40、さてヒントをあげましょう───────----‐‐‐ ‐
放課後、
部活の時間に葵と茜は写真部の部室で、写真の整理や部室の掃除をしていた。
「ああ、そういえば葵の好きな学ランの男さ、見つかったよ」
「え? え!?見つかったの?!」
「おー……久しぶりに聞いたわ葵の大きな声、そんな大声も出るんだ。ちょっとびっくり」
「あ、ごめん……」
恥ずかしそうに葵は自分の口元を押さえた。
「いやいや、ずっと気になってたんでしょ? そんなに喜ぶのも仕方ないって」
「う、うん」
茜は少し頬が染まった葵を見て、ああ本気で学ランの男に惚れてるんだなぁと思った。けどその学ランの男の正体が岩泉だということは葵はまだ知らない。
「(さて、正体を知ったら葵はどんな顔をするかな)」
「それで?」
「うん?」
「あの、その……学ランの人はどんな人だったの? 烏野の生徒?」
「ああ、正体ね。烏野じゃなかったよ、なんと学ランの人はうちの生徒だった!」
「青城? え、じゃあ先輩だったりする?」
「さぁどうだろう」
「あれ? 教えてくれるんじゃないの?」
「見つかったとは言ったけど、教えるとは言ってない」
「え、なにそれ……どういう事?」
「とりあえず私は葵の好きな男が誰か分かった、っていう報告だけしておこう」
「……教えてくれてもいいじゃない」
つまんなそうに葵は拗ねた。
胸がドキドキするような人に、ようやく出会えたというのに未だその人とは学祭以来会えていない。
「はぁ……もう一度会いたいな」
「会ってどうするの? 告白でもする?」
「告白って……!」
またもや、葵は顔を赤くした。
どうやら本気で惚れてしまったようだ。
「好きなんでしょ?」
「えっと……告白っていうより、まずは助けてくれた事にお礼を言いたいかな、あの時言いそびれちゃったから」
「なるほどね、まぁそのうちに向こうから名乗り出して来ると思うから葵は待っていればいいよ」
「名乗り出して? もしかして茜、会ったの?」
「うん、まぁ」
「……どんな人だった?」
「教えなーい」
「……。」
残念そうに、葵は息を吐いた。
そしてこの二人の会話を聞いて、
気まずそうな男が一人いた。
「……あれ? 俺って存在感ない?」
写真部部長の彼が部室にいるにも関わらず、写真部の女子二人は少女らしく恋愛話を永遠と語り合っていた。そして写真部の部長はその会話を気まずそうに聞いていた。
「俺、及川さんの事好きなんだけどなぁ」
そんな事すらも忘れ去られたのか、葵は顔を赤く染めながら茜と話をしていた。
「(眼中にねぇのな、俺って)」
学ランの男ってのが何の事かさっぱり分からなかったが、どうやら彼女が惚れた男らしい。どこのどいつか知らないが、ちょっと悔しい。
岩泉君に負けたのならまだしも、顔も名前も知らない学ランの男に負けたのが悔しい。
※※※※
「ねぇ、茜」
「いや、うん、葵の言いたい事は分かるよ」
昼休みに茜と一緒にお昼ご飯を食べている時にふと質問しようとしたが、どうやら茜は私が何を言いたいのか分かっているようだった。
「もうあれから二週間経つけど、いつになったら学ランの人は私に名乗り出してくれるの?」
「(ったく、岩泉の野郎)えっと、いつだろう」
「待っていても誰も来ないし、茜は本当に誰か知っているの?」
「まぁ疑われるのも仕方ない、じゃあヒントをあげよう」
岩泉にさっさと葵に名乗り出ろと言ったのに、奴は未だに葵の前に名乗り出ようとしない。それ以上に最近は葵を避けているようにも見える。
仕方ないな!
ここは私が背中を押してやるかな!
「ヒント?」
「そ、ヒント。知りたいんでしょ? 学ランの王子様」
「……うん、知りたい」
「(岩泉は王子様ってガラじゃないけど、まぁヒントくらいならあげてもいいでしょ)」
「茜?」
「じゃあヒント教えるよ、ヒントはね……岩泉に会えば分かる」
「え、岩泉君?」
「そ!」
茜もはや答えのようなヒントを葵に与え、実はこの話題が面倒になって早めに終止符を付けたかったのでヒントと言いつつ、「岩泉とさっさと会ってこい」という意味を込めて葵に言った。
「もしかして、岩泉君の知り合いなの?」
「まぁそういう事にしておこう、とにかく岩泉に会えば分かるよ、聞いてみたら?」
「けど岩泉君は……その」
葵に岩泉に一度告白されている。
その相手に、自分が気になっている人を聞くなど、岩泉にとって不快しかないのでは……と葵は思った。もし彼を怒らせてしまったら、と怖くなった。
「葵の考えている事は分かるけど、怖がるような事は起こらないから大丈夫」
「けど」
「はいはい、いいからとりあえず岩泉に会って来なって、最近会ってないでしょ?」
「……分かった、会ってみる」
茜に言われるまま、ヒントだという岩泉君に直接会って聞いてみる事にした。
このまま立ち止まっていても仕方ない。
せっかく自分の気持ちに気付いたんだ…
前に進まないと。
(5組へ向かう道のりは、いつもより遠く感じた)
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