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「ええーっ!?それじゃあ君は本当に松本君なの?」
「不本意ながらね。」
「はぁー……でも信じられないな……本当にそんな事があるの?猫が人間になったり、人間が猫になったりさ……。」
「僕も今日の昼休みまではありえないと思ってたよ。でも我が身に起こったら信じるしかない。」
あんちゃんは信じられないといったようにため息をはき、胡乱げな眼差しを、不満げににぼしを前足でつついている松本に向ける。
場所を移して俺達は寮の俺の部屋でスナック菓子(松本はにぼし)を食べながら今日、俺と別れてから松本(と思われる猫)の身に起こった出来事を聞いていた。
「疑うようで悪いんだけど、君が本当に松本君だっていう証拠を見せてほしいな。じゃないと大事な親友と同じ部屋に安心して君を置けないよ。」
いつもは控えめで大人しいあんちゃんが、見透かすように、半端な嘘は許さないと言うように目を細めて松本を睨みつけるように見つめる。
「あんちゃん、こいつ本当に松本だよ。よく見て、このやる気の無い目とかもっさりしてるように見えて意外と柔らかい毛!絶対松本だよ、な?」
「啓ちゃん……。」
あんちゃんは心なしか呆れたような視線をこちらにやり、哀れんだような目で松本を見つめた。
「お前、……はぁ。昨日の夜はすき焼き、朝は残りをうどんにした。昼はサンドウィッチ。具は冷凍のからあげとレタス、ツナ、卵。」
「え?」
恨めしげに俺を見つめ、諦めたようにため息をついた後、突然食べ物の羅列を言い始めた松本に俺とあんちゃんはきょとんとする。
「食べたいの?」
「あほ、昨日の夜と今日の朝昼の飯の話。清水も食べただろ?昨日の夜は山内も来てたし昼も一緒に食ったろ。これが証拠。」
「なるほど、さすが松本!」
「確かにそのメニューだったけど、そんなの……」
「あんちゃん。大丈夫だって、心配ならあんちゃんも泊まればいいじゃん!久しぶりに枕投げするか?」
「……わかったよ、啓ちゃんに免じてとりあえずは信じるよ。」
「そうこなくっちゃな!」
観念したようにふっと息をはき、頬を緩めたあんちゃんに俺はにかっと笑いかけた。
「でさ、その赤い髪の魔法使いを捕まえれば松本は元に戻して貰えるってこと?」
「たぶんね。」
「じゃあ今から探しに行こう、まだ敷地内にいるかもしれない!」
松本の肯定の言葉を聞いて、俺はさっそく魔法使い探しに出発しようと意気込んだ。
ところが、
「いや、明日にするよ。」
「ええ!?なんで?こうしてる間にもどっかに行っちゃうかもしれないだろ?」
「そうかもしれないけど」
「けど?」
「腹減ったし。今日はもう疲れた。」
「「はああぁぁあ!?」」
松本のマイペースな答えに、俺とあんちゃんはシンクロして叫んだ。
「あはは、このマイペースというかやる気のなさは松本君だね。疑ってごめんね?」
「別に。」
そっけない松本の態度にあんちゃんが苦笑する。
そんな2人の様子を見て俺はほっとして「ぎゅるるるるる〜」と盛大にお腹を鳴らしたのだった。