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授業も終わり、特にやることも無いので帰ろうかと教室を出た
それなのに突然掴まれた腕を引っ張られる力で教室へと逆戻りすると、目の前には楓が立っていた

[お前…仙道と]

朝の話の続きだろうか
だけど楓と絶交中の私に話す事は無いので、無視して持っていた鞄を思いっきり楓にぶつけた
驚きと衝撃でよろけたその隙に猛ダッシュで逃げる
途中で 廊下は走るな! と先生に注意されたけどそんなのは今聞いてられない

「上履きのままはズルくない」

校門を抜けるという寸前で楓に捕まった
私はちゃんと下駄箱で靴に履き替えたのに、楓は上履きのまま校門まで追いかけてきたのだ

[何怒ってんだ]

いつも以上に鋭い目付きをする楓
明らかに怒っているのは私ではなく楓の方だ
もう一度言うが、楓と絶交中の私に話す事はない
だから掴んでいる手を離して欲しい

『ストップストップ』

後ろから回る腕が私の体を包み込み、器用に楓の手から私を引き離した

『女の子は丁寧に扱わなきゃ駄目だよ流川』
「彰君!」

見上げると少し体を離し どうも と笑う彰君

[何でお前が]
『名前ちゃんに会いに来たんだよ』

楓の彰君を見る目がキッと鋭くなるのを彰君は気づいてるのかそうじゃないのか、相変わらず顔は笑ったまま

『一緒に帰ろうってメールしたんだけどさ、返事無いからとりあえず来ちゃった』
「あ、充電切れちゃったんだよね、ごめん」
『大丈夫だよ』

昨日の夜、充電器を刺さずに寝てしまったので彰君にメールを送ったすぐ後に携帯は使い物にならなくなってしまっていた
こうやって無事に会えたんだし なんて笑う彰君は、やっぱり今日も無事にナチュラルタラシだ

[お前ら…]

いい加減に離れろ って楓に言われて気がついた

「彰君こわ!」

無意識に私は彰君に体を預けるように寄り添い立っていた
彰君も彰君でそんな私をナチュラルに受け止めている
この居心地のいい存在に抗える人間は居るのだろうか?
とりあえず私は抗えないので、というか絶交中なのに気安く話しかけてくる楓の言うことを聞くのも癪に障るから

『ん、なになに?』

そのまま私から彰君に抱きつくと聞こえた落ち着いた心音が尚心地良いし、昨日抱きとめられた時にも思ったけど、彰君から香る洗剤のような制汗剤のような爽やかなのに柔らかい匂いがなんか好き
おおきな手で背中をぽんぽんと撫でられると何だか眠たくなるし

『帰ろうか?』

胸元にぐりぐりと顔を擦りつけて閉じたくなる目を必死にあけ頷くと、彰君は私の手を引いて歩きながら楓に何か言っていたけど、駄目無理、眠すぎる



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