18、当たり前の日常に惑わされる───────----‐‐‐ ‐
日常の変化というのは
時には突然に起こる事がある。
「い、岩泉君、お昼ごはん一緒に食べよう」
「……おう」
いつもと違う光景に、クラスの男子はざわついた。勿論だが、俺の心もざわついた。
葵と仲直り宣言(?)をしてから、葵が前みたいに接するようになった。
仲良し幼馴染復活!ってやつだ。
こんな事ならもっと早くちゃんと葵と話せばよかったと今になって思うが、まぁ今の葵の顔を見ればそんな事どうでも良くなった。
先ほどの日常の変化というやつは、今目の前で起こっているこれの事だ。昼休みに俺の教室に弁当を持って現れた葵。及川の妹という事もあるが、そこそこ有名な葵の突然の登場に5組の男子は「なんで岩泉!?」と面白い反応をしていた。つーか俺を睨むなよ、俺と葵は別に付き合ってるわけじゃねーし、これでも中学ん時は仲違いするまで昼はよく一緒に食べてたんだよ。
「あ、お邪魔します」
教室にいたぽかんとしている男子達に葵はそう言って、俺の席まで来て前の席に座った。「俺の席に及川さんが!」なんて喜ぶ声が聞こえたがこれは勿論、無視だ。
「つーか、一緒に昼飯食ってる奴どーした。相原だっけ?」
「茜は今日休み、たまには岩泉君と一緒にお昼御飯を食べようと思って、大丈夫だった?」
「おう、俺はいつも適当に食ってるからな。」
「それなら良かった。徹とかいるのかと思ったけどいないみたいね」
「及川はたまにしか来ねえぞ?」
「そうなんだ? やっぱりクラスが違うとそうなるのかな。あ、唐揚げ食べる?」
「食う」
目の前に出された唐揚げをパクっと食べた。あ、懐かしい味だなーと思いながら購買で買ったパンの袋を開けた。
「そういや、部活どうだ? 写真部だっけ?」
「人数はやっぱり少ないけど楽しいよ。中学の時より本格的にやれそう」
「そっか、帰りが遅くなる時は連絡しろよ? 家まで送ってやっから」
「わかった、ありがとう。バレー部はどんな感じ?」
「あー……相変わらず及川が注目されてる、やっぱ上手いからなーアイツ。つーか最近、体育館を見に来る女子が日に日に増えてる」
「イライラしてる?」
「イライラしてる」
「ふふ、岩泉君怒ってばっかりだね」
「兄貴の方だけにな」
教室で葵と話していると、やはり周りの視線が気になった。信じてなかったけど、やっぱそこそこ人気あんだなコイツ。
「そーいや葵はさ、なんで告白を断ってばっかりなんだ?」
ついこの間、クラスの男子が言っていた事を聞いてみた。いやだって気になったから。
「どうしたの急に?」
「いや、気になったから」
「……だって、ほら、好きって言われても、知らない人ばっかりだし、付き合うとか……なんか恥ずかしいし、よく分かんないし」
顔を赤らめて言った葵に
「(あ、いつも断ってる理由はそれか)」と思った。
付き合うとか、好きとか嫌いとか以前に、恋愛事に向き合う自信がねぇんだ葵は。きっと葵は少女漫画のような恋しか知らないんだろうな。
「まぁそうだよなぁ、好きじゃない奴から好きって言われてもなー」
「で、でもね、好きって言われるのは嬉しいよ? ただ上手く断れなくて、緊張しちゃう」
「(告白を断り過ぎたから、男嫌いっていう噂が広まってんのか?)」
「なんていうか、徹が羨ましいよ、告白とかどうやって断ってるんだろう?」
「さぁな(俺はお前らの悩みが羨ましい)」
大体、俺なんて異性からの告白生まれてから一回もされた事ねーし。及川が告白されたとかはしょっちゅう聞いているが、俺には告白なんて無縁だ。もし可愛い子から告白されたら俺なんかすぐOKする。
けど部活が忙しくて、彼女とかデートとか、それどころじゃないかもしれねーけど
お互いに昼飯を食べ終わってからも、だらだらと世間話をした。もうすぐ昼休みが終わるくらいに葵は自分のクラスに戻って行った。あ、本当に俺らの仲は元に戻ったんだな、と安心した。
葵が俺の近くで笑っている、それだけで嬉しかった。昔と何も変わらない葵、俺と葵の距離はもう遠くない。
「岩泉、聞きたい事がある」
「いーわーいーずーみー??」
「なぁ岩泉クン? ちょっといい?」
どうせ来るだろうなと思っていた。
葵の姿が見えなくなった途端、クラスの男子が3人、座っている俺の所に詰め寄ってきた。
「なんだよ」
「及川さんと仲良いじゃん?」
「まぁな」
「なぁなぁ岩泉ってさ、及川葵ちゃんとお昼一緒に食べる仲?」
「仲っつーか、昔からそうだけど」
「なぁもしかして岩泉……
及川さんと付き合ってんの?」
その一言に教室がシーンと静かになった。
クラスメイトの視線が、俺の方に向いているのがなんとなく分かった。何だよこの静けさは、そんなに俺と葵の関係が気になるのか?
「付き合ってねーよ」
「本当に?」
「本当に、葵とは幼馴染だって前に言っただろーが」
「唐揚げをあーん、とかしてたのに?」
「そんなんアイツら兄妹でも普通にやってるぞ」
「は? マジで及川徹ムカつく」
どうやらコイツらはだいぶ及川兄が嫌いらしい。女にモテるって事以外は別に嫌われねーのにな。及川はモテる事を自覚してるからその分タチが悪いけど。
「じゃあさ岩泉、及川葵って今彼氏居ない?」
「居ねぇな」
流石にいたら俺も気付くだろーし。
というか葵のあの初心さを見てたら、まず彼氏は居ないだろ。顔真っ赤にしてたし、あれだったら彼氏が出来るのはだいぶ先になりそうだ。
「じゃあ俺、狙おう」
「は?」
「及川葵ってフリーなんだろ?」
「そうだけど、お前好きなのか?葵の事」
「え? すっげぇ好きだけど? 入学式で一目惚れした、だってめっちゃ可愛いじゃん!」
「マジかよ」
「俺の目標はまず仲良くなる、頑張れ俺!」
「お、おう」
「というわけで岩泉、及川さん紹介して」
「頑張るんじゃなかったのかよ!!」
なんでいきなり俺に頼ってんだよ!
「えー、だって及川さんに話しかけるとか恥ずかしいじゃん。」
「女子か」
「だって無視とかされそう」
「そーか? 俺こないだ体育ん時に初めて喋ったけど普通に話せたぞ? ていうか優しかった。」
「マジか、俺ちょっと3組行ってくる」
「もう授業始まるぞ」
俺がそう言ったと同時くらいに予鈴がなった。
「ちぇっ」
「俺は見てるだけでいいや、頑張れなー」
「岩泉ぃ、及川さんを」
「紹介しねぇよ」
「えー!? じゃあどうやって及川さんと知り合えばいいんだよぉ!」
「頑張れ」
「鬼! 鬼泉! おにいずみはじめ!」
「……。」
「無視すんなァ!」
何故か俺の周りには、及川葵のファンが多い。きっと好意を持っている奴は他のクラスにもいるだろう。この事実を葵は、息苦しいと思ってるのか? 異性からの好意に戸惑っているのか?
「(もし、俺が好きだと言ったら、葵はどうなるんだ?)」
何気なく思った言葉に、ハッとした。
そして、俺は異様に焦った。
俺は一体、何を考えた?
「(葵は幼馴染、今までもこれからも)」
当たり前の日常に惑わされる
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