悲しくも時は容赦なく流れていく
目覚めることも無くただベッドに横たわる峯さんを見つめるだけの歯がゆさ
様子を定期的に見に来る医者達は、日を増す事に渋い顔をする
そして1週間が過ぎた日

[もう、覚悟を決めた方が]

すっかり顔色も良くなった兄と私に決断を委ねる
このまま生かし続けるか、それとも
傷は順調に回復に向かっているのに、何故か目が覚めぬこの状況に医者もお手上げなのだ

[峯は…死にたいのかな?]

峯さんに伸ばされた手を叩く
そんな考えならばこの人に触れて欲しくないと言うように

「私は諦めない」

諦めてなるものか
私だけでも諦めずに居たならば、峯さんはきっと目覚めてくれる

「私はいつまでも待つ」

それからどれ程月日が経てど、私の強い意志に周りは何も言わずに居てくれた
季節も変わろうとしていて、窓からは心地の良い風も入ってきた

「そろそろ桜も咲きそうですね」

去年は仕事で欠席したんだから今年のお花見はちゃんと出席しなきゃと峯さんの手を握る
話しかける時はいつだって手を握った
その度に思い出す生前の峯さんの手

「貴方の手はいつもあんなに冷たかったんですか?」

転びそうになった時に助けてくれた手が忘れらない
初めて触れた手
あんなにも冷たい手を私は他に知らなかったから
手が冷たい人は心が悲鳴をあげている
心が助けてくれと、本人も知らぬうちに手を使ってSOSを出しているのだと聞いた事がある

「今温かいのは…この状態が良いということですか?」

私の強い意志にだって迷う時もある
本当にこのまま延命行為をしていいのか

「起きたら又、あの冷たい手になってしまうのでしょうか?」

私が少しでも温めてあげることは出来ないのだろうか
そう思うくせに昔の私も今の私も、その思いを伝える勇気は無い

「ずっと好きでしたって伝えてしまったら困ってしまうでしょ」

溢れ出した涙は簡単には止まらなかった
何度涙を流してもこの思いだけは流せなかった
叶わぬ恋なのは重々分かっている
だからこそ飲み込み消し去りたかったのに

「愛してるなんて、伝えてしまったら困ってしまうでしょ」

大きくなる思いを止められなかった
好きかもしれないと意識し始めた時から、こうなってしまう迄が早かった
早すぎて止められなくて
自分でもびっくりするくらい重いものになった
涙をできる限り拭って花瓶に手を伸ばす

「お花のお水をかえてきますね」

そして花瓶を手に洗面室に入った
鏡を見ると酷い顔が映る
こんな顔で峯さんの元に戻れないと、崩れたメイク部分を落とし、花瓶の水を入れ替えた
そしてベッドに眠る峯さんの元へ戻ろうと扉を開けたようとした瞬間
ピー!!!と鳴り響いた電子音に重なる花瓶の割れる音
嫌だ、嫌だと短い距離なのに転びそうになりながらやっとベッドにたどり着くと

「うそ…」

薄らと開けられた目と視線が会う
そして手には外されたケーブルが握られていた



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