きみがすき | ナノ


12



***


「なぁ、さっき何で追い掛け回されてたんだ?ここらに居るカラス達は普段大人しいだろ?よっぽど悪戯しない限り……。」
「カラス……?さっきの忌々しい黒いやつの事?」

少年は一瞬不思議そうな顔をしたあと、嫌そうな顔をして言った。
カラスを知らない……?

「え?そうだけど、お前カラス知らないの?」
「あー……っと、知ってる知ってる!ちょっとど忘れしてただけだって!」
「ふーん。そんで、なんで追っかけられてたの?」
「ゔっ……それは……うーん、あ!それよりさお前なんていうんだ?うまいもん食わせて貰ったから特別に聞いてやる。俺はノエル。」

こいつめ、今あからさまに誤魔化しやがった。
俺の質問に目を泳がせて強引に話題を転換したノエルを半目で睨む。
カラスの事は追々聞く事にして、ここは年長者としてノエルの話にのる事にした。自己紹介は大事だしな。

「……俺は清水啓吾。高等部の一年だけど、ノエルは初等部か?高等部から結構はなれてるのに良くこれたなぁ。」
「……あのさ、ショトウブってなんだ?コウトウブは頭の後ろの事だよな?」

そう自分の後ろ頭を指差して俺に見せるノエル。

「お前、もしかしてここの生徒じゃない?」
「え!?あ、そうそう!ショトウブなんだ俺!」

……絶対分かってないだろ。
この場合ふほーしんにゅう?とかで保護者に来てもらったりしなきゃならないのか?
うーん、先生に相談するべきか?というか名簿調べて貰えばこいつが生徒かそうじゃないか分かるよな。

「なぁなぁ、そんなことよりケイゴは何であそこに居たんだ?俺ばっかり答えてずるいぞ。」
「えっ?あ、そうだノエル。お前あの辺りに居たなら猫見なかったか?赤い猫。ほら今噂になってるやつ。」
「え゙っ!?あ、いや……見なかったかなー……?」

俺の言葉にあからさまに動揺しているノエル。
どう見ても怪しすぎる。っていうかこいつ嘘つくの下手なくせにはぐらかしてばっかだな。

「……見たのか?」
「み、見てないってば!それよりケイゴもその猫探してるのか?なんで?」

何か知っているようだけど、言うつもりはないらしい。
まぁ俺達は初対面だし、願いが叶うかもしれない幸運の猫の情報なんてそうそう教えられないか。
それにしても、赤い猫の事を知っているってことはやっぱり学園の生徒なのか?

「探してるけど……うーん、あのさ。赤い猫の噂でさ?捕まえると願いが叶うってやつあるだろ。」
「そんなものまであるのか!?」
「うん。それでな、俺の友達がたまたま赤い猫捕まえちゃって願いが叶っちゃったんだ。」
「へ、へぇ……。」
「それで願いが叶ったんだけど、その叶えてもらった願いっていうのが猫の勘違いでさ。適当に言った事を願い事と勘違いされちゃったんだ。」
「はぁ!?」
「な?酷い話だろ?それで俺、その猫に頼んで友達の願い事を無しにして欲しいんだ。」
「……。」

心なしか話を聞いているノエルの顔色が悪い。
もしかして具合が悪いのか?と心配し始めたとき、ノエルが口を開いた。

「あ、あのさ?そいつの願い事ってなんだ?」
「それは言えない。」
「そ、そうか。じゃあさ、そいつってぼさぼさの黒い髪で、やる気の無さそうな目してて、やたらシカトしてくる失礼なやつか?」
「失礼な、松本の悪口言うな!」

俺は前に自分も同じような表現をした事を棚に上げて噛み付いた。

「ご、ごめんっ!もしかしてそのマツモトって奴の願いって、猫になりたい。じゃないか?」
「え?何で知ってんだ?」

その瞬間、もともと悪かったノエルの顔からサァーっと血の気が引いた。汗までかいている。

「ノエル?大丈夫か?顔色わるいぞ。」
「……あ、あのさ?ケイゴ。」
「うん?お腹痛いのか?」
「いや、そうじゃなくて……怒らないか?」

俺の様子を伺うようにもじもじと上目遣いでちらりとこちらを見上げてくる。
なんだかさっきからはっきりしないというか、様子がおかしい。最初の威勢はどうしたんだ。

「何を怒るんだ?」
「だから!猫!……俺その猫に心当たりあるんだ……。」
「ええ!?どこにいるんだよそいつ!?」

ノエルが痺れを切らしたように叫んだあとぽつりと言った言葉に俺は驚愕し、その肩を掴んでがくがくと揺さぶった。

「うわっわ……、分かったから!言うから怒んなよ、絶対だかんな?」
「おう、てかそもそも怒ってねーし!はやく戻してやって欲しいとは思ってるけどな。」
「本当か!?」

俺の言葉にノエルは顔をぱっと輝かせて覗きこんでくる。

「ほんとほんと。当の本人が怒ってないのに俺が怒るのもお門違いだろ?」
「そっかそっか!じゃあぶっちゃけるとその猫、俺の事。」
「……は?」
「だから、俺が噂の猫なんだって!」
「へ、へぇ?」
「あ!信じてないなてめぇ!」

ノエルの突拍子もないセリフに半信半疑で尋ねる俺の疑わしげな視線に気付いたノエルが憤慨した様子で地団駄を踏む。

「見てろよ、今証を拠見せてやるからな!」

キッとノエルが俺を睨み付け、ビシッと指を立てながら吼える。

真剣な顔つきで何事か呟く、ポン!と間抜けな音がしてその体が白い煙に包まれた。
煙が晴れて、驚き続きで目をぱちくりさせていた俺の前に現れたのは真っ赤な毛並みに深い緑色の目をした子猫だった。
その猫は二本足で立ち、しっぽでバランスをとりながら腕組みをするとこう言った。

「見たか、どーん!」
「お……おま……はあぁああ!?」
「お、怒るなよ!?約束したからな!?」
「はぁ〜……怒ってないよ。」

あわあわと慌てながら前足としっぽを左右に振る猫を見て、

ってめぇ!しらばっくれやがってさっさと白状しとけよなこんにゃろう!!大体自分が魔法掛けたくせになにほっぽらかしてこんなとこフラフラしてんだよ!?少しくらい様子見に来いよなこのすっとこどっこい!!

……とか色々言いたい事はあったが、怒らないと約束した手前というよりも、魔法使いの正体になんだか気が抜けてしまって言葉がでてこなかった。
そりゃ松本の話には聞いていたけどさ、あんなミステリーサークルみたいな魔方陣を書いちゃって松本を猫の姿しちゃうような、しかも俺達3人(主にあんちゃんと俺)がこれだけ一生懸命探しても見つからないような魔法使いだよ?もっと強烈な、おどろおどろしいものを想像するだろ、普通。

それが……

「な、なんだよその目?なんか失礼なこと考えてないか?」
「べっつにー?本当にノエルそうだったんだなって。」

複雑な視線を送る俺に気付いたノエルが怪訝そうな顔で尋ねてくる。その幼い容姿に眉を寄せた難しい表情がアンバランスで笑いを誘う。

「よっし!ノエルが魔法使の正体なら話しは早いな、いざ松本の元へ!」
「えっ、あのさ謝らないといけないことが……」
「いいっていいって、松本を元に戻してくれるんなら何でも水に流してやるから気にするなよ!ほら行くぞ、れっつらごー!」
「いや、だから……」

やっと松本の姿に戻せると浮かれた俺は、まだ何か言いたそうにまごついているノエルを気にせずその手を掴み寮の玄関へ鼻歌を歌いながら歩き出した。
松本のやつ部屋にいるかな?散歩にでてないといいけど。

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