目殿」

「……何だ」

「貴方にも主がいるでしょう、ならば主様をお守りする役目もあり、お側にいる役目も、お互いに主様をお守りする者として貴方は生きて欲しい。貴方は貴方の主を守る役目を真っ当して下さいまし」

「……俺に、生きろというのか」

「そんなに死にたいなら主をお守りし、代わり身にでもなって勝手に討ち死にでもして下さい、その時は笑ってあげましょう」

「……それは勘弁だ、俺は政宗様が天下を治める姿を見るまでは死ねない」

「そうですか」

「テメェは違うっていうのか」

「うーん、私なら大谷様が危険な目に遭っていたらこの命を投げ出してでも代わりに死にます。あの方は私にとってとても大事なお方ですから」

「……。」

「さて長話もこの辺で、ではお達者で竜の右目殿」

「ちょっと待て」

「……何でしょう?」


私は急いでいるんですが。






「お前、名を教えろ」

「名など知って何の得に」

「いいから早く教えやがれ、俺を負かした強い女、それにこんな別嬪な女を目の前にして名を聞かない男はどうかと思うぜ」

「そういうおべっかはあまり好きじゃありません」

「は?テメェのとこの大谷と似たようなもんだろ、良い男ってのは女を上手く誑(たぶら)かすもんだ、お前も俺に素直に誑かされてればいい」

「まぁ、確かに大谷様も諂い方ではありますが」

「いいから名を教えろ」

「葵」

「葵、か。名字は?」

「そんなものありません、私の家は既に没落しております」

「……そうか、すまねぇ事を聞いたな」

「いえ、ですが私の名前など覚える必要はありません、これから先に貴方とまた会う事もなさそうですし」

「それはどうだろうな、こんな世の中だ。なにがあるか分からないだろ、次に出会った時に俺はお前を口説き落とすかもしれねぇ」

「……それはそれは、申し訳ありませんが私はそろそろ失礼させて頂きます、戦はまだ終わっていないですからね」




くるりと後ろを向いた葵は影に乗り、小十郎の首を取らずその場に生きて残し、西軍の本拠地へと急いだ。







「強く、美しく、主に忠実な女か」






良い女じゃねぇか。


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