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ゲロ……ゲロゲロ♪ゲロゲーロ♪ゲロゲロ♪ゲロッ……

「……っん゙−。」

趣味の悪い電子音を鳴らす、これまた趣味の悪いカエルを模造した目覚まし時計の頭部を叩いて止めた。

「……はぁ、行きたくない。」

遥はむくりと気だるい体を起こすと、狭いベットから這い出た。
そのまま洗面所で洗顔と歯磨きを済ませ、制服を着込んで家をでた。

朝日の眩しさが目に痛く、遥は目を細めた。
駅へ向かう足取りは重く、遥の心情が如実に表れていた。
それでも、悲しいかな最寄駅の近さに釣られて借りたアパートから駅までは、どんなに遅くとも徒歩5分も掛からない。

改札口を前に、遥のモチベーションは更に下がった。

ホームへ着くと、沢山の人ゴミを前に遥の顔色は緊張に青褪め、目は焦点が定まらずキョロキョロとあちこちを見て挙動不審になっていた。

「……ぁ、……は、っはぁ……」

呼吸が乱れ、立ち止まる遥の肩に後ろから来たサラリーマンがぶつかり、舌打ちをして去って行くが遥には気に止める余裕がなかった。
しばらくして、20代後半くらいのやけにがたいの大きい女性が遥を気遣って声をかける。

「あら、アナタ大丈夫かしら?顔色すごく悪いわ。」

そう言って遥の肩を掴んで顔を覗き込みながら「こちらへいらっしゃい」とベンチへ誘導した。

「ちょっと飲み物買ってくるから待っていられるかしら?」

青白い顔でようやく頷いて、「すみません……。」頭を下げる遥に「いいのよぉ。すぐ戻ってくるから待ってなさいね?」と微笑んで雑踏の中へ消えて行く。

遥はしばしの間ベンチの背に背中を預け、目を瞑った。
すると、少し心が和らいだ気がした。先程の女性のおかげだろうか?

遥がほっと一息ついたその時。
ヴヴ……ヴヴヴ……と、ポケットの中の携帯電話が震えだした。
その振動に遥の体がぎくりと強張る。

まさか……。
震える手でもたもたと携帯を取り出し、画面をみるが表示されているのは数字の羅列のみ。
男の番号かもしれない、でも知り合いだったら……。
取るべきか否か、葛藤する遥の肩を誰かが後ろから叩いた。

「あら、驚かせちゃったかしら?ごめんなさいね、ほらポカリ。」
「……ぁ、……ありがとう……ございます。」

先程の女性だった。
大げさに肩を跳ねさせた遥に、女性は眉を少し下げた申し訳無さそうな笑顔でペットボトルを差し出した。
たどたどしくお礼を言う遥に、女性は「ふふ、いいのよ。お礼なら体でしてくれればいいわ。」とにっこりと笑った。

遥が首を傾げ、どういう意味か尋ねようとした時、また携帯が震えた。
ヴヴ……ヴヴ……。

「あら、携帯鳴ってるわよ?」
「……じゃあ、ちょっと失礼します。」

女性に指摘され、観念した遥は恐る恐る携帯を取る。
通話ボタンを押すと、スピーカーから男の苛立たしげなドスの効いた声が聞こえた

「おい、糞ガキさっさと携帯出ろや。」
「す、すみません……気付かなくて。」

遥は咄嗟に嘘をついたが、男は特に気に止めず舌打ちをして「まぁいい。さっさと電車に乗れ。」とだけ残してブツ切りした。

携帯を耳に当てたまま微動だにしない遥を、不審に思った女性が気遣う視線を送る中、遥は無言で携帯をしまう。

「ちょっと、大丈夫?」
「あ……はい、ありがとうございました……。その、急いでるのでこれで。」
「えっ!?もう行くの?」

「もう少し休憩したほうが……」と勧める女性を断り、ぺこりと頭を下げると遥はそそくさと電車に乗り込んだ。
わざわざ見ず知らずの自分を親切に介抱してくれた女性には、素っ気無い態度をとって申し訳ないと思ったが、遥は男に逆らうことが恐ろしかったのだ。

「ちっ!……逃がしたか。」

車両に入る間際、背後で野太い声がした気がして驚いて振り向いたが、女性ははにっこりと微笑んでこちらに手を振っていた。
気のせいだろう。と手を振り返して車内に進むと、丁度ドアが締まる。

電車が発車し、見えなくなる頃。
女性……いや、男性はぼそりと呟いた。

「ふぅ〜……、あぶねぇあぶねぇ。ボロが出るとこだったぜ。」


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