12、たまには息抜きも必要なんです
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「徹、寒い……」

「寒いねぇ」


マフラーに顔を半分沈めながら、人通りの多い道を徹と二人で歩いていた。今日は学校が休みなので制服ではなく二人共、冬の防寒姿だった。黒のコートも徹が着ると格好良く見えてしまうのはやはり顔とスタイルが良いからなのかな。寒さに耐えながらそんな事を思った。しかしショートパンツとタイツじゃなくて、暖かいスキニーパンツを履いてくれば良かった。






「でも大会前なんでしょ、いいの遊んでて? 練習とかは?」

「遊びだって大事だよ、筋肉の休息も必要なの」



部屋で受験勉強をしていると徹がいきなり部屋に入って来て「どっか行こう!」と言ってきた。「やだ寒い」と言うと、勉強も息抜きしないと駄目だよ!と言ってきた。


まぁ、たまには良いか、と外に出てみた。





でも、外はやっぱり寒かった。






「葵、チョコがいっぱいある」

「もうすぐバレンタインだからね」

「女の子って大変だよねぇ」

「その女の子達から毎年大量に貰ってるよね」


街中を見ればバレンタイン色で染まっていた。毎年思うけど、徹にチョコをあげようと頬を染めて用意をしている女の子の気持ちが分からない。

顔は格好良いけど、うーん。




「葵はチョコ買わないの?」

「買ってもあげる相手居ないよ」

「毎年俺が欲しいって言ってるじゃん!」

「女の子達かがいっぱい貰ってるんだからいいでしょ。それに今年は受験勉強でそれどころじゃないよ」

「ちぇー、じゃあ来年! 来年は!?」

「覚えていたらね」

「マジで!?」

「……。」


こんな寒いのによくそんなに笑顔になれるなぁ。チョコでご機嫌になるなら来年はあげてもいいかなと思った。まぁ覚えていたらだけど。




「葵、映画見ようー」

「寒いから早く行こう」


とにかくどこか室内に。
寒くないところに移動したい。













「ねぇ! あれって及川先輩じゃない!?」

「本当だ! 先輩の私服かっこいい!」

「ねぇ、隣にいる女って誰? 彼女?」

「うっそー? 及川先輩今は彼女居ないって言ってたよ?」


「「「じゃあ誰」」」











「……。」


全部聞こえてるんだけど、あの子達は分かってて聞こえるように言ってるのかどうなのか。

徹と一緒にいるといっつもコレだ。
凄く見られるし、目立つし。ああ、凄い見られてる、鳥肌立ってきた。
















「なぁ、あの子……すっげぇ可愛い」

「やっぱり?いいよなー」

「すっげぇ美少女」

「でも彼氏いるっぽくね、隣に男いんじゃん」

「ん? 徹にいるあれって……」

「「「げ、及川徹だ」」」













「(見られてるなぁ)」


いやぁ、街に出ると葵って凄い目立つなぁ。そこらへんの男はみんな見てるし、隣にいる俺めっちゃ睨まれてるし?ていうか俺って顔広いんだなー。





そこらへんの男子達!


葵の隣を歩くの、




羨ましいだろー








「(ん? 徹の機嫌が良い)」

こっちは徹ファンの女の子達に睨まれてるっていうのに、少しは気にしなさいよ。


でも、今日の徹は少し様子がおかしい。いつもの笑顔だけど、なんか違う。









「あ、葵、これ見よう」

「……。」


地元の映画館に着いて、徹が見たい映画を指差した。それはちょうど私も気になっていたやつだったから頷いた。





「ありがと!」

「ねぇ徹」

「んー?」

「何に怖がってんの?」

「え?」

「もしかして、大会前だから?」

「………なーんで、葵はいつも俺を見抜くわけ。ちょっと怖いんだけど」

「……。」


怖いとか、そんな事言われても




「あの岩ちゃんですら、今回の俺の不調を見抜けなかったのにさー」

「隣がいつもより、落ち込んでるなーって思っただけ」

「落ち込んでないよっ!! 違うよ!」

「そうなの?」

「そうだよ! ちょっと緊張してただけ……ってもう何に緊張してたか忘れちゃったよっ!」

「なら、もう大丈夫そうだね」

「え?」

「徹ってさ、バレー上手いんでしょ?じゃあ強い奴ら倒してカッコイイ所見せてよ」

徹がバレーをしている所を見るのはそんなにないけど、周りはいつも「凄い」って言ってる。






「北川第一で凄いサーブを打つ奴がいる」

「!」

「それって徹の事でしょ?」

「そう! それ俺!」

「じゃあそのサーブを打ちまくりなよ。いつも通り「凄い」サーブを」


徹にそう言うと、
徹は驚いた顔をしていた







「うん、葵が俺の一番近い所に居てくれてよかった」

「ん?」

「じゃあ来週の県大会、葵は見に来てくれるんだよね!?」

「え」



どうしよう、寒いし、絶対ジロジロ見られるし……出来れば行きたくない!





「中学最後の大会なんだ、葵に見に来てほしい」

「!」


そっか、徹にとって最後の試合なんだ。中学のバレー部のメンバーでする最後の試合。





「……かっこ悪い所見せないでよ?」

「勿論!」

「絶対勝ってよ」

「勿論! あ、でも葵は俺だけ応援してね? 岩ちゃんを応援してたら嫌だからね!」

「いや、北川第一を応援するんだからみんなを応援……」

「俺を応援してね?」

「……。」

「あ、ほらそろそろ映画が始まる時間だから行こう!」


さっきの笑顔より、少し晴れた笑顔の徹は私の手を取って歩いた。







「(……頑張れ、徹)」




たまには息抜きも必要なんです


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