34、好きだから守るんだ
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「なぁ、岩泉ってこのクラスにいる?」



教室に訪ねて来たのは、

知らない上級生だった。





「は、はい」

「ちょっと呼んでくれない?」

「い、岩泉!」


教室にやってきた、三人の上級生相手にクラスの男子はビビっていた。

まぁ、そりゃそうか。

上級生で、チャラくて、ピアス開いてて、相手を威嚇するような奴らだ。そりゃ怖ぇーわ。






「ごめん、岩泉」

「怖くて断れなかったんだろ? 気にすんな」

「すまん……」


俺を呼びに来た男子生徒にそう言って、教室の入り口にいる上級生三人の所に向かった。





「俺が岩泉っス」

「ここじゃアレだから、ちょっと来てくんない?」

「ちょっと話すだけだからさ」

「はい」

「おい、岩泉っ」

「あー、ちょっと行ってくる」


心配するクラスの友人にそう言い、見知らぬ上級生に連れられて、裏庭に来た。





「……。」

(あ、確かここって前に葵が告白されてた所だな。この辺はゴミ庫しかないし、滅多に人が来ないから、柄の悪い奴の溜まり場になってるって花巻が言ってた気がする。つーか、なんか煙草臭いなここ)






「何の用っスか? 先輩」

「ちょっとお願いがあんだよ」


煙草に火を点けて、堂々と目の前で吸っている上級生。よく学校で吸えるな、と眺めていた。






「?」

「君さ。及川葵ちゃんって知ってる?」

「!」


(なんで葵?)




「知ってるよな? 知らないわけないもんな? アレだよな? 親友の妹だよな? 仲良いよな?」

「なんスか」

「簡単なお願いだよ、葵ちゃんをちょっと呼んで欲しいだけ」

「……は?」

「俺が呼んでも来てくれないんだよねぇ、なーんか警戒されてるし」

「(だろうな)」




有名だよ、あんたら先輩は。

暴力沙汰ばかりで、
停学常習犯で、
なるべく近付かない方がいいって


俺ら一年の中じゃ有名だ。




そんな奴らが何で、葵を?







「及川葵を今すぐ、呼んでこい」

「……。」

「テメーなら呼べるだろ? 及川葵と仲良しだもんなァ??」

「……。」


(確かに俺が呼べば、葵は何も疑いもせずに来るだろう、だから俺に目を付けたのか)





「葵を呼んで、どうするんですか?」

「あ"? テメーは黙って及川葵を連れて来ればいいんだよ」

「落ち着けよ、分かったお前も仲間に入れてやるよ、それでいいだろ?岩泉クン」

「は? 仲間?」


仲間ってなんだ?葵を呼んで、お前らは一体何を?







「ちゃんとお前にも輪姦(まわ)してやっから、な?」

「!」

「お前にもちゃんとヤらしてやるよ、だからさっさと呼んでこいよコラ!」

「……葵を」

葵を、強姦する気か?




「久々に女子高生かー」

「今まで年上ばっかだったしなー、つーか及川葵ってそんなに可愛いのか? 俺見たことねぇんだけど」

「イイ女だぜ、俺一番最初な!」

「ハァ? ふざけんな俺が先だ」





耳障りだった。


コイツらの声も、下衆な発言も
葵に舌鼓を打つ様に。





「オイ、何突っ立ってんだよ。さっさと及川葵を呼んで来いよガキ!」

「その顔ぶん殴ってやろうか? あ?」


「誰が呼んでくるかよ、クソ野郎」


(葵を何だと思ってるんだ!)






俺の一言に、上級生は目の色を変えた。





「はァ? お前さ、誰に言ってんのか分かってんの?」

「…。」

「まずお前から痛い目にあうか?」

「はっ、やってみろよ」

「上等だコラ!!!」


上級生の右手が、手加減もなく俺の顔をぶん殴った。きっとこいつらはいつもこうやって人を殴る事に慣れているんだろう。つくづく最低な奴らだなと思った。



頬はくっそ痛ぇし、少しよろけたが、なんとか倒れはしなかった。






「っ!」


(あー、畜生、マジで痛ぇ)


血出たし、クッソ痛ェし。



でも、




「正当防衛っスよ、先輩?」



ニヤッと笑って、ぶん殴ってきた上級生のムカつく顔を思いっきりぶん殴った。





「っ!!!!?」

「あ、やべ」


ちょっと強くやり過ぎたのか、上級生は勢いよくぶっ飛んで行った。殴るなんて慣れていないせいか、手加減がよく分からなかった。





「あ、すんません。ちょっと力入れ過ぎました」


殴られた上級生は、ピクピクしているが、起き上がってくる事はなかった。思ったよりも殴った力が強かったようだ。





「テメェ!何しやがる!!!?」

「!」

俺が殴り返した事により、残りの上級生が怒り、どこに持っていたのか棒を振り下ろして来た。




「遅ェっスよ!」

スパイクより遅い棒を避けて、上級生の顎に向けて一撃食らわせた。


「がっ!」


ふらふらしている先輩をちらりと見た後、残りの上級生を見た。


あとはコイツだけか。

手を出して来ないなら俺は何もしない。






「で? 先輩はどうします? 先輩も俺の事、殴ります?」

「ひっ、俺はコイツらに、イイ女がいるからって聞いてただけだ!」

「ふーん?」

「な、殴らないくれ!」

「だったら、葵には近付くんじゃねェよ、先輩」


そう言うと、先輩は逃げるように去って行った。さっきまで強気だったくせに、立場が変われば意外と弱いようだ。








「あー、超痛ぇ」

先輩に殴られた顔を押さえて、壁に寄りかかった。気にしないようにしても、頬はジンジンと痛んだ。これはしばらく痛みが続きそうだ。










「流石、岩ちゃんだねぇ」

「あ?」

声がし、ひょっこり裏庭に現れたのは及川徹だった。






「テメェ、なんでここにいる」

「え? だって全部見てたから。岩ちゃんが怖ーい上級生の人達と一緒にここに来るのもぜーんぶ見てたよv」

「は? お前、黙って見てたのかよ。何で出て来なかった、3対1だぞ」

「岩ちゃんなら大丈夫かと思って」

「こっちは殴られてんだぞ。つーか、やばくねェかコレ。どーすんだ」


殴り倒して、気絶する先輩二人に、突っ立ってる俺。そして後から現れた及川。

今誰かに見られたら、俺が先輩二人を殴り倒したって事実しか残らないだろう。これは不味い。




「岩ちゃん、乱暴はよくないよ!」

「うるせぇ、お前全部見てたんなら知ってるだろうが」

「まぁね」

「どうすっかな」


思わず殴ったけど、これって見つかったら処罰とかあるんじゃねーか?
理由はどうあれ、殴り倒した事に間違いはない。


やべー。





「岩ちゃんが暴力沙汰起こした!」

「……。」

「バレたら停学かなぁ、それとも」

「……。」

「なーんてね」

「あ"?」

「葵を守ってくれた岩ちゃんを罰するなんて、俺がさせないよ」

「……なんか策あんのか?」

「じゃーん!」


及川がポケットから取り出したのはスマホ。



「?」

「ポチッとな」





【「何の用っスか?」

「ちょっとお願いがあんだよ」

「テメーなら呼べるだろ?仲良しだもんなァ??」

「葵を呼んでどうするんですか?」

「あ"?テメーは黙って連れて来ればいいんだよ」

「落ち着けよ、分かったお前も仲間に入れてやるよ、それでいいだろ?岩泉クン」

「……仲間?」

「ちゃんとお前にも輪姦(まわ)してやっから、な?」

「お前にもちゃんとヤらしてやるよ、だからさっさと呼んでこいよコラ!」

「葵を」

「まずお前から痛い目にあうか?」

「……やってみろよ」

「上等だコラ!!!」】






「まぁ、こんな感じv」


及川のスマホから流れたのは、
さっきの俺達の会話だった。





「ずっと録ってたのかよ」

「勿論v先生達には俺から説明するし、岩ちゃんは安心していいよ」

「そーかよ」


なら、この事は及川に任せるか。






「葵には言うんじゃねーぞ」

「言わないよ。でも岩ちゃんのその顔、なんて説明するのサ」

「ボールが当たったって事でいいだろ」

「え、岩ちゃんが?」


(まぁ、葵が信じるかどうかだね)









「岩ちゃん」

「あ"?」

「葵の事、まだ好き?」

「……。」

「ねェってば」

「うっせぇ、好きじゃなきゃ守んねーよ」

「……。」

「なんだその顔は」

「いんや、ありがとね、岩ちゃん」




二人はいつも一緒にいて欲しい、

いつも笑い合って居て欲しい。




(俺は二人が、大好きです。)


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