きみがすき | ナノ


9



***


「便秘ですね。」


あれから、大慌てで寮監室に駆け込んだ俺達は尋常じゃない俺達の様子に何も聞かずにこっそりと外出届を出してくれた寮監さんへのお礼もそこそこにタクシーに乗り込み、最寄の動物病院へ来ていた。

「便がかなりが硬くなって詰まっていたので、ねこちゃんも辛かったでしょうね。今後はねこちゃんに食物繊維の多い食べ物や水分を多くあげてくださいね。」

獣医さんがにっこりと人の良さそうな笑顔で言った言葉に、俺は脱力して床にしゃがみこんだ。
獣医さんがきょとんとしているけど、今はそれどころじゃなかった。

ほっとした。その一言に尽きる。

「良かったね、啓ちゃん。」
「おう。」

腰が抜けてしゃがみこんいた俺に、あんちゃんが腰を折って手を差し伸べてくれる。
あんちゃんも心底ほっとした顔をしていた。
その手を握り返して立ち上がる。

松本は疲れ果てたのかぐったりとペット用のベットのようなものに丸くなって眠りこけている。

 ……まったく心配させやがって。
でも便秘って結構辛いもんな。お疲れ様。

きょとんと俺達を見ていた獣医さんもなんとなく察してくれたようで、にっこり微笑んでいた。


「玉ねぎを食べさせてしまったということですが、そちらの方は特に症状は出ていません。ねこちゃんによって個体差がありますので全く症状が出ない子もいますが、だからと言って体に良いわけではないので、今後は注意して見ていてあげてくださいね。自宅に帰ってしばらく様子を見てあげて、何かありましたらすぐに病院に連れて行ってあげてください。」
「はい!」
「どうぞ、ねこちゃんの好きなものや苦手なものが載っているので見てあげてください。」

そう言って獣医さんは表紙に猫の絵が書いてある薄い冊子をくれた。

「ありがとうございます、お世話になりました!」
「お大事に。」


***


帰りのタクシーでは3人とも気が抜けたのか言葉少なだった。
最も、松本はタクシーの運ちゃんの手前、どっち道話す事は難しかったけれど。

寮に着き、消灯時間も間近だったので寮監さんに今度何かお礼をする約束を取りつけ、各自自分の部屋へ直行した。

「腹減った……。」

部屋に着いて松本をリビングのソファに寝かし、自分もソファに座ると急に空腹感が襲ってきた。
そういえば、なんだかんだで2〜3口しか弁当食ってなかったなぁ。

松本の部屋に置き去りになったままであろう焼肉弁当を思いだす。
松本の食いかけなのは別に構わないけど、猫の姿の松本は箸を使えない。よって、「食い荒らされた」と言うと表現は悪いが、まぁ猫飯状態になっているのだ。
正直食べる気分にはなれない。

購買、開いているだろうか?
ダメ元で行ってみようかな。
あぁ……でも、暫く様子を見てろって先生にいわ……れ……。

悶々と考えているうちに、空腹の次は睡魔が押し寄せてきて、気付けば俺はその波に流されていた。

朝起きると、俺の隣で丸くなっていたはずの松本はちゃっかり自分のベットの中で気持ち良さそうに眠っていて、俺はソファから落ちて床で寝ていた。

腹を出して寝たのが祟ったのか、今度は俺が腹痛に悩まされたのだった。

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