13、視点を変えれば見えてくる───────----‐‐‐ ‐
「中学最後の大会」
徹はそう言っていた。
私が徹の試合を、練習試合とかじゃなく、負けたら終わりのバレーの試合を見るのはこれが初めてだった。
体育館中に聞こえる声援、
女の子達の徹を応援する声
ほのかに香るエアーサロンパスの匂い。
全部、初めてだった。
私は上からコートを見ていた。
そこから見える景色は、
私の感覚全てを奪い去って行った。
徹が勢いのある凄く早いサーブを打った。北一で一番格好良くて強いサーブ。それに試合はコートにいるみんなが格好良く見えた。徹がトスを上げて、岩泉君が真っ直ぐ強いスパイクを打った。
二人共、かっこいいと
素直にそう思った。
私は緊張した。
私がコートに立っているわけじゃないのに、凄く緊張した。ドキドキした。胸が締め付けられた。
正直、逃げ出しそうなった。
でも、
私のファインダーに写る彼らは、真っ直ぐな強い目をしていた。彼らはあそこで戦っているんだ、あの場所で……だったら私も最後まで見届けるのが私の戦いじゃないのか。
ちゃんと自分の目で、見るんだ。
……私は逃げなかった。
ルールなんて
あんまり詳しくなったけど
コートにボールが落ちた方が負けるって事くらい
私でも、分かるんだ。
「負け、た?」
え、今何セット目だっけ?
まだ終わってないよね?
まだ、まだ
まだ彼らの戦っている姿を見たい。
……徹が、負けた。
北川第一は決勝戦で白鳥沢中等部に負けた。
コートを見れば徹は、悔しそうに泣いていた。隣にいる岩泉君も泣いていた。あの岩泉君が泣いているところなんて初めて見た。
「……っ」
悔しかった。
こぼれ落ちた涙をカーディガンの袖で拭った。
泣いてない、私は泣かない。
もう泣かないって、決めたのに。
なんでこんなに苦しいの。
行かなきゃ、
徹の所に行かなきゃ、
「す、すみません、あの」
試合の終わった徹の所に行こうと、北川第一バレー部のジャージを着ている人達に話しかけた。
「はい?(うわ、すっげぇ可愛い!)」
「あの、徹……及川君って今はどこいますか?」
「えっと(あ、及川さんのファンの子か、こんな時によく話しかけて来れるなぁ)」
「今、及川さんはファンに相手してる暇ないから」
「え、いや……私は」
どうしよう、ファンの子だと思われてる。徹はどこに行ったんだろう?
「葵さん!」
「!」
どこかで見た事あると思えば彼は、
確か影山君だ!
「あ、影山君」
「どうしたんですか? 及川さん呼んできましょうか? 多分もうすぐ戻ってくると思います」
「そうなんだ、ありがとう……助かるよ」
じゃあちょっと待ってようかな。
「葵っ!??」
「!」
突然、名前を呼ばれて前を向くと、複雑な顔をした徹がいた。徹、と呼ぼうすると、何故か徹は背中を向けて逃げ出そうとしていた。
「え」
何で逃げるの!?
「オイ! お前どこ行くんだ!ミーティングすっぞ!!」
「離して岩ちゃん! こんな顔見せらんない!」
「ハァ!?」
私の顔を見て逃げ出そうとした徹は、すぐに岩泉君に捕まっていた。
「かっこ悪いとこ見せらんない!」
「あ"!? 誰も見てねーよ、ほら行くぞ!」
徹は岩泉君にずるずる引っ張られていた。
「えっと、徹?」
「葵!? 何でここに…」
目を真っ赤にした岩泉君が私を見て凄く驚いていた。そりゃ今まで一度も大会とか見に来てなかったからね。いたら驚いちゃうよね。
「葵……」
「ちゃんと見に来たよ、試合」
「!」
葵の事の言葉に岩泉がビクッとした。
「(葵、試合を見てたのか……)」
ああ、
だから及川の奴、焦ってたのか。
「あ、あの、葵、ごめん」
「ん?」
「俺、負けちゃった、せっかく葵が見に来てくれてたのに」
「……。」
「葵にかっこいいとこ見せようと、頑張ったんだけど、その……」
何も言わず聞いているだけの葵を目の前にして、少しずつ声が小さくなっていった。
「葵、ごめ……」
「試合、お疲れ様」
「え?」
顔を上げると、葵はにっこり笑った。
「徹かっこ良かったよ、ちゃんと全部見てた」
「え、いやでも、負け……」
「何よ、かっこいい所見に来いって行ったのは徹でしょ」
「でも負けて……」
「徹、また泣くの?」
「!」
「徹も、岩泉君もみんなかっこ良かったよ」
「おう」
「あー! ちょっと何で俺以外にもそれ言うの!?」
俺だけを応援して
俺だけを見てて
俺だけにかっこいいって言えばいいのに!
「だってみんなかっこ良かったよ?」
「葵……」
「お前らホント似てねーな」
でも、空気が変わった。
さっきまでしんみりモードだった及川がもうへらへら笑ってやがる。葵ってやっぱり及川の扱いが上手ぇな。
「?」
(なんか岩泉君がずっとこっち見てる、私もしかして変な事言った?凄い失礼な事を言っちゃった!?頑張って戦ってたのにかっこいいとか言ったから呆れられたかも)
「葵、」
「は、はい!」
岩泉君に呼ばれて思わずビクッとした。
「さんきゅーな」
「!」
岩泉君に頭をぐりぐりと撫でられた。
「!!?」
また胸がぎゅーっと痛くなった。
「葵?」
「ちょっと岩ちゃん! いつの間にそんな風に女の子の頭を撫でるようになったの!!」
「は!?」
「他の子はいいけど、葵はだめ!」
「何言ってんだっ! こんなん今まで普通だっただろうが!!」
何で駄目なんだ!?
意味わっかんねェ!!!!
葵もなんとか言いやがれ!
「……ごめん」
「は? 何がだっ!!?」
何だよ!
俺ってやっぱり葵に嫌われてんの!?
「(あー、マジでイライラする)」
「ねぇ葵、閉会式まで待っててー」
「え? 帰るけど」
「なんで!?」
「徹達はバスで一度学校に帰るでしょ?」
「う……」
「だから私は一人で先に帰るよ」
そう言うと徹は嫌そうな顔をした。
徹がこの顔をした時は、
凄く面倒な時だ。
「(どうしよう)」
国「なぁ影山、あの女の子誰? 知り合い?」
影「及川さんの彼女だろ?」
金「え! あの及川さんの彼女!? めっちゃ可愛い!」
岩「は? 何言ってんだお前ら?」
「「「え?」」」
国「知り合いですか、岩泉さん?」
岩「及川の妹だろーが、双子の」
「「「妹っ!??」」」
影「おおおお、及川さんの妹さんだったんですか!? 俺てっきり彼女だと!」
金「俺、全然知らなかった」
国「ていうか似てない……」
岩「でもまぁ葵はあんま目立つような奴じゃねーからな」
「「「いやいや、凄い目立ちますよ?」」」
岩「そうか?」
「「「(この人いつもどこ見てんの!?)」」」
「(そうか、葵は目立つのか)」
視点を変えれば見えてくる
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