19、チームメイトから見た考察
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現代文の授業が急遽、図書室での自習に変わった。現代文が嫌いな生徒が多々いるクラスメイト達は嬉しそうに図書室へと向かった。



うちの学校の図書室はボキャブラリーが広く、色んなジャンルの本がある。同じクラスの茜は宿題を広げて黙々と片付けていた。私はたまには写真集でも見て教養を得ようと面白い写真集でもないかな、と本棚を見回っていると興味深い本を見つけた。





「……。(うーん)」


図書室で見たい本を見つけたのはいいが、問題は本棚の高さだ。身長158cmという平均的な身長の私では一番上の本棚には何をしても手が届かない。必死に背伸びをしてみたが、目的の本にはかすりもしなかった。くやしい。


こんな時に、背の高い双子の兄が居てくれたらと思うが、徹はクラスが違うし今は授業中なのでそれは叶わない。






「(……なんで一番上に置くかな)」


手が届かない場所を恨めしく見つめ、仕方なく背が高い誰かにお願いするか、本を取るための台でもないかなと周りを見た。

自習と言っても静かに本を読むタイプではない3組、喋っていたりゲームをしていたりと自由奔放だ。騒がしいけれど私はあまりそういう事を気にしないの。むしろこれくらいが居心地良かったりもする。


さて、どこかに背の高い生徒はいないかな?






「及川さん、どーしたの?」

「!」



ふと声がして、上を見上げるとクラスメイトの男子が私を見下ろしていた。


(あ、背が高い。)






確か、彼の名前は花巻君だ。


何度見上げても、背が高い。






「(身長、高い)」

「ん?」

「私、花巻君の身長が羨ましい」

「え、何どうしたの?」

「私が花巻君だったらあの本に手が届くんだなと思って」

「ああ、素直に高くて届かないからあの本を取ってって言えばいいのに」

「読みたい本が高くて届かないので取って下さい」

「えー? どうしようかなぁ」

「……じゃあいい」



他の男子に取って貰おうと、

花巻君に背中を向けた。





「ちょ、待ち、ごめんって」

肩を掴まれて、呼び止められた。
そして、彼の手には私が見たかった写真集があった。




「はいどーぞ」

「……ありがとう」


手元にある写真集を見てから、にこにこ顔の花巻君を見た。彼は何故か私の顔をジッと見てきた。






「なに?」

「んー、全然似てないなぁと思って」

「もしかして徹と? 知り合いなの?」

「そ、俺も男子バレー部だから」

「そうなんだ。あ、兄がいつもお世話になってます」


軽く頭を下げると、「いえいえまったく」と花巻君も同じように頭を下げた。




「及川さんって写真集読むの?意外だね」

「え、私写真部なんだけど」

「マジか」

花巻君に本を取ってくれてありがとう、ともう一度お礼を言って空いている席に座ると、



隣に花巻君が座ってきた。






「花巻君?」

「あ、隣いい?」

「いいけど、もう座ってるじゃない」

「わぁ本当だ」


しらじらしく言う彼に、ああ花巻君はこういう性格なんだなと深く追求するのはやめた。


写真集を開いて見ていると、

隣からの視線が気になった。






「……。」

「……。」


花巻君は机に肘をついたまま、視線をことらに向けて私を見ていた。うん、とても読み辛いよ花巻君。







「なに?」

「いや? 及川さんって可愛いなと思って」

「……(引)」

「ちょ、引くなって」

「なんか花巻君がよく分からない」

「はは、そんなんいつも言われてる」

「(いつも?)」


一体彼は、何で隣にいるんだろう?
何か私に言いたい事があるわけでもないし、特別に用があるわけでもなさそうだ。






「ねぇ、及川さん」

「今度は何?」

「葵ちゃんって呼んでいい?」

「一応聞くけど、理由は?」

「兄貴の方と呼び方が被るから」

「……。」





なるほど。





「いいよ」

「マジか、絶対に駄目って言われると思ってた」

「徹と同じ名字だから、名前で気を使われるのも嫌だしね」

「へぇ」

「?」

「葵ちゃんってもっとキツイ性格なのかと思ってたー。モテるし、人気だし?」

「……。」

「でも良かった、及川さんって呼ぶのもなんか変な感じだし、かといって及川を「徹」って呼ぶのは死んでも嫌だし」

「徹、バレー部で何やらかしたの」


やっぱりファンが多いから?
岩泉君もイライラするって言ってたし。花巻君もそうなのかな?





「葵ちゃんは及川みたいにへらへらしてないんだねぇ」

「私達はそんなに似てないと思うけど、それに兄妹揃ってへらへらしてたら嫌でしょ」

「嫌だねぇ」

「岩泉君がイライラして疲れちゃうよ」

「確かに(笑)」

「あのね花巻君、徹はいつもアレだけど、バレーは大好きだから、その」

「大丈夫、チームメイトだし。アイツの性格も大体分かってきたし、なんかあっても岩泉が代わりになんとかしてくれる」

「……なるほど」



そうだ、岩泉君がいる。

何かあっても、徹の近くに岩泉君が居てくれるなら大丈夫だ。





「うん、安心だね」

「葵ちゃんの岩泉への絶対の信頼がすげぇよ」

「岩泉君がいれば大丈夫だよ」



彼を思い出して、少し口元が緩んだ。






「……。」

(岩泉と葵ちゃんて何か)










****






男子バレー部。


「徹くーん!」
「頑張ってー!」


いつものように及川の応援をしに来る女子にへらへらと手を振る及川徹。




「早くサーブ打て! クソ及川!」


それを怒りしつける岩泉。






「(ああ、これがいつもの風景になってきた)」


花巻は一連の流れを見て

「(葵ちゃんの言った通り、岩泉がいれば及川の事は大抵大丈夫だ)」と思った。






「痛いよ岩ちゃん! 葵にもぶたれた事ないのに! ていうか頭はやめてよ! 俺が馬鹿になったらどうすんの!」

「お前なら大丈夫だろ。つーか俺は葵を殴ったりしねーよ、女には手を出さねぇよ」

「うっわ、まじ男前なんだけど、俺もそんなセリフ言ってみたい!」

「言えばいいだろ」

「そんな簡単に!? あ、そういえば最近、葵が無言で見てくる事があるんだけど、なんか蔑むような目で……なんでだと思う? 」

「女遊びが激しいからだろ」

「そんなに遊んでないよっ!」

「(そんなに……?)」


(って事はやっぱり遊んでんじゃねーか。)





「岩泉、やったれ」

会話を聞いていた花巻は、親指を立てて岩泉にそう言った。




「テメェやっぱり遊んでんじゃねーか!」

「ちょ、岩ちゃん痛いよ! だったら岩ちゃんも女の子と遊べばいいじゃん! 月曜はオフなんだからさ!」

「嫌味で言ってんのかオイ!」

「大丈夫だって! 岩ちゃんにもいつかきっと、多分! 女の子が、きっと、うん! 大丈夫だって!」

「気を使われるよりはっきり無理だって言われた方がマシだ!」

「もー、わがままだなぁ岩ちゃん。俺が落ち込んでバレーが嫌になったらどうすんのサ」

「何言ってんだ。葵がいればお前が落ち込んでもなんとかなる。安心しろ、大丈夫だ」




岩泉の一言に、花巻が少し反応した。




「(葵ちゃんだから安心、葵ちゃんがいれば大丈夫)」


どこかで聞いた台詞だな、やっぱり岩泉と葵ちゃんて何かあんの?





「葵は俺のちょっとした変化でも敏感だからねぇ、だから隠す事なく素直になれるんだろうなぁ俺」

「お前が荒れたら何度でも俺と葵で正してやるから安心しろ」

「でも頭突きはやめてね岩ちゃん?」

「さぁな」

「え!?」

「(なるほど)」


花巻はなんとなくだが、この2人と葵の関係が見えてきた。仲が良いというのは当たり前だけど








「そうかそうか、及川の弱点は葵ちゃんか」

「!」

「なんだとマッキー! 俺に弱点なんてないよ!」

「はいはい」

「あれ? ていうかなんでマッキーは葵の事を「葵ちゃん」て呼んでるの? 俺はそんな呼び方を許した覚えないよ!」

「ん? ああ、お前じゃなくて及川妹の方に許可取った」

「なにー!?」


(葵本人が!???)





「ん? 花巻、葵と知り合いだったのか?」


疑問に思った岩泉は花巻に聞いた。

(葵は高校では一度もバレー部に顔を見せた事はないと思うが、どうやって知り合ったんだ?)




「実は俺、及川の妹の葵ちゃんと同じクラスなんだよねぇ」

「ああ、そうなのか(なるほど)」

「え! マッキーと葵、同じクラスだったの!? 何で言わないかなー? そういう事はサ」

「え、なんで?

「なんでって、まぁいいけど……葵に手ェ出しちゃ駄目だからな!」

「はいはい」




それはどうだろうなー

葵ちゃん可愛いし、





でも、





「(なーんで岩泉が無言で睨んで来るのか、知らないフリしといた方がいいかな、今は)」




チームメイトから見た考察

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