39、物憂げな彼女の気持ち
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「はぁ……」

「?」



学祭が終わってから最近、葵の様子がおかしい。ずっとため息ばっかりだし、どこかボーっとしているし。でもなんだか、その姿はちょっと儚げで可愛い。いやいやそういう事じゃなくて。




なんか前にもこんな感じあったな。

あれだ、葵が岩泉に告白された時だ。






「ねぇどうしたの葵? 最近元気ないじゃん?」

「あのね茜、なんかね、思い出しちゃって」

「ん?」

「やっぱり、あの人格好良かったなぁって」

「んん?」

「もう一度会って、ちゃんとお礼したいなぁ」

「んんん?」



あれあれ?

これはもしかして、

もしかしなくても?




恋ですか?

葵さん、恋しちゃったんですか?






「も、もしかして……学祭の時に、助けてくれた学ランの男?」

「うん、格好良かった……」

「いやいや、待って。その人はどこの誰か分かんないんでしょ? ほら、名前とか、何年か、とか」

「そうなんだよね……誰なのかな? 会いたくても、会えないって辛いね。お礼もちゃんと言えないなんて」

「(あ、これ完全に恋する少女の顔だ)」



ちょっとちょっと、どーすんのさ岩泉、
葵の奴、恋しちゃってるよ。


どこの誰か分からない男に恋してるよ!





「えっと、黒の学ランならやっぱり烏野だし、聞いてみようか? もしかしたら分かるかもしんないし」

「ほんと!?」

「う、うん、でも見つかるかどうかは保証しないけど……それでもいなら」

「ううん、今は何の手がかりもないし助かるよ」

「……葵がそんなに夢中になるなんてねぇ、そんなにイイ男だったの? お面してたから顔なんて分かんなかったでしょ?」

「背中は男らしくて格好良かったよ」

「え? 背中?」

「それに私を軽々持ち上げるなんて凄いよね、やっぱり力のある男の人って素敵」

「いやいや、あんたの双子の兄ちゃんもイケメンでパワー5リラじゃん。お姫様抱っこなんて余裕なんじゃない?」

「徹? うーん、多分だけど余裕だと思う。でも徹にお姫様抱っこされるのはなんか嫌」

「自分に兄貴なのに酷い奴め」

「ねぇ、茜」

「んー?」

「こ、これが、恋ってやつなのかな?」

「ドキドキしてる?」

「してる」

「もう一度会いたい?」

「うん、会いたい」

「葵、顔が赤いよ」

「!」

「はは、困ったね。葵のそれは完全に恋だね。そっかそっか、ついに葵が恋か、いやぁ良かった良かった、やっぱり葵も恋する女子高生だったようで安心したよ」

「ど、どうしよう……こういうのって徹に相談するべき? それとも岩泉君に相談するべき?」

「落ち着きなさい」


あと岩泉に相談するのは止めときなさい。
多分、アイツ……葵に好きな人が出来たなんて知ったら、ショックで再起不能になると思う。




「とりあえず私もその学ランの男を探してみるけど、名前が分かんないからあんまり期待はしないでね」

「ありがとう、茜」



葵は茜にお礼を言った。


もう一度あの人に会って、ちゃんとお礼を言いたいなぁ……と葵はため息を吐いた。














「と、いうわけなんだけど」


茜は昼休みに、及川徹のクラスに来ていた。そして最近の葵の様子を隠す事なく全部教えた。
及川の隣には岩泉がいたが、茜は気にせずに全部話した。





「え、ちょっと待って、え? 葵に……葵に好きな人が!? その好きな人が岩ちゃんじゃなくて!? え? え? どういう事!?」


事情を聞いた及川は青ざめて、机をダンッと叩いた。




「落ち着け及川」

「でも岩ちゃん! 葵に好きな人って……だいたい岩ちゃんは葵の事を」

「いいから落ち着けって」



そう言いながらも、岩泉は手を震わせておにぎりを食べていた。本人は気付いていないが、それなりに動揺しているらしい。




「岩ちゃんも落ち着いて!」

「お、おう」

「男二人が取り乱し過ぎでしょ」

「だって葵に好きな人なんて! あ、そういえば最近の葵は元気が無かったし、ご飯も食欲が無いとかで全然食べてなかったかも! どうしよう岩ちゃん! 葵に彼女出来ちゃう!」

「いや彼氏な、いいから落ち着け及川」

「岩ちゃん……」


おにぎりを食べ終えた岩泉は、はぁ……と深いため息をついた。そして、「いつかこうなる事は分かっていたんだ」と、まるで自分を落ち着かせるかのように呟いた。





「及川、今は葵を応援してやろうじゃねぇか。俺は葵が幸せならそれでいい、気にしてねぇよ」

「岩ちゃん……でも」

「俺の事なら気にすんな」

「何なのさ岩ちゃん、男前過ぎるよ……」

「はいはい、で? どんな奴なんだ、葵の好きな男ってのは」

「えっと、学ランで」

「はぁ!? 学ラン!? って事は烏野とか!」


及川は思い出したかのように言った。
岩泉は「他校か」と呟いた。


「(他校なら、俺の知らない奴かもしれねぇな。チクショウ、悔しいけど葵が惚れた男なら、すっげぇ良い奴なんだろうな)」





「学ランって言われても……他に特徴は? ていうかその男の名前は?」

「それが分からないみたいなの、調べてはいるけど情報が少ないからさっぱりね」

「え、葵ってぱ、名前も知らないのに好きになっちゃったの!? どういうことなの」

「それだけ、いい男だったんじゃねーか?」

「岩ちゃん冷静過ぎ! まさか、名前も分からない相手だなんて……他に特徴はないの? 髪型とかさ」

「葵が言うには、般若のお面を付けてたらしいの」

「「はぁ!?」」

「本当だからね?」

「いや、般若ってなに! ますます意味分かんないんだけど! 葵はどこで会ったのそんな男と!」

「学祭の日よ。それで……般若だけならまだ良いんだよね、その男は釘バットを持ってたらしくて」

「!」

「は!? 何それ! 一体どこの不良!? っていうかそんな男、本当に実在するの!? 葵の好きな人って怖すぎなんだけど!」

「(まさか)」


意味分かんない!と叫ぶ及川と、
どこか、思い当たる節がある岩泉。






「いや、私も最初は信じなかったよ? 本当にそんな奴が居たら怖すぎでしょ、でも葵はずっとあんな感じだし、協力してあげたいけど、どこを探せばそんな男が見つかるのか見当もつかなくて」

「(学ラン、般若、釘バット……)」

「探すも何も……いるわけないじゃんそんな人! 葵ってば一体何の漫画を読んだのさ!」

「(学祭の日? ……まさか)」

「岩ちゃんもそう思うでしょ!?」

「……。」

「岩ちゃん? どうかした? やっぱり怖いよね般若なんて本当にいたら」

「あぁ、それ俺だわ」



ポンッと岩泉は拳を叩いて言った。







「は?」
「へ? い、岩ちゃん?」


何言ってんの?

……という顔で岩泉を見る二人。





「あのね、岩泉、いくら葵の事が好きだからって、あの……そういうのは良くないと思うよ?」

「そういうの?」

「葵の好きな男のフリするの」

「フリじゃねーよ、学祭の時だろ? そん時、俺も学ラン着てただろ」

「あ! そういえば……岩ちゃんのクラスって学ラン着てたね、え? じゃあ本当に岩ちゃんが? 般若のお面付けて釘バット持ってたの? ていうか学祭で何してたの岩ちゃん!?」

「引くな、俺も出来れば思い出したくねぇ」


(あれはちょっとした黒歴史だ。)







「ちょっと待って、じゃあ本当に学ランの男の正体って岩泉なの? 学祭の時に葵をナンパから助けてくれたのも?」

「ああ、助けた」

「え、なんで名乗り出なかったのよ! 岩泉だって分かっていればこうやって探す手間がかからなかったのに!」

「葵にあれが俺だと思われたら嫌だろうが!」

「じゃあそんな格好で学校内うろつかないでよ!めちゃくちゃ怖いよ!」

「俺だって好きで着たんじゃねーよ! その、クラスの奴らに無理やり着せられたんだよ」


すっげぇ恥ずかしかった、と岩泉は言った。






「えっと、じゃあ葵の好きな人は岩ちゃんって事OK?」

「え」

「ああ、そういう事になるね、良かったね岩泉」

「!?」

「まぁいいわ。探す手間が省けたし二人に相談して良かった、じゃあ早めに学ランの男は岩泉だって名乗り出てね、葵ってばずっと物憂げで心配だから、じゃよろしく」

「え、ちょ……」


ばいばーいと、
茜は及川のクラスから出て行った。








「……名乗り出ろって言われてもなぁ」

「ねぇ岩ちゃん、もっかい告白したら?」

「は?」

「もっかい告白したら? 岩ちゃんが葵に」

「え、いや……え!?」

「だって葵は岩ちゃんに惚れたって事でしょ? 葵は岩ちゃんだって事にまだ気付いてないかもしれないけど、でもこれって一応両想いなわけだし? 良かったね、岩ちゃん」

「お、おう……」


ん? 良かったのか?
なんだろう、素直に喜べねぇ……








(俺がアイツで、アイツは俺で……両想い?)





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