8


***


ぎゅうぎゅうとサラリーマンや女子高生に押しつぶされそうになりながら、遥はひっそりとため息をついた。

座席に座れれば、男に見つかっても一先ず何も出来ないだろう。と踏んで、空いている座席を探したが、そう簡単に見つかるはずもなく。
結局吊り皮に捕まることも出来ずに棒立ち状態だった。

しかし、遥にもほんのすこしだけ希望が芽生えていた。
いつ男が来るのか分からないが、この人ゴミでは男も容易には見つけることが出来ないだろう。場所の指定はされていないし、うまく行けば。

電車のアナウンスが鳴り、片側の扉が開く。
駅のホームに男が立っていないか、乗り込む客の中にはいないか。
キョロキョロと見回すが、周りのサラリーマンの肩や頭が邪魔をしてよく見えなかった。
自分の小柄な身長を恨めしく思いながら、様子を伺っているとドアが閉り発車した。

見た限りでは男の姿は確認出来なかった。
遥はほっとして力を抜いた。

その次の駅も、そのまた次の駅も、男の姿は見当たらず。
結局降りる駅についてしまった。
遥はこんなにうまくいってもいいのだろうか?と少し不安になったが、男に会わないにこしたことはないと電車を降りた。

改札口を抜け、携帯の画面を見つめながら、もしかしてすれ違いになった?確認を取ったほうがいいのだろうか?と悶々と悩みながら歩いていると、前から来た人にぶつかってしまった。

「す、すみませっ……、」
「おっとぉ、前見て歩けよ。ったくぼさっとしてるガキだな。」

見上げると、それはあの男だった。
ぴしりと固まる遥を見て、男はにやりと嫌な笑みを浮かべた。

「おい、逃げるなよ?こっち来い。」

転びそうになった遥をとっさに受け止めてくれた男の手を払い、後ずさる遥。
男はその腕を掴み、ぐいぐいとどこかへ引っ張って行く。

男に引き摺られるようにして連れて来られた場所は、駅から少し歩いたところにある公園だった。
ベンチと鉄棒があるだけの、だだっ広く簡素な公園。
隅に設置されている公衆トイレは昼間でも薄暗く、便所特有の刺激臭を放ち、よっぽど緊急でもない限り人がより付く事はない。

まさかあのトイレに……?
一抹の不安を抱いた遥だったが、その予想に反して男の足は、その脇に止められた黒いワゴン車へと向かった。

「入れ。」

その事に一瞬ほっとして肩を撫で下ろしたが、おもむろに後部座席のドアを開けて言葉少なに命令する男に、遥は本当の難は過ぎ去っていない所か、これからだという事を思い知らされた。

これから始まるであろう悪夢に、遥は逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、男に撮られた自分の痴態をバラ撒かれたらと思うと男に従うしかなかった。

男は先に車内へ入り、椅子を倒して空間を作ると遥を手招きした。
遥はおずおずと中へ入り、「ドアを締めろ」と言う男の言葉に従ってゆっくりと扉を締めた。

狭い車内に男と二人きりになる。
サイドとバックの窓にはカーテンが引かれ、外の世界と遮断されているようだった。

「……っひ!」 男は遥の腕を乱暴にひっぱり、シートに引き倒した。
掠れた悲鳴を漏らす遥の首筋にしゃぶりつき、Yシャツの裾に手を伸ばす。
恐怖に粟立った遥の沸き腹を撫で回しながら、男はもう一方の手で性急にスラックスの中に手を潜り込ませる。

「……痛っ!」

無意識に男の腕に手を掛け、押し返した遥を咎めるように鎖骨に噛みつく。
薄く歯型がつき、ひりひりと痛むそこをねっとりと舐め上げ、甘噛みされると、遥の中にむず痒く燻ぶる様な快感が沸きあがる。

「……ん」

もどかしげに身を捩る遥の尻を下着越しになで回し、気まぐれに穴に指を突っ込むと遥の体がびくんと跳ねた。
男はその反応に、感じているのだろうと勘違いして、更に奥へ指をぐりぐりとねじ込む。
乾いた布に引っ張られて引き攣った皮膚が、傷口を広げ悲鳴をあげる。

「い゙っ……ぅ……痛い!」

涙を滲ませて懇願する遥の様子に、男が舌打ちしてスラックスから手を抜くと指先に少量の血がついていた。

「……ぐすっ、うぅ……今日は……勘弁してください。」

それを見て更に泣き出す遥に、男は苛立たしげにため息をついた。
男のため息に、びくりと肩を跳ねさせた遥に男はこう言った。

「そうだな、今日はケツの穴は見逃してやる。」
「あ、ありが……んぅ、」
「こっちでたっぷりご奉仕してもらうけどな。」

男は遥の顎に手を掛け上向かせると、親指で薄い唇を割り開き、驚いて引っ込めた舌をぐりぐりと撫でながら言った。



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