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初めて陵南に来た時は躊躇する事無く開けた体育館の扉を、今は生唾をごくりと飲み込むくらいには開けるのを躊躇している
洋平の言葉に勇気を貰って勢いで来たはいいけれど、躊躇している間に何個も浮かぶ最悪な光景をその度に頭を振って消して

「考えるだけ無駄!」

この数ヶ月
この頭で考えて何か答えが出たか
否、何も出ない
ただ無駄に時が経っては状況は悪化していた気する

ガラガラガラと意を決してなるべく静かに開けたはずなのに大きな音がなった扉のおかげで、やはりというか当たり前というか向けられる視線の数は多かった
思わず こんにちは と頭を下げていまう程に
そしてやはり来るのでは無かったという後悔に足が1歩後ろへ下がりかけた時に聞こえた自分の名前を呼ぶ声に頭をあげる

『うちに来たら怒られちゃうでしょ』

少し驚いて心配そうな顔をする彰君が私の方へ近づいてくる

「な、内緒で来たから大丈夫」

あんまり無闇に他校へは行かない方が良いよ と小暮っちやゴリ先輩、彩子ちゃんに言われた事を思い出し少しだけ慌てるが、いや、今はどうでもいい

「彰君に!…会いたくて」

来ちゃったの としりすぼみになってしまった言葉は口から勝手に出てしまった言葉で、突然自分の中に込み上げるこの恥ずかしさは彰君の前だからなのだろう
そう考えると彰君は凄い
初めて会った時と私を好きだと言った後でも、私に接する態度は同じだった
私は自分の気持ちを伝えてない癖に、こんなにも恥ずかしくて慌てふためいて、まともに顔すら見られないのに

『今練習中なんだ』

困ったような声色にやはり来るべきではなかったと目に涙がたまった
こんなにも泣き虫であったのかと自分で驚く位には涙腺はゆるゆるだ

「ごめんなさい、帰るから」

だからそんな風に困って欲しくないと踵を返せば

『あと1時間ちょっと時間ある?』

時間なんていくらでもある
暇すぎて朝っぱらから洋平巻き込んで海に行ったくらいだし
ある という意味で首を縦に振ると、じゃああそこに座って待ってて と言う彰君
あそこと指さしたのは舞台で、言われるがまま舞台の端に座って待っていようと近づけばふわりと浮いた体

『部活終わったら一緒に帰ろう』

私を簡単に持ち上げ、舞台の端に座らせた彰君はいつもみたいに柔らかく笑った



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