22、お似合いなあの二人を見ると
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放課後、バレーの練習をしていると
へらへらと及川が近付いて来た。




「ねぇねぇ岩ちゃん、もうすぐ誕生日だけど何欲しい?」

「彼女」


「それは俺も神様も無理だよ!」



「うっせぇクソ及川!」


ムカついたからボールを思いっきり及川に向かって投げつけてやった。









「俺に彼女居ないのに、岩ちゃんに彼女居たら嫌じゃん! ムカつくじゃん!」

「知るかっ!」

「ねぇ彼女以外ないの? 欲しいもの」

「ねぇな」

「本当に?」

「……じゃあ真面目な及川」

「え!? 俺が欲しいの!? なんかえっちい!」

「あ"?」

「じょ、冗談だよ岩ちゃん、とりあえず胸倉掴むのやめよ?」

「誕生日は何もいらねーからほっとけ!」

「ちぇっ」


帰ったら葵に相談してみよっと。

多分、葵は何かあげるんだろーなぁ、毎年ちゃんとあげてるみたいだし。











花「何? 岩泉って誕生日なの?」


話を聞いていたらしい花巻と松川が寄ってきた。







松「何日?」

「6/10だよー」

「なんでお前が答えてんだよ及川」

「あ、ちなみに俺は7/20ね」

「ふーん、葵ちゃんの誕生日は7/20か」

「違うよ花巻! 俺の、俺の誕生日だよ!?」

「双子だから一緒だろ? 葵ちゃんの誕生日は7/20、うん覚えたわ」

「俺の誕生日は?」

「んなもん知るか」

「ひどっ!」


いいもん、毎年誕生日は女の子達がいーっぱい誕生日プレゼントくれるから!みんなが祝ってくれるから寂しくないし!


まぁ、今は祝ってくれる彼女居ないけど。






「ちょっと俺、葵に慰めて貰ってくる」

「はァ!?」

「じゃあね!」

「オイちょっと待て! オイ!!」


岩泉の呼びかけを無視して、
及川は体育館から出て行ってしまった。








「あの野郎……!!」

花「行っちゃったなー」

松「静かになって丁度いいけどな」

「良くねェよ!」

花「なんで?」


花巻は静かになっていいじゃんと

及川に興味無さそうに呟いた。












「おい、及川はどうした?」

「「「!」」」


監督の言葉にビクッとする三人。






「えっとその、逃げました」


岩泉が申し訳なさそうに監督に言った。自分が悪いわけではないが、凄く焦っていた。








「岩泉」

「……はい」

「連れ戻して来い」

「……はい」



監督に命じられ、岩泉は及川を追うように体育館を出て行った。






「クソ及川っ!!!」









花「俺、岩泉の誕生日になんかやろうかな」

松「だな」








****





体育館から出た及川は校内を歩いていた。





「このへんだったかな?」


葵が写真部に入部した事は勿論知っているし、写真部の部室がこっちにある事も俺は知っている。


一回も行った事ないけどね!





「写真部」と書かれたネームプレートを見つけて、ゆっくり扉を開いた。






「失礼しまーす、葵いますかー?」

「ん?」




扉を開いた先にいたのは、葵ではなく、黒髪の男子生徒だけだった。
写真部の部員らしい男子生徒は驚いた表情で突然部室に入ってきた及川を見ていた。





「あれ、誰?」

「(げ、及川徹)」


写真部二年の千堂は、激しく焦っていた。その理由は目の前にいる人物がとてつもなく苦手だったからだ。







「えっと、あのさ、何か用?」

「及川葵さんって居ないの? 写真部のはずだけど?」

「及川さんなら、相原さんと出かけてるけど」

「ふーん、すぐ帰ってくる?」

「まぁ」

「じゃあ待っててもいい?」

「え!? いや……えっと」


何なんだコイツ。
一体、何しに来たんだ?

及川葵に会いに来たのか?





「あ、椅子借りるよ」

及川は気にする事なく部室に入って椅子に座った。







「そういえば、誰? 写真部員?」

「千堂アキラ、ちなみに二年な」

「え、先輩だったんですか」

「別に今さら敬語とか別にいーよ、あんた及川徹だろ」

「俺の事を知ってんの? もしかして葵から聞いた?」

「うちのクラスの女子が言ってた。及川徹っていう一年は有名だからな」

「へぇ、2年でも俺って有名なのか」

「それにしても似てねぇのな、及川さ……葵さんと」




双子の兄妹だから少しは似てるのかと思ってたけど、及川徹と及川さんは全然似てない!

及川徹はへらへら笑うし、自由奔放だし。


こうやって見ると及川さんの方が大人っぽいんだな。







「ねぇ、何これアルバム? 誰の?」


及川は机の上置いてあったA4サイズの青いアルバムを手に取った。




「それは及川さんが撮った写真だと思うけど」

「へぇ」


及川は青いアルバムに収納されている写真を見ていった。








「(あ、俺がいる)」



バレーしてるなぁ、
ああこれ中3の練習試合の時の写真だ。確か葵が初めてバレー部を見に来たんだっけ?肩を怪我したり大変だったんだよねー。





「(あ、岩ちゃんだ)」


スパイクを決める岩ちゃんの写真。
これも中3の時かな。

なーんか俺より上手く撮れてる気がする。








ていうか岩ちゃんの写真の方が多い!





「ねぇ先輩! なんで岩ちゃんの写真の方が多いの!」

「いや誰だよ、岩ちゃんて」


いきなり及川に聞かれた千堂は困っていた。







「これ! このするどい目付きの!やたら不機嫌そーな男!」

「は?」


面倒そうな千堂は、及川にアルバムを見ろ!と無理やり見せられ、岩ちゃんと呼ばれた男の写真を見た。







「これ!」

「!」

(コイツは確か……この間、及川さんと一緒に帰っていた奴だ)



見覚えのあるその姿に、千堂はイラッとした。







「岩ちゃんばっかりズルい!」

「なぁその岩ちゃんてどんな奴?」

「えー? いっつも怒ってるし、俺を殴ってくるし、たまにお母さんみたいな事言うし、あ! さっきボール投げつけられた! 岩ちゃんは怒ると凄く怖いよ、先輩も気を付けてね」

「……危ねぇ奴だな」




つーか及川さん、
そんな奴と一緒に居て大丈夫か?

そんな奴なんかと一緒にいるより、絶対俺と一緒に居た方が幸せになれると思うんだけど。
いやマジでそう思うんだけど。


俺と付き合ってくんないかなー。









「なぁ、その岩ちゃんて奴と及川さんて仲いーの?」

「そりゃあ良いよ、ついこの間までギクシャクしてたけど最近はそうでもないと思うよ先輩」

「ふーん」






岩ちゃん、ねぇ。

そいつが居なかったら、及川さんは俺の事も見てくれるのかな?















「……何してるの徹?」

部室の扉が開いたかと思えば、及川さんと相原さんが部室に戻ってきた。





「やっほー、葵」

「やっほーじゃなくて部活は?」

「今ちょっと休憩中」

「休憩って、岩泉君に怒られても知らないからね」

「う、でもアイツらも悪いんだよ、俺の誕生日どうでもいいみたいな言い方するし」

「男友達の誕生日の扱いなんてそんなもんでしょ、でもちゃんと祝ってくれるから大丈夫じゃない?」

「そうかな?」

「そろそろ部活戻ったら?」

「えー、もうちょっと」

「ちなみに岩泉君に徹の場所を連絡済みだけど?」



葵の手はスマホがあった。







「葵ヒドイ! 俺を売ったな!」

「私が後から岩泉君に怒られる嫌だもん」

「岩ちゃんは葵に甘いから怒んないよ!」

「そんなことないよ」








「(ふーん)」

及川兄妹は、やはり兄妹というか
凄く仲が良さそうだった。

及川さんがこんなに喋るなんて、あんまり見た事ない。だって俺の時はなんか遠慮してる話し方だし?




で、岩泉君って君らの何なの?










「及川ボゲェ!さっさと戻んぞ!」



「岩ちゃん!?」

「早いね、岩泉君」


開いたままになっていた扉から

ジャージ姿の岩泉が入ってきた。







「ごめん岩ちゃんマジごめん!」

「あ"?」


及川は岩泉に胸倉をギリギリと掴まれていた。









「おっかないねぇ」

「ん?」


及川の胸倉を掴んでいると、

黒髪の男子生徒がこっちを向いて言ってきた。








「……。」

見覚えのあるソイツは確か、写真部の先輩だ。葵が言っていたのを思い出した。










「君って、及川さんの彼氏さん?」

「……違ぇけど」


椅子から立ち上がって目の前に来た男に俺はイラッとした。ジロジロ見てくる目も気に入らねぇが、それよりまずコイツの身長だ。




(185センチ……)


やはり目の前に来ると分かる身長差。









「(デケェな)」

「彼氏じゃないんだ?」

「だったら何なんスか」

「もし彼氏さんだったら悪いなと思って、俺と及川さんがくっついたら」

「は?」


どういう意味だ。






「千堂先輩、私先輩と付き合う気ないって何回も言ったじゃないですか」

「(は? 何回も言われてんのかよ)」

「今はそうでも、これからは分かんないでしょ?」

「えっと、これから先、私が先輩を好きになると?」

「うん」

「これから先……うーん?」

「!」


(いや、何で考えてんだ葵!)








「俺、及川さんの事超好きだしv」


千堂という男は爽やかフェイスでニコっと葵に笑って言った。


俺に敵意剥き出しのクセに葵には爽やかな笑顔、コイツの器用さに少し圧倒された。



(つーか見下ろすな!)







「……。」

葵の方見れば、まんざらでも無さそうに照れていた。顔が少し赤かった。








「葵、俺はコイツやだ」

「徹?」

「顔がイケメンなのは認める、だけど俺がなんかやだ」

「それは、すごい理由ね」


ずっと傍観していた茜が口を開いた。







「ねぇ葵、ちょっと千堂先輩の隣に立ってみて」

「え?」


茜に背中を押されて、
言われるがままに千堂先輩の隣に立った







「うわ、似合い過ぎ。どうよ葵の兄ちゃん、この二人お似合いのカップルじゃない?」

「う……」


どうやら私達は並ぶと見た目は似合うらしい。だからと言って私が先輩を好きになるなんてないだろう。


多分きっと。














「(ムカつく)」



俺はまたイライラした。

顔には出てねぇと思うが、葵と長身の男が並んでいるのを見てイライラした。

二人並んだ姿は凄く似合っていたし、
綺麗な顔同士が向かい合っているのも絵になった







葵の隣を離れるのが、
そろそろなんだと言われてる気がした。


そりゃ俺だって葵に好きな奴や彼氏が出来たら、身を引く覚悟があった。









「(だったら何で苦しがってんだ俺)」













「部活に戻んぞ、及川」

「え! 待って今大事な話を!」

「ほっとけ、お前もいい加減に妹離れしろ」

「でも」

「及川さんなら俺がちゃんと守りますよ、お兄さん」

「おに……!?」

「行くぞ及川」

「岩ちゃん!? ちょ」

「岩泉君」

「コイツの場所教えてくれてさんきゅーな、葵」

「ううん、部活頑張って」

「おう」






俺は気付かなかった、


葵が、

悲しい顔をしてるって事に



お似合いなあの二人を見ると



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